2021年「永田町の通信簿」①――信頼失った立憲民主党

ライター
松田 明

新体制でも冷ややかな有権者

 47歳の新代表が選出され、新執行部で船出したものの、立憲民主党への国民の期待は冷めきったままだ。
 時事通信社が12月10~13日に実施した世論調査では、立憲民主党の新執行部に期待するかという問いに「期待しない」が46.6%。「期待する」の23.3%をダブルスコアで上回った。
 朝日新聞社が12月18~19日におこなった調査でも傾向は同じ。これからの立憲民主党に「期待する」は40%で、「期待しない」は43%にのぼった。
 2012年暮れに政権交代して以来、与党への逆風はいくつもあった。
 とくに安倍政権の末期には、政権のおごりというべき不祥事や、公文書の改ざんや廃棄など、民主主義の根幹にかかわるような問題が露見した。
 さらにこの2年は新型コロナウイルスのパンデミックという未曽有の国難のなかで、政権与党は常に人々の不満や批判の矛先を向けられる立場だった。
 一方、野党第一党の立憲民主党は政権交代を掲げて、2020年9月には国民民主党の一部とも合流。150人の大所帯となっていた。
 さらに日本共産党とも連携を深め、先の衆議院選挙では289ある小選挙区のうち7割を超える213の選挙区で「野党統一候補」の擁立を果たした。
 ところが、投票箱が開いてみると自公が圧勝。野党では日本維新の会が大きく議席を伸ばし、消滅の危機さえささやかれていた国民民主党も議席増。立憲民主党と日本共産党は大敗し、立憲民主党では結党から同党を率いてきた枝野幸男執行部が退陣する結果となった。
 代表選挙の結果、泉健太氏が新代表となって出発したわけだが、なぜ立憲民主党は今なお有権者の期待を集められないのだろうか。

「内向き志向」で「政策立案能力なし」

 作家の高村薫氏は『サンデー毎日』に連載する「サンデー時評」で、野党第一党の不甲斐なさを厳しく批判している。氏は〈健全な国政のために立憲民主党の再起を願う〉としたうえで、その道の険しさを嘆いた。

 4人が手を挙げた先の代表選挙も、総選挙での敗北の原因の総括もせずに新たな出発を連呼するばかりで、中学校の生徒会長選挙でももう少し具体的な公約が聴けるのにと思った有権者も多かったことだろう。
 しかも敗因の総括がないだけでなく、4人の候補者がそれぞれの主張の違いを示せないという事実もまた、政党としての建て付けの悪さや、具体的な政策より理念が先行しがちなこの党の本質をよく表しているが、これでは国政政党たり得ないと言うほかはない。(『サンデー毎日』12月26日号)

 そして、立憲民主党が有権者の支持を失っている原因として2つのことを挙げた。
 1つは、〈旧世代のコアな「左派系リベラル」の支持層〉だけを見ている内向き志向。この支持層は、冷戦終結から世界は多極化・多層化しているにもかかわらず、世界の現実を直視しようとしない〈平和憲法と反原発と人権の三つで世界を語ってきた〉〈頑迷な思考停止が続いている〉人々だと高村氏は指摘する。
 この数年、政府与党が若い世代の声に積極的に耳を傾け、世代間格差の解消に政策の舵を切ってきた一方で、立憲民主党は高齢支持層への配慮から年金制度改革や後期高齢者の医療費負担増に反対するなどしてきた。
 実際、出口調査からも立憲民主党に投票した人の過半数が65歳以上の高齢者で、若い世代や現役世代から忌避されていることが明らかとなっている。
 もう1つは、〈政策立案能力への疑問符〉と高村氏はいう。
 総選挙で掲げた「1億総中流社会を取り戻す」といったスローガンは、まさに昭和のメンタリティを意識したもの。今の若い世代や現役世代にすれば、政権交代を掲げる野党第一党がそんなフレーズを出したこと自体、もはや失望でしかないだろう。
 立憲民主党は「法人税率引き上げ」「金融所得課税引き上げ」など明らかに経済の失速を招く公約を掲げながら、「年収1千万円までの個人所得税免除」「消費税率5%への引き下げ」といった非現実的な甘言を弄した。
 とてもではないが、こんな政策しか出せない政党に政権を担わせるわけにはいかない。多くの票が日本維新の会や国民民主党に逃げたのも当然の結果だった。

民意は「共産党との共闘」望まず

 そして、最大の誤りはその「旧世代のコアな左派系リベラル」しか見ない視野狭窄のまま、日本共産党との連携を深めたことだった。
 有権者は選挙の争点としては「経済」「社会保障」を重視するが、それは「国のかたち」や「外交・安全保障」は基本的に現状を変えないということが半ば自明の前提になっている。
 日本共産党は、党の綱領に日本国憲法とは異なる「社会主義・共産主義の社会」の実現を掲げ、日米安保や自衛隊の廃止、象徴天皇制への否定を明言する政党。その日本共産党と限定的とはいえ「閣外協力」することを打ち出したのは、憲政史上で立憲民主党がはじめてだった。
 前述の時事通信社の調査では、日本共産党との共闘路線を来夏の参院選でも続けるべきかとの問いに「続けるべきだ」と答えたのは15.4%。「続けるべきでない」は約3倍の43.8%にのぼった。
 朝日新聞社の調査では、日本共産党との選挙協力を「進めるべきではない」が52%と過半数に達し、「進めるべきだ」は21%にとどまっている。
 12月16日に衆院選の「総括」を発表した連合の芳野友子会長は会見で、

連合の組合員からすると、共産党との関係はありえない。立憲民主党の新しい執行部にも「共産党と決別すべき」という連合の考え方を伝えていきたい。(「NHKニュース」12月16日

と述べた。
 民意はもはや明確で、立憲民主党が日本共産党との共闘を続けるかぎり、政権交代の選択肢と見なされることはなく、幅広い有権者の支持は得られないだろう。
 理念ばかりが先行し、多様な価値観が理解できず、若者の未来より高齢者の票を優先し、政策立案能力があまりにも欠如し、革命政党に抱きつかれている。
 立憲民主党が新執行部で船出しても有権者の信頼や支持を回復できないのは、こうした負のイメージが何重にも絡みついているからだ。
 批判一辺倒をやめて提案型の野党になるのも大事だが、野党第一党として抜本的に方向転換すべきことが多々あるのではないか。朝日の調査では支持率でも日本維新の会に抜かれている。このままでは早晩に行き詰まって、また仲間割れを起こすしかなくなるだろう。

2021年「永田町の通信簿」:
①信頼失った立憲民主党
②広がった日本共産党への疑念
③(近日公開)

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