核兵器は〝違法〟との国際規範
核兵器禁止条約が、この2021年1月22日をもって発効する。核兵器が非人道的であり〝違法〟であると明記する国際規範がここに誕生した。
現時点で批准しているのはすべて非核保有国であるが、それでもこの一歩は大きい。
1970年3月に発効したNPT(核兵器不拡散条約)も、発効当時の批准国は47カ国に過ぎなかったが、今では191カ国・地域が加盟している。
核兵器を放棄した国もある。大量のウラン埋蔵国である南アフリカ共和国は、1950年代から米国と協力して核兵器の開発を進め、80年代には6つの核爆発装置を密かに完成させていた。
しかし、89年9月にデ・クラーク大統領が就任。冷戦が終結し、隣国アンゴラからキューバ軍が撤退するなど安全保障環境が変わる。さらにアパルトヘイト撤廃の機運が高まると、南アは政策を転換した。
91年にはNPTに加盟。93年3月、デ・クラーク大統領は南アが6発の核爆発装置を過去に製造していたが、すでに廃棄したことを議会で演説した。
この事例は、一旦は核兵器の保有にまでいたった国であっても、①リーダーの資質、②安全保障環境の変化、③国内世論の変化があれば、政府に核兵器政策の転換を促せることを証明するモデルケースとなった。
何より大事なことは、核廃絶への草の根の連帯を広げ、その民意を可視化し続けていくことだ。
核兵器禁止条約の「前文」は、次のように締めくくられている。
人間性の原則の推進における公共の良心の役割を強調し、国連や国際赤十字・赤新月社運動、その他の国際・地域の機構、非政府組織、宗教指導者、国会議員、学界ならびにヒバクシャによる目標達成への努力を認識する。(「朝日新聞デジタル」2017年9月21日)
バチカン、ICAN、創価学会
核廃絶への民意、国際世論の動向で見逃せないのは、世界に12億人以上の信徒を持つカトリックの総本山バチカンの意思である。
とりわけ現在の教皇フランシスコにとって、「核廃絶」はもっとも重視しているテーマのひとつ。
2019年11月24日に被爆地・長崎を訪問した際のスピーチでは、核兵器禁止条約の重要性にも言及し、世界の指導者たちに向けて、
核兵器のない世界が可能であり必要であるという確信(「VATICAN NEWS」2019年11月24日)
を訴えかけた。
そのバチカンが核廃絶への重要なパートナーのひとつと見なしているのが、欧米最大の仏教宗派であり、世界192カ国・地域の「世界市民」の連帯としてのSGI(創価学会インタナショナル)である。
創価学会の核廃絶への取り組みはバチカンより早く1950年代から続いており、これまで国連や諸大学などと連携して世界規模で広範な啓蒙活動をしてきた。池田大作SGI会長の記念提言は、1983年から毎年続いている。
核兵器禁止条約が採択された直後の2017年11月には、ローマ教皇庁が「核兵器のない世界と統合的軍縮への展望国際会議」を開催。SGIはこの会議の協力団体となっている。
世界から数百名が参加した2日間の会議。記念撮影の最前列には、教皇フランシスコとともにノーベル賞受賞者、国連軍縮担当上級代表、SGI代表、日本の被爆者の代表らが並んだ(「CHRISTIAN TODAY」2017年11月16日)。
核兵器禁止条約の採択を実現させたことでノーベル平和賞を受賞したICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)も、発足直後からSGIを国際パートナーとしてきた。ノーベル賞委員会は、17年12月の平和賞授賞式にSGI代表と被爆者の代表を招いている。
SGIは仏法の生命尊厳思想に基づいた核廃絶の理念を青年世代に継承しつつ、核保有国にも非核保有国にも、キリスト教圏にもイスラム圏にも多数の会員がいる。
しかも、民衆レベルで持続的な平和学習をし、民衆の手で草の根に広げていく活動を、世界規模で実行してきた。このような実績と能力を有する団体は世界に類がない。バチカンやICANがSGIをパートナーとする理由もそこにあるのだろう。
日本の世論が変わる可能性
米ロ間の新START(新戦略兵器削減条約)は、この2月5日に期限を迎える。条約の1年延長を提案しているロシアに対し、バイデン新政権の対応が注目される。
本来なら2020年春に開催予定だった5年に1度の「NPT再検討会議」も、21年8月への再延期が発表されているものの、コロナ禍の影響でまだ開催は不透明だ。
唯一の戦争被爆国である日本は、現時点で核兵器禁止条約に署名も批准もしていない。
2020年11月に朝日新聞がおこなった世論調査(核兵器禁止条約について)では、条約に「参加する方がよい」と回答した人が59%。「参加しない方がよい」は25%にとどまった。「参加する方がよい」は、菅内閣の支持者でも57%にのぼった。
この数字を高いと見るか低いと見るか。
日本の条約参加に反対あるいは時期尚早とする立場から語られるのは、主に北朝鮮の核の脅威である。これを抑止しているのが米国の核戦力であり、日本はそこに依存しなければならないという論理だ。
興味深いのは中国やロシアも核保有大国であるのに、中国やロシアが日本を核攻撃する可能性を現実問題として不安視する人はそれほど多くない。
このことは、日本においてもはや冷戦期のように、核兵器の脅威論がイデオロギー対立とは一体になっていないことを物語っている。
そしてそれは、かつての南アフリカのように、仮に北朝鮮の軍事的脅威が解消されたならば、日本の世論が大きく変わる可能性を示している。
さまざまな変化の兆し
日本政府が核禁条約に賛成していない一方で、国内の金融業界ではすでに変化が生じている。2020年5月の共同通信の調査では、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、ゆうちょ銀行を含む16銀行が、核兵器を運搬するミサイル製造などに携わる企業への投資や融資を自制する方針を定めていることが判明した。
核兵器の非人道性への国際的な批判の高まりを受け、核関連企業との取引を避ける動きが国内の金融機関でも見られていることが示された。2017年に国連で採択された核兵器禁止条約についても高知銀行、大分銀行など9行が支持を表明した。(「共同通信」2020年5月3日)
バチカンやICANから核廃絶の国際的なパートナーと見なされている創価学会が、連立与党の公明党の支持母体であることも日本にとっては重要だ。このような政党は日本で他にない。
公明党が支持母体の平和への理念をないがしろにしているかのように非難する人々が一部にいるが、これは率直に言って浅薄であり愚かな見方である。核廃絶が創価学会の「一丁目一番地」のテーマである以上、公明党にとっても最重要なのである。
民主党政権は平和どころか、日中関係だけでなく、オバマ政権下の対米関係さえ戦後最悪に陥らせてしまった。自公政権はそのオバマ大統領を米国の現職大統領として初めて広島に立たせ、日中関係も完全に修復した。
口先で平和を唱えるのは簡単だが、政治には合意を形成し、複雑な現実を動かしていく能力が伴わなければならない。日本が核兵器禁止条約に批准する道を探るなら、与党内での公明党の影響力を高めていくことこそ現実的な近道だろう。
バイデン政権の発足にあたって、米国にも変化の兆しが表れてきたようだ。
オバマ前米政権の核政策で中心的役割を果たしたアーネスト・モニツ元エネルギー長官が朝日新聞の取材に応じ、22日に発効する核兵器禁止条約に関連して「核保有国が禁止の議論に参加しなかったのは間違いだと思う」「核保有国と非核保有国の対話を困難にした」と述べた。(「朝日新聞デジタル」1月17日)
同氏は核保有国と非保有国との「対話」の重要性を指摘している。混迷の闇は深いが、それでも世界は常に変わり得るし、実際に変わってきたのだ。
核兵器禁止条約の発効という人類史の新しいスタート地点に立った私たちは、さらに忍耐強く賢明に一歩一歩、〝核兵器のない世界〟へ進んでいきたい。
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