核兵器禁止条約(以下、核禁条約)の第7条5項は、加盟国以外でも赤十字の国際委員会やNGO、地域組織などからの支援受入れを認め、第8条5項ではこれらの組織や非加盟国をオブザーバーとして招聘することとしている。これを受け、日本では公明党の山口那津男代表が日本国のオブザーバー参加を日本政府に提案している。
核兵器廃絶は唯一の被爆国の国民である日本人の強い願いである一方、日米安全保障条約で米国の核の傘の下にある日本国としては、難しい舵取りであることは言うまでもない。筆者は日本が核禁条約を入り口に世界からの核兵器廃絶を目指すならば、もう一工夫が必要だと考える。それは、日本国の現状を鑑みるに、日本政府とそれ以外の役割分担が必要だろうという考え方だ。第2回は、このテーマを掘り下げていく。
広島市と長崎市は核禁条約の支援組織およびオブザーバーに
核禁条約への日本の対応としては、唯一の被爆地である広島市と長崎市が、加盟国による実際の活動を支援し、総会等へのオブザーバー参加をすることが理想的なものであろう。広島市と長崎市の2つの地方自治体であれば、日本政府の抱える複雑な外交関係などに縛られることなく、純粋な活動を期待できるからだ。
特に、第7条5項は「バイラテラル(相互間)」での支援を明記しているため、両県がこれまでの経験を参考に具体的な支援を行うことで、加盟国の活動をより現実味のあるものに近づけることが期待できる。原爆投下から76年を経た現在でも、未だに苦しむ被爆者やその二世の気持ちに寄り添いつつ、本音ベースの活動を実現できることにもつながる。
核禁条約が民間から始まったことの意義
核禁条約の特徴は、第7条と第8条に書かれたこと以外では、国連外の動きが国連の条約に集結したという点にある。
国連は、安全保障理事会の常任理事国(米英仏中露の5カ国で主要核兵器保有国)を中心に活動しており、この枠組みの下、1970年3月には、この5か国以外への核拡散を防ぐ「核不拡散条約(NPT)」を発効している(現在、191カ国・地域が加盟)。しかし、これは5大国等が現有する核兵器の削減・全廃を目指すものではない。しかも、国連はNPTの存在に囚われ続けてきた。結果、核兵器廃絶への扉は開かれて来なかったのだ。
代わりに核禁条約の成立まで尽力したのが、赤十字国際委員会、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)、核拡散に反対する国際科学技術者ネットワーク、国際反核法律家協会などの民間団体であった。彼らの行動は、やがてNPT再検討会議などを通じて国連内部の動きと呼応し、今日の核禁条約の発効に結びついた。なお、ICANは2017年にノーベル平和賞を受賞した。
こうした中で現実のものとなった核禁条約は、民間団体による加盟国の活動への支援や総会などの会合へのオブザーバー参加を認めるという国連としては珍しい内容となっている。来年1月までに開催される第1回総会の場での発表内容に、真の生みの親である民間団体がどのように関係しているかが注目されるところだ。
核禁条約が詳細に禁止内容を定めている理由
核禁条約第1条は、核兵器や核爆発を起こす物(以下、核兵器等)の開発、実験、生産、製造、取得、占有、貯蔵を禁止している。他にも、核兵器等を誰かに移管すること等や、核兵器等を使って誰かを威嚇すること、更には、どのような方法であれ誰かに対して核兵器等の保有を支援すること、一時的であれ国内に保存すること等も禁止している。「禁止」に関して、実務的に考えられる可能性を網羅した、微に入り細を穿つ内容だ。
仮に、日本がこれに署名・批准したならば、在日米軍が日本国内で核兵器を保有することも認められなくなるため、日本にとっては安全保障面からも、また核兵器廃絶の観点からも劇的な変化となる。それは、日本の非核三原則「保有しない、製造しない、持ち込まない」を徹底しようとするものだともいえよう。
しかし、核禁条約は、なぜここまで詳細な禁止条項を置いているのだろうか。
その理由は、核兵器は、少なくとも広島型の原爆であれば、簡単に作れてしまうという現実があるからだ。
筆者は、今から40年前に原子力工学を専門とする大学教授から、「日本の実力では半年あれば広島型原爆を作れる」との話を聞いて怖くなったことを覚えている。それ以降、原子力研究者には必ずこの確認をしてきたが答えは常に同じで「簡単に作れる」だった。一方、原爆製造に必要なプルトニウムを入手することは日本では難しいが、国によっては容易に入手できることもある。核禁条約の第1条で、禁止の対象を「核兵器」だけでなく「核爆発を起こすためのもの」としているのは、核兵器の原材料等の入手まで含めるためだ。
つまり核兵器は、大国が高い技術を駆使しなければ作れないものではなく、小国や過激派組織でもその気になれば比較的簡単に作れてしまう兵器なのだ。敢えて批判を恐れずに表現するならば、今や核兵器は「身近に存在する可能性のあるもの」なのである。
公明党とSGIに求められる役割
核禁条約を実効性あるものとしていくためには、さまざまな課題を解決するために行動できる人達を増やすことが重要である。特に日本のように、自国は核兵器を持たないと宣言していても、国内に駐留する米軍が核兵器を保有しているうえ、核兵器に応用できる技術を持っている国として、核兵器廃絶を実現するための強い意志を持つ人を増やすことも必要となる。
これを実現するには、政治と民間の草の根での2つの動きが重要ではないだろうか。特に、後藤田正晴元官房長官が「平和の党」と評した公明党と、それを支える、国際的機構として「平和と幸福」を目指すSGI(創価学会インタナショナル)との役割分担が期待されるところだ。
池田大作SGI会長は、1962年9月13日の公明政治連盟(公政連:公明党の前進)の第1回全国大会において公明党の創立者として、「どうか公政連の同志の皆さん方だけは、全民衆のための、大衆のなかの政治家として一生を貫き通していただきたい」と語っている。これはキッシンジャー元米国務長官が2000年10月7日にニューヨークで語った彼自身の政治理念とほぼ一致すると筆者は感じる。国民のための正義を追求する政治家に安易な妥協があってはならないということだ。全世界の政治家が持つべき心得だとも言えるだろう。
この意志を継ぐ公明党には、日本が自らも核兵器禁止条約を署名・批准でき得る状況をつくることを視野に入れながら、核兵器廃絶に向けて、国会の場だけでなく、地方議会の場でも活発な議論を展開し続けてもらいたい。日本を動かす政治とはそうあるべきだからだ。
一方、核禁条約に基づく活動については、上述した広島市と長崎市に加えて、世界各国で活動するSGIが各国の支部間での連携を前提に、オブザーバー参加で有効な提案等をしてもらいたい。SGIはICANのノーベル平和賞受賞式にも招待されるほど、核兵器廃絶の活動に尽力してきた。その力を発揮されることを期待する。
筆者は、米国の3大キリスト教会派の一つに所属するクリスチャンである。新約聖書に忠実で弱者を切り捨てない発想の一派だが、政治活動からは距離を置く。しかし、政治と社会活動は紙一重の差であり、世のためになるものに対しては支援を惜しまない。実際、米国を中心とした複数のキリスト教会派の関係者は核禁条約を支持し、その中には民間団体に加盟して活動を続ける人々もいる。核禁条約は、平和を求める世界の全ての宗教の目的に一致する。積極的にグローバルなネットワークを運営しているSGIが核廃絶のための努力を惜しまないならば、SGI以外の宗教等の関係者とも相俟って、核兵器廃絶に向けた1つの大きな流れが出来上がっていくのではないだろうか。
次回(最終回)は、米中対立や世界中で絶えない地域紛争などに焦点を当てつつ、核禁条約を有効に機能させる方法について考えてみたい。
「核兵器の恐怖から人類を解放するために」(全3回):
(上)世界で続く紛争で核兵器が使われたなら
(中)時宜を得た核禁条約発効に日本人はどう対応すべきか
(下)…近日公開
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