党内からリークされた異常な発言
さる7月28日、立憲民主党の本多平直衆院議員が大島理森衆院議長宛てに議員辞職願を提出し受理された。
この前日、同氏は立憲民主党からの離党と議員辞職を表明していた。
問題となったのは、5月に立憲民主党内でおこなわれた党性犯罪刑法改正ワーキングチーム会合での同氏の発言。
若年の未成年が親族や知人などから性被害に遭った際、現行の法制度では被害者が12歳以下であれば「同意能力」がないとされ強制性交等罪・強制わいせつ罪などに問われる。
しかし、13歳になると「被害者の反抗を著しく困難にさせる程度の暴行・脅迫」がないかぎり、これらの罪状の成立が困難になる。
実際には加害者が実父など近親者で、拒絶することが困難であったり、被害者側が起きている事態を理解できなかったケースがある。
諸外国での動きもあり、昨年から法務省でも「性犯罪に関する刑事法検討会」をひらいて専門家らの意見をまとめていた。
この問題をめぐる立憲民主党ワーキングチームの会合で、出席した外部講師が処罰対象となる年齢を現行の「13歳未満」から「16歳未満」に引き上げるべきだと発言した。
すると複数の議員が異論を唱え、なかでも本多議員が「50代の私と14歳の子とが恋愛したうえでの同意があった場合に、罰せられるのはおかしい」と発言したことが報道され、社会から猛烈な批判を浴びていた。
そもそも非公開だった会合での発言が、なぜマスコミに報じられたのか。
ワーキングチームの寺田学・座長は、本多氏の同趣旨の発言が、報道された5月10日の会合だけでなく5月28日の会合でもなされたことを意見書で報告している。
寺田氏は意見書で、本多氏について「性犯罪被害の『被害』の対象が、むしろ加害者である成人側に向けられているのではないか」とも指摘した。(『産経新聞』7月26日)
枝野氏の秘書だった本多氏
本多氏は松下政経塾を経て1993年に当時の新党さきがけに入党。約10年間、枝野幸男議員の秘書をつとめ、民主党の衆議院議員になった。
今回の一連の対応では、同氏の発言の不適切さは論外として、支持団体や性被害の団体などからも猛烈な批判を受けながら、立憲民主党の対応がきわめて遅かった。
毎日新聞は社説で、
問題発覚から約2カ月がたち、本多氏は「第三者をさらに傷つけ、党にも迷惑を掛けかねない」と離党届を提出した。比例代表で当選した以上、離党したなら議員辞職は当然だ。
党執行部の対応にも問題が多かった。当初、口頭の厳重注意で済ませていた。問題の深刻さについて理解していなかったと言わざるを得ない。(『毎日新聞』7月29日)
と、立憲民主党執行部の認識の甘さを指摘している。
非公開会合での発言が伝聞としてマスコミにリークされ、世論の批判を受ける形で本多氏が辞職する形になったことに、党内や野党支持者の一部からは疑念や不満の声も出ている。
しかも、ゴタゴタはこれでは収まらなかった。
本多氏は前回2017年の総選挙で北海道4区から立憲民主党候補として出馬し自民党候補に敗北。比例北海道ブロックで復活当選していた。
その本多氏が議員辞職したことで、2017年の衆院選で比例名簿の次点だった山崎摩耶・元衆議院議員が繰り上げ当選となった。
山崎氏は現在、国民民主党の北海道連代表。きたる衆議院選挙で比例北海道ブロックの名簿単独1位での立候補が予定されている。
山崎氏は旧立憲の比例で次点だったため繰り上がるが国民に所属する見通し。立憲からは「国民でなく立憲として活動しないと筋が通らない」と不満の声も出ている。(『毎日新聞』7月29日)
「五輪中止」が一転
立憲民主党の迷走は東京オリンピック・パラリンピックをめぐっても続いている。
5月31日に発表した東京都議会議員選挙の公約では「感染拡大の懸念が払拭できない限りは延期か中止を訴え、コロナ対策にヒト・モノ・カネを集中する」と掲げた。
6月11日の会見でも枝野代表は、新型コロナウイルス感染拡大を理由に、五輪の「中止か1年延期」を主張。
さらに実際に五輪が予定どおり開催されたあとになっても、原口一博・副代表が、
新型コロナウイルス感染拡大の恐れがあるとして、23日に開幕した東京五輪の中止を求めた。佐賀市内で記者団に「医療が切迫している。それを押して強行するのは大義がない。今からでも遅くなく、やめるべきだ」と述べた。(「共同通信」7月24日)
と「中止」を要請。
ところが日本選手の活躍に世論が沸きはじめると一転する。
7月29日に会見した枝野幸男代表は、「この段階で中止すれば、かえって大きな混乱を招く」と中止を求めないことを表明。
政権を担うべき政党として、あるべき論と同時に、現実というものを冷静に見極めなければならないと思っている。まずはアスリートの皆さんには目の前の競技に集中して全力を出していただきたい。(「立憲民主党」公式サイト 7月29日)
と発言した。
都議選の公約に「五輪中止」を掲げるポピュリズム的な無責任さもさることながら、開会後も副代表が「中止」と発言したのに、それが5日後には180度変わる。「政権を担うべき政党として」立憲民主党がいかに「現実というものを冷静に見極め」る能力を欠いているかが浮き彫りになった。
その7月29日、立憲民主党の岡田克也・元外相は、
衆議院選挙を終えたあと、来年夏の参議院選挙に向けて、国民民主党との合流を目指すべきだ(「NHK NEWS WEB」7月29日)
と地元で記者団に発言。
だが、同じ日に国民民主党の玉木代表からは、合流どころか、今秋の衆議院選挙をめぐって立憲民主党と一旦は交わした「覚書」について修正を求める注文がついた。このことで立憲民主党からは公然と批判が起きている。
コロナ禍という未曽有の国難にあっても大局に立てず、政権の〝逆張り〟だけに終始してきた感のある野党第一党。
しかも、政権選択選挙となる衆院選に向けて、旧民主党勢力の合意形成さえできないまま、国家観も安全保障政策も一致しない日本共産党とは協力する。その先にめざす政権像とはどんなものなのか。
どこまでも立憲民主党の迷走はつづく。
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