立憲民主党は何を誤ったのか――選挙結果から見えるもの

ライター
松田 明

「野党に期待できないから」

 今回の衆院選の結果をどう総括するか。
 まず自公連立政権から見れば、与党で過半数(233議席)を上回る293議席(自民党の追加公認を含む)を獲得。「連立政権に対する国民の信を得た」といってよいだろう。
 公明党は9小選挙区を完勝したうえ、比例区の得票数も前回2017年の選挙を上回って29議席から32議席に伸びた。
 自民党は議席を減らしたものの「単独安定多数」の261議席を獲得。自公の選挙協力が深化して、比例区では前回から約136万票を増やした。岸田首相の政権基盤はとりあえず安定したといえる。
 ただし、朝日新聞が6、7日におこなった調査では、

10月の衆院選で、自民党が過半数を大きく超える議席を獲得したことは「よかった」が47%で、「よくなかった」34%を上回った。過半数超えの理由は「自公の連立政権が評価されたから」が19%で、「野党に期待できないから」が65%に達した。(『朝日新聞』11月7日

 後述するように、今回は立憲民主党と日本共産党への〝期待のなさ〟がもたらした与党の過半数でもあり、ここから気を引き締めて政権運営にあたらなければ、来年の参院選で厳しい結果を示されかねない。

「有権者が愚か」という傲慢さ

 事前の各社予測で「議席増」と報道されていた立憲民主党は前回議席を割り込み、とくに比例区で大敗して、執行部が辞任する最悪の結果となった。野党共闘で日本共産党が候補者を下ろした選挙区ではたしかに野党票が伸びたが、逆転勝利につながったところは少なかった。
 日本共産党は比例票も減って目標の半分にも届かず、議席も減らした。どう見ても大敗北だが、志位委員長は「党の方針は正しかった」と強弁して「責任はない」と辞任を否定した。
 野党第一党が日本共産党との「閣外協力」を明言して政権交代に挑んだ衆院選。しかし、有権者の多くがそんな危うい政権を望んでいないことに、立民の執行部は開票結果が出そろうまで気づかなかったようだ。
 共同通信社が1、2両日に実施した全国緊急電話世論調査によると、野党共闘を「見直した方がいい」が61.5%に上った。
 天下り斡旋問題で文科省事務次官を退任した前川喜平氏は選挙結果に対し、

政治家には言えないから僕が言うが、日本の有権者はかなり愚かだ。(11月3日のツイート

とツイート。こういう〝選民思想〟的なエリート意識の強い特異なインフルエンサーや、SNSのなかだけに閉じた〝ハッシュタグ・デモ〟のようなものに囲まれて、典型的なエコーチェンバーに陥っていたのが立憲民主党だったのだろう。
 国民民主党の玉木代表は4日、今後は立憲民主党、日本共産党、社民党との国会対策委員長会談から離脱すると発表。9日にも維新との幹事長・国対委員長会談を開催し、憲法改正論議の促進などをめざすという。

もはや破綻した「反安保」共闘

 近くおこなわれる立憲民主党の代表選挙では、日本共産党との関係の見直しが焦点になる。これまで党内でも共産党との連携強化に熱心だった議員が、早くも距離を置く姿勢を口にするなど、いつもながら旧民主党勢力の変わり身の早さには感心する。
 この「野党共闘」は、2015年9月に「平和安保法制」が可決成立した直後から、日本共産党が当時の民主党などに強くはたらきかけたものだ。
 形式上は「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」を介した共闘だが、同組織を率いてきた政治学者の山口二郎氏は、衆院選直後の自身のツイッターで、

結局、政党の特殊事情を隠蔽する覆いという役割を持ってしまった。(11月2日のツイート

2015年の安保法制反対運動を起点とする市民運動と野党の協働という文脈はここでいったん終わることを認めるべき。(同)

と表明した。
 ひたすら「戦争法」「徴兵制がはじまる」と煽り立てることで野党を引き寄せ、野党連合政権を樹立したのち、体制を転覆させて共産主義国家に革命するという日本共産党の戦略。
 これに旧民主党の主だった面々は6年間乗せられ依存していた。
 今回の立民・共産の敗北は、この共闘がもはや破綻したことを物語っている。

違いを強みに変えている自公

 自民党と公明党は多くの地方議員によって全国の地域に根を下ろしているうえ、組織に支えられているとはいえ、その構成員の価値観はかなり多様なのだ。
 合意形成能力が成熟しているので、互いの不得意な部分を補い合い、カラーの違いが結果的により幅広い有権者のニーズにこたえられる構造をつくり出している。
 この点、議席を伸ばした3野党も含めて、今の野党はかなり課題が多い。
 立憲民主党は日本共産党に抱きつかれたことで、支持団体の連合などからも拒絶反応を示された。さらに経済政策や安全保障、社会保障でも価値観に多様性がなく、幅広い有権者をカバーできずに、日本維新の会や国民民主党に票を奪われてしまった。
 出口調査の結果からも、立憲民主党と日本共産党に投票した年代別の円グラフは似通っており、自公が50代以下で過半数を占めているのに対し、立民と共産は60代以上で過半数となっている。
 日本維新の会や国民民主党に投票した人はさらに現役世代や若者の割合が多く、立民がこうした世代から一層敬遠されたことが鮮明になった(withnews「維新に投票したのはどんな人? 比例区の投票、年代からわかったこと」)。
 また、すでに多くの人から指摘されているが、ヒアリングで官僚にパワハラじみた恫喝を繰り返し、国会論戦でも激しい口調で政府を糾弾してきた議員らが相次いで落選した。
 ショーアップされたものをメディアがおもしろおかしく取りあげても、有権者は概して賢明に見ている。求められているのは「対決型」「糾弾型」よりも「課題解決型」「政策提案型」の政党や政治家なのだ。
 ポスト・コロナを見据えた経済政策、次世代への支援、孤独の解消、防災・減災、外交安全保障、環境など、政治課題は多岐にわたる。第2次岸田内閣はスピード感のある政策決定と実行に専念し、国民の信任にこたえてもらいたい。

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