第47回「SGI提言」を読む(上)――コロナ禍からの再建の焦点

ライター
青山樹人

通算40回目となった提言

 51カ国の創価学会の代表がグアムに集ってSGI(創価学会インタナショナル)が結成されたのは1975年1月26日。この日はのちに「SGIの日」と定められた。
 以来、SGIは仏法の生命尊厳の理念を基盤とする地球市民のネットワークとして発展し、今やこの「創価の連帯」は192カ国・地域に広がっている。
 冷戦下で第2回国連軍縮特別総会が開催された翌年(1983年)の1月26日、池田大作SGI会長は「平和と軍縮への新たな提言」と題する記念提言を発表した。
 以来、毎年の「SGIの日」に合わせて出されてきた記念提言では、核廃絶、環境、人道、教育、防災など人類共通の重要な課題がとりあげられてきた。
 そこに一貫しているのは常に具体的な方途の提案であり、市民社会とりわけ青年や女性の持つ力をエンパワーメントして国連を中心とした議論の場にはたらきかけ、民衆の意思と英知を可視化して人類の未来を切り開こうとするSGI会長の信念だ。
 冷戦終結を実現した米ソ首脳会談の開催や、SDGs(持続可能な開発目標)の制定、核兵器禁止条約の制定など、実際の人類史を先取りすることになった提言内容も多い。
 通算40回目となる本年の記念提言は「人類史の転換へ 平和と尊厳の大光」と題するもの(「創価学会公式ホームページ」)。提言の骨子をたどりながら、そこでSGI会長が何を重視し、仏法者の立場からどのような智慧を提示しようとしているのか、上下2回にわたって考えてみたい。
 
 WHO(世界保健機構)が新型コロナウイルス感染症のパンデミックを宣言したのが2020年3月。昨年に引き続き、今年の提言も世界がコロナ禍に覆われたなかでのものとなった。
 会長ははじめに、人類史を画するものになるかもしれないコロナ禍の深刻な被害に触れつつ、〝甚大な被害の記録〟だけで終わらせてはならないとし、

歴史の行方を根底で決定づけるのはウイルスの存在ではなく、あくまで私たち人間にほかならない

との信念を披歴している。
 どのような危機に対しても、それをどう転換し打開するかは人間の手にかかっているというのが会長の変わらない信条だ。

旧来の社会契約思想からの脱却を

 コロナ危機をはじめとする人類の諸課題の打開へ、会長は3つの要点を示す。
 第1は「社会のあり方」の転換だ。特定の地域が見舞われる従来の災害と違って、コロナ禍は地球全体に被害をもたらしている。
 弱い立場の人ほど深刻な打撃を受ける「打撃の格差」が起きていると同時に、場所に関係なく個々人の立場や境遇の差に起因する「回復の格差」が生じていることを会長は指摘する。
 仮にある地域や国の統計的な数字が改善されていても、そのなかには依然として取り残されている人がいるのだ。
 近代以降の社会契約論は、「能力においてほぼ平等で、生産的な経済活動に従事しうる男性」のみを主体に想定し、互いの存在が利益を生むという相互有利性に重心を置いてきた。
 今回のパンデミックが明らかにしたのは、女性や子ども、高齢者、障がい者が今なおそこからこぼれ落ちていることだった。
 会長は、こうした事態と正面から向き合い、「相互有利性」を第一とする思想から脱却する時が来ていると呼びかける。
 維摩経に示された「同苦」の感覚を挙げながら、世界中で多くの人が病み苦しんでいる状況における「健康」とは何なのかと会長は問う。
 そして、友人であった経済学者ガルブレイス博士の言葉を引きつつ、めざすべきは〝いかなる試練も共に乗り越え、生きる喜びを分かち合う社会〟であり、自らが誰かを「支える手」となって共に喜び合う関係の深化だと語る。

「パンデミック条約」の制定を

 第2は、地球大に開かれた「連帯意識」。コロナ禍で起きているのは、一部先進国とその他の国における医療とりわけワクチン供給の深刻な格差だ。
 会長は第二次世界大戦の直後(1948年)に創設されたWHOの設立の経緯に触れ、WHOが「国連」ではなく「世界」という言葉を名に冠しているのは、国連加盟国であるなしに関係なく手をさしのべる考え方にあったと紹介した。
 昨年のG7サミット首脳宣言に言及しつつ、今後も繰り返されるであろう新たなパンデミックに対し、共同で備えるための「パンデミック条約」のような国際ルールの制定を主導することこそ主要国の責任であること。その責任とは大国の義務ではなく、人類の連帯の意思の表明にほかならないことを語っている。

人々に希望を灯す経済の創出

 第3は、若い世代が希望を持ち女性の尊厳が輝く「経済」の創出。
 経済の再建が急務であるとしても、なにより重要なのは人々が希望をいだき、尊厳を取り戻すことだ。会長は2019年にノーベル経済学賞を受賞したマサチューセッツ工科大学のアビジット・バナジー博士とエステル・デュフロ博士の著作をひもときながら、論を進める。
 働くということは、単に所得を得ることでもGDP(国内総生産)の数字を上げることでもない。私たちは経済をとらえる視点の歪みを修正しなければならない。
 とくに何らかの困難や問題を抱えた人にとって、働く場を得ることは、それ自体が回復へのプロセスとなり得る。そのためにも、すべての人にとって「働きがいのある人間らしい雇用」が必要となる。
 カギとなるのは、社会の側にとっての「働く」ということの意味の転換であり、谷間に置かれた人に対するまなざしの転換だ。
 世界では15歳未満が19億人、60歳以上が10億人、障がいを持った人が12億人と推計されている。日常生活に何らかのケアを必要とする人が多数いるのだ。
 これまで多くの国で、こうした家族へのケアは主に女性が無償で担わされてきた。コロナ禍はその負担をさらに重くしている。
 2021年に国連女性機関などが主催したフォーラムでは、ジェンダー平等の達成に向けたグローバル計画のなかで、「経済的正義と権利」が重視された。そこでは女性が無償で担ってきた負担を社会で分担できるように、ケアの仕事を有償で担ってきた人の待遇改善と、ケアに関する雇用機会の新たな創出が推奨された。
 人々が希望と尊厳を持って働ける社会を創出するためには、なによりも「ジェンダー平等」の推進が急務だと会長は指摘する。
 1995年制定の「SGI憲章」を発展させる形で、昨年(2021年)「創価学会社会憲章」が制定された。そこでは「ジェンダー平等の実現と女性のエンパワーメントの推進に貢献する」という項目が掲げられている。
 すでにSGIは国際機関などと共同して、貧困地域の女性をエンパワーメントする活動としてアフリカでの森林再生支援プロジェクトなどを推進している。

第47回「SGI提言」を読む:
第47回「SGI提言」を読む(上)――コロナ禍からの再建の焦点
第47回「SGI提言」を読む(下)――核廃絶こそ人類の宿命転換

創価学会公式サイト「記念提言のページ」

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あおやましげと●著書に『宗教はだれのものか』(2002年/鳳書院)、『新装改訂版 宗教はだれのものか』(2006年/鳳書店)、『最新版 宗教はだれのものか 世界広布新時代への飛翔』(2015年/鳳書店)など。WEB第三文明にコラム執筆多数。