菅内閣が始動――公明党が政権を担える理由

ライター
松田 明

存在感を増した公明党

 9月16日、菅政権が始動した。
 これに先立ち、15日には菅義偉・自民党総裁と山口那津男・公明党代表のあいだで、新政権が取り組む重点政策9項目を盛り込んだ政権合意に署名。引き続き、自公連立で日本の政治を牽引する。
 自民党が衆参で400議席を超す巨大政党なのに対し、公明党は60議席に満たない政党だ。しかし、1999年以来、民主党政権下の3年3カ月を除いて、自民党と公明党は連立政権を維持し続けている。この10月で、連立誕生から22年目に入る。
 自民党に比べれば圧倒的に少数政党の公明党が、なぜこれほど長期にわたって連立与党の任を果たせているのか。
 とくに第2次安倍内閣からの7年9カ月を通して、公明党の存在感が増したことは衆目の一致するところだろう。
 最悪の状態からの日中関係の正常化、平和安全法制に対する「新3要件」の縛り、幼児教育無償化など全世代型の社会保障、軽減税率の導入、直近では全国民への一律10万円給付への方針転換など、公明党が重要な役割を果たした局面は多い。
 政局が動く際にも、メディアは山口代表がどうコメントするかを注視する。公明党の判断や意思が、政府や自民党の方向性を左右するケースが少なくないからだ。
 これらのことを、選挙協力による公明票への配慮といったような単純な話に落とし込んでしまうと、本質を大きく見誤ると思う。

他の政党にはマネができない

 このほど毎日新聞出版から刊行された『公明党に問うこの国のゆくえ』(田原総一朗/山口那津男)は、公明党の価値観、他の政党にはない公明党の能力といったものが、かなりクリアに読み取れる一冊かもしれない。
 メディアで目にする「政治」は国政がほとんどで、しかも政局がらみの話ばかりになる。けれども現実に日本社会を動かしているのは、国政と同時に地方政治である。むしろ、国民の日々の暮らしに直結するのは、地方政治の場面が多い。
 同時に、国政レベルでできた政策を各自治体の現場に実装していくのも、地方議員の役割である。
 公明党の最大の「強さ」は、3000人の地方議員を有していること。そして、国会議員と地方議員がフラットに連携するネットワーク政党になっていることにある。

山口 議員総数が3000人というのは、日本の政党の中で一番多い数です。そのうち約3割が女性議員です。(『公明党に問うこの国のゆくえ』)

 3000人の地方議員は、全国津々浦々の地域社会に根を張り、地域住民の小さな声をしっかり聞き取っている。
 他党のような上下関係がないので、課題解決のために市区町村議員が電話1本で都道府県議員や国会議員と連携できる。
 これは、すべての政党のなかで公明党にしかできない。
 自民党は地域社会のなかで国会議員と地方議員が一緒になって何かの課題に取り組むという経験がないと、同書で山口代表は語っている。

山口 野党に対しては、なおさらそれを感じます。国会の質問でも、現場のリアルな声を聞いたわけではなく、新聞報道を引き合いに出したり、労働組合で出た提案をそのまま引用してみたり。要するに、自分の目と耳でつかんだものを表現しようという文化があまり存在しないんですね。共産党は地域に根を張ってはいるけれども、国政で与党になった経験がありませんし、どちらかと言えば、批判をエネルギーにして党勢を拡大するという党風のため、どうしても国民政党にはなり切れないわけです。(同)

山口 長年の歴史と信用があり、地方にも根を張って、リアルな国民の声を受け止めてきた。しかも、与党としてそれを政策にも反映できる政党は公明党しかありませんし、日本の行政から見ても、そういう機能を持っているところは他にはないと思います。国際社会も公明党の役割や価値をしっかり認識してくれています。(同)

公明党の「中道」とは何か

 自民党は国政では巨大政党でも、こうした「リアルな国民の声」に敏感に反応する機能が弱い。地盤・看板が用意された二世議員が増えている現状では、なおさらだろう。
 この7年9カ月、共産党や旧民主党系の野党は、残念ながら与党との建設的な合意形成ができず、エキセントリックな〝政権批判〟にばかり終始した。
 自公政権を終わらせたいというのならば、より魅力的で説得力のある政策なり政権像を国民に示せばよかったはずだ。
 しかし、彼らは単に政治不信という負の感情を煽ることしかできなかった。合流新党の結成に75%もの人が「期待しない」と回答したのも当然だろう。
 この点で、自公の連立が安定しているもう一つの理由は、公明党とその支持層が「中道」主義だからである。
 この「中道」というのは、中間とか折衷という意味ではない。極端に偏らず、社会を分断することなく包摂し、しかも現実路線から逃げないということである。
 公明党は「平和」「福祉」「生命尊重」という理念を強く求める一方で、原理主義的に極端に走ることがない。
 仮に看過できない問題があった場合も、声高に「絶対反対!」「打倒○○!」などと叫ぶのではなく、どうすれば現状を改善していけるかという方向で粘り強く働きかけようとする。
 風頼みの政党は、どうしても人々の歓心を買うようなポピュリズムに走らざるを得ない。公明党は支持基盤が社会に根を張っているので、目先の人気取りではなく中長期的な政策課題に挑戦できる。
 自民党はもちろん、霞が関の官僚や国際社会が、公明党を政権運営ができる集団とみなし、その背後にある〝民意〟に耳を傾けようとするようになったのは、こうしたバランス感覚とリアリズムによるのだと思う。
 なお、この『公明党に問うこの国のゆくえ』では、創価学会との関係、一律10万円給付までの舞台裏、2013年1月の訪中時の秘話、ポストコロナ時代への展望なども、率直に語られている。全体を通して、山口代表がかなりストレートな表現で語っているのが印象的だ。
 コロナ禍の安倍政権では、政府が与党と十分な意思の疎通を図らずに、独走して批判を浴びる場面が一度ならずあった。
 菅新政権は「国民のために働く内閣」を掲げた。政府と与党でしっかり連携し、国民の期待に応えてもらいたい。

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