2020年の政治をふりかえる(野党編)

ライター
松田 明

甘かった感染拡大への認識

 新型コロナウイルスのパンデミックという歴史的な災禍に世界中が塗りつぶされた2020年が暮れようとしている。
 未曽有の混乱のなかで、日本の政治は国民の生命とくらしを守るために、どのように機能し何を残したのか。主要政党のトピックとなった動きをふりかえってみたい。
 まずは「野党編」から。
 日本で最初の感染者が確認されたのは1月14日。中国以外ではタイに次いで2例目だった。WHOは「限定的なヒトからヒトへの感染が起きる可能性」を指摘した。
 1月23日には武漢市の都市封鎖がはじまる。29日午前9時には、武漢市在留の邦人らを乗せたチャーター機第1便が羽田空港に到着した。
 日本政府は「新型インフルエンザ等特措法」(2013年施行)に基づいて、1月時点で素早い初動を見せていた。この点は、東京工業大学の西田亮介准教授も、

 対応の迅速さは世界を見渡しても指折りのものであった。(『コロナ危機の社会学 感染したのはウイルスか、不安か』

と指摘している。
 一方、野党の状況認識は多分に甘かったといわざるをえない。
 チャーター機第1便の到着がライブ中継されている同時刻、国会の参議院予算委員会では立憲民主党の石垣のり子議員が感染症対策にまったく言及せず、延々と「桜を見る会」の質問に終始していた。
 緊急経済対策を組むためには、一刻も早く新年度予算を成立させて、そのあとに補正予算を組む必要がある。
 だが、2月後半になっても立憲民主党や共産党は「桜を見る会」を盾に衆議院予算委員会を欠席するなど、予算審議への抵抗をつづけた。
 3月に入り全国一斉休校が実施されると、野党はこれを批判。枝野代表は3月5日のツイートでも、〝現状は、緊急事態宣言の要件を満たす状況ではない〟との考えを示す。
 政府与党内では緊急経済対策の中身の議論がつづいていた。しかし野党では議論がまとまらず、いらだった若手議員らが3月19日に執行部を突き上げた。
 それでも立憲民主党は独自策をまとめることができず、4月に入ってふたたび若手議員らが新たな提言を枝野代表らに出している(「時事ドットコム」4月6日)
 新年度になってもなお、党内の議論が紛糾したままだったのだ。
 政府を批判するだけで自分たちの意見すらまとめられない野党の不甲斐ない姿は、国民を大きく失望させた。4月18~19日に実施された「朝日新聞」「毎日新聞」の世論調査では、いずれも立憲民主党と共産党が大きく支持率を下げている。

共産党に依存する立憲民主党

 コロナ禍のなかで立憲民主党と国民民主党は、合流新党をめぐって攻防を繰り広げていた。最終的に玉木雄一郎代表らは国民民主党に残る決断をし、党が分裂して9月11日の新・立憲民主党の結成となった。
 ただし、各紙の論調は冷ややかなものだった。

 新党結成の高揚感が広がっているとは言い難い。有権者には、これまでの立民との違いが分かりにくく、単なる「数合わせ」と映っているのだろう。
政権批判に注力する「抵抗野党」のままでは支持は集まるまい。(『読売新聞』9月11日「社説」)

 合流への国民の関心は低く、期待感は高まっていない。伸び悩む両党が局面打開を迫られての選択であり、しかも政権運営に失敗した旧民主党の再結成という印象をぬぐえないためだろう。(『毎日新聞』9月11日「社説」)

 数のうえでは衆参で151名の野党第一党になったわけだが、有権者から見れば「昔の民主党」がまた復活しただけで新鮮味に欠ける。
 しかも、「桜を見る会」もその後の菅政権の「学術会議問題」も、端緒は共産党の機関紙「しんぶん赤旗」のスクープ。立憲民主党はそれに便乗して政府を追及してきた。
〝右ウイング〟が抜けたうえに、国会論戦でも選挙でも共産党への依存がさらに強まったことで、以前の民主党とは異質なイデオロギー政党のようになってしまったのである。

ポピュリズム政党の失速

 日本維新の会は、感染拡大の第1波があった3月下旬あたりから支持率が急上昇し、緊急事態宣言下では立憲民主党さえ抜いた。
 理由は単純で、感染拡大が深刻化した都道府県知事のテレビ露出が増えたからだ。
 しかし、6月に入って吉村・大阪府知事が治験実施のめどすら立っていないワクチンについて、「7月に治験開始、9月に実用化」「年内に10万~20万人に打つ」などと発表。
 これが批判を浴びると挽回を焦ったのか8月には市販の「うがい薬」を並べて「コロナに効くのではないか」などと記者会見。その日のうちに全国の薬局の店頭からうがい薬が消えたうえ、日本医師会、大阪府保険医協会、大阪府歯科保険協会などから批判や抗議文が相次ぐ騒動となった。
 結局、ワクチンの話も実現せず、うがい薬が効くどころか、いまや大阪府は感染拡大が深刻化し医療崩壊寸前になっている。
 2019年7月の参院選で注目を集めて議席を伸ばしたれいわ新選組は、わずか1年も経たないあいだに見る影もなく失速した。
 山本太郎代表が今年7月の東京都知事選挙に出馬するも落選。さらに参院選で山口那津男・公明党代表の立つ東京選挙区にあえてぶつけてきた候補者も、たった1年でれいわ新選組を離党。
 既成野党が凋落した参院選で例外的に議席を伸ばした2つのポピュリズム政党だったが、未曽有の危機のなかで政党としての資質の底が見え、いずれも国民から見切りをつけられたように見える。
 また、ほとんど国民の関心すら集めなかったが、社民党もまた分裂し、党内で批判の応酬をしている。
 自民党のスキャンダルなどで菅内閣の支持率低下が見られるなかですら、野党はまったく支持率が伸び悩んだままだ。
 12月5~6日のJNN世論調査では、

自民党    38・0%
立憲民主党   5・0%
公明党     3・4%
共産党     2・4%
日本維新の会  2・0%
国民民主党   0・4%
社民党     0・2%
れいわ新選組  0・2%
(JNN世論調査)

である。立憲民主党は合流前と支持率が変わっていない。
 感染拡大が第3波を迎え、国民は大きな不安と疲弊のなかにある。不満の矛先はどうしても政府与党に向くが、しかし同時に政治が不安定になることを国民は望んでいない。
 野党が、1年以内にある総選挙を意識して政権批判のボルテージを上げるだけでは、コアな支持層は喝采しても、大多数の国民からの支持は遠のくだろう。
 具体的な政権構想を示し、政策の優位性や実現性で政府与党を説得し、有権者の信任を獲得していくのが本来の野党第一党の役割のはず。
 ところが現実には、立憲民主党が共産党の用意した土俵に乗って、ひたすらスキャンダル批判で政権を揺さぶろうとする構造が定着している。
 野党勢力の全体を見渡すと、ポピュリズム政党は早々に埋没し、国民を分断し不安や政治への不信と憎悪を煽ることで議席を保とうとする「共産=立憲」勢力が、自公政権に対峙しているという構図が見えてくるのである。

「2020年の政治をふりかえる」:
①2020年の政治をふりかえる(野党編)
2020年の政治をふりかえる(与党編)

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