世界宗教化する創価学会(下)――「体制内改革」のできる宗教

ライター
青山樹人

公明党の与党化が意味するもの

 創価学会が〝魂の独立〟を勝ちとって以来の30年のあいだに、創価学会の「世界宗教化」が加速したことと、国内において公明党が連立与党の一翼を担うようになったことは、ある意味でパラレル(同時進行)の出来事である。
 創価学会の内在的理論を深く理解する作家の佐藤優氏は、2017年に創価大学でおこなった課外連続講座で次のように述べた。

日本では公明党が与党の一角を占めるようになったことについて、「権力にすり寄ってけしからん」といった、的外れな批判がよくあります。しかし、創価学会の世界宗教化という流れがここ二〇年来にわたり加速していることを考えれば、公明党が与党化したのはむしろ必然と言えます。(『世界宗教の条件とは何か』

 その理由として佐藤氏は、世界宗教が「反体制的ではなく既存の社会システムを認めたうえで〝体制内改革〟を進めていく」という共通項をもっていることを挙げる。
 どのような国家であれ、統治する権力には常に何らかの批判を浴びる問題点や暴力性、暗部が伴うものだ。そのようなものを免れた無謬の国家体制などあり得ない。多様な価値観のなかには仏法のそれと相容れないように思われるものもあるだろう。同じ国でもその時々の政権によって排外主義的な政策や何らかの軍事的選択をすることもある。
 そうした場合、ことあるごとに教条主義的な「正義」かざして体制を批判し、その〝打倒〟を主張するならば、創価学会は常に国家を敵視する教団になりかねない。会員を国家との対決に扇動するような宗教は、社会から受け入れられない。
 初代会長は信教の自由を貫いて殉教したのであって、国家体制の打倒を会員に呼びかけたわけではない。

(日本と世界各国の創価学会は)その国の国体(国の基礎的な政治の原則)に触れるような行為は決して行わず、既存の社会のシステムにすんなり溶け込んでいます。
 そして、世界宗教が体制内改革を標榜するものである以上、その改革を進めるためにいちばん力を持った存在である与党と結びつくのは必然なのです。(同)

 多様な価値観と合意形成しつつ、既存の体制の内側から社会を改革していく力をもつ宗教のみが、真に世界宗教になり得る。創価学会もまた忍耐強く、国民のあいだに、そして国際社会に、より人道的なコンセンサスをつくり出していくことで、国家の暴力を抑制しようとしてきた。
 極端な専制国家は例外として、信教の自由が保障されるかぎり、どのような体制の国家でも創価学会はその国の文化や価値観を尊重し、他宗教と対話し〝よき市民〟として社会に貢献することをめざす。
 一方で各国の会員は、池田SGI会長の指導のもと「世界市民」としての自覚をもち、人類益を見つめて行動している。
 ナショナリズムを超克した宗教という意味で、やはり創価学会は「世界宗教」の要件をすでに備えているのだ。

「世界市民」の連帯としてのSGI

 創価学会は諸外国では政党をつくらないことを表明している。どこまでも、一人ひとりの「人間革命」を基軸として社会に貢献していく。もちろん、この方程式は公明党という支持政党をもつ日本の創価学会でも変わらない。
 同時に日本で公明党が与党の立場にあることは、そのまま世界各国から見て、創価学会が現実的な国際社会の課題解決と協調に寄与する能力をもち、社会の安定を図りながら漸進的な「体制内改革」のできる教団であることの証明にもなっている。
 2017年にICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)がノーベル平和賞を受賞した際、ノルウェーのノーベル賞委員会はSGIの代表を授賞式に招いた。これは、SGIがICAN創設時から国際パートナーとしてその活動に手を携えてきたからだ。
 では、なぜICANは創設時に、仏教団体であるSGIに国際パートナーとなることを要請したのか。

ICANを立ち上げた時、SGIと協力したいと考えたのは自然なことでした。多様な人々によるグローバルな連帯と貢献――ICANが目指していたものを、SGIは体現していたからです。(ティルマン・ラフICAN国際運営委員/『聖教新聞』2017年12月16日)

 ICANの創設は2007年。母体となったIPPNW(核戦争防止国際医師会議)は1980年代から創価学会と交流がある。創価学会が「多様な人々によるグローバルな連帯と貢献」の運動であることを、ICANを立ち上げた人々は深く認識していたのだ。
 国連の諸機関はじめ、たとえばICANやバチカンと創価学会の信頼関係は、こうした漸進的な「体制内改革」の能力と、そのグローバルな「世界市民」の連帯への認識と評価のうえに成り立っている。

「人間のための宗教」として

 30年前に日蓮正宗が魔性の本質を露わにしたことによって、全世界の創価学会員は3つのことを自覚することができた。
 第1に、創価学会こそが広宣流布をめざす日蓮大聖人直結の唯一の教団であること。
 第2に、宗教の権威に人間が従属するのではなく、「人間のための宗教」こそ新たな千年紀に人類が求めている宗教であること。
 第3に、大聖人の遺命である広宣流布を現実のものとしてきた創価の三代の会長なかんずく池田会長こそ、広宣流布の師とすべき存在であること。
 2014年11月、創価学会は会則の教義条項を変更し、教義においても独自性をもつことを宣明した。
さらに2017年9月には、全世界の創価学会の団体と会員の最高法規として「創価学会会憲」を制定した。

牧口先生、戸田先生、池田先生の「三代会長」は、大聖人の御遺命である世界広宣流布を実現する使命を担って出現された広宣流布の永遠の師匠である。「三代会長」に貫かれた「師弟不二」の精神と「死身弘法」の実践こそ「学会精神」であり、創価学会の不変の規範である。日本に発して、今や全世界に広がる創価学会は、すべてこの「学会精神」を体現したものである。(創価学会会憲「前文」)

創価学会会憲には、その「教義」として、

この会は、日蓮大聖人を末法の御本仏と仰ぎ、根本の法である南無妙法蓮華経を具現された三大秘法を信じ、御本尊に自行化他にわたる題目を唱え、御書根本に、各人が人間革命を成就し、日蓮大聖人の御遺命である世界広宣流布を実現することを大願とする。(創価学会会憲「総則」第2条)

と明記されている。
 日蓮正宗が宗祖の精神を踏みにじる奇怪な法主信仰、僧俗差別の集団になり果てたのに対し、創価学会はあくまで日蓮大聖人を末法の御本仏と仰ぎ、「御書根本」に広宣流布に進む。
 そのうえで「三代会長」を「広宣流布の永遠の師匠」として、その精神と実践を継承する。創価の三代の会長がどのように振る舞い、どのように生きたかは、歴史的事実として明確に残っている。
「永遠の師匠」と定めるということは、いわゆる神格化のようなものではない。師匠の誓願をわが誓願として共有し、師匠が振る舞ったように他者を尊敬し、師匠が戦い勝ったように自身の人生の困難に打ち勝っていくことをいう。
 佐藤優氏は「師弟関係」は世界宗教の要件だと語る。

一つの宗教が世界宗教になるためには、長い年月と多くの人材が不可欠だからです。どんなに偉大な宗教的リーダーも、一代では世界宗教化を完成させられません。だからこそ、弟子たちに自分亡き後の使命を託さなければならない。そのような弟子たちを育成できなければ、世界宗教化への流れはそこで途絶えてしまうからです。(『世界宗教の条件とは何か』)

 2021年11月には、従来の「SGI憲章」(1995年制定)を改定するものとして創価学会社会憲章を制定。日本と世界の創価学会員が世界市民として草の根で実践する社会貢献活動について、10項目の「目的及び行動規範」を明らかにした。

創価学会は、仏法の寛容の精神に基づき、他の宗教的伝統や哲学を尊重して、人類が直面する根本的な課題の解決について対話し、協力していく。(「創価学会社会憲章」

 独善的な日蓮正宗の鉄鎖から解き放たれて30年。創立100周年となる2030年に向けて、創価学会は「世界宗教」としての基盤を着々と整えつつある。

「世界宗教化する創価学会」:
世界宗教化する創価学会(上)――〝魂の独立〟から30年
世界宗教化する創価学会(下)――「体制内改革」のできる宗教

創価学会創立90周年特集(全40回):タイトル一覧

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あおやましげと●著書に『宗教はだれのものか』(2002年/鳳書院)、『新装改訂版 宗教はだれのものか』(2006年/鳳書店)、『最新版 宗教はだれのものか 世界広布新時代への飛翔』(2015年/鳳書店)など。WEB第三文明にコラム執筆多数。