40歳でGSの執行役員
2016年秋のアメリカ大統領選挙でトランプ氏がまさかの当選をしたときのこと。
ドナルド・トランプという人物と、予想される政策をどう考えればいいのか、日本の政界にもメディアにも人脈や情報がなかった。
このとき、注目を集めたひとりの国会議員がいた。公明党の岡本三成・衆議院議員である。
日本の政界で岡本議員だけがトランプ氏と面識を持ち、実際に仕事をした経験があったからだ。
じつは岡本議員はかつて、世界的金融機関ゴールドマン・サックスのニューヨーク本社に勤務。2005年には40歳の若さで同社の執行役員に就任していた。
不動産王であるトランプ氏とは、その頃にビジネスの現場で2度会っている。
しかも、トランプ政権で財務長官に就任するスティーブン・ムニューシン氏(現在も財務長官)も、岡本議員のかつての同僚。ゴールドマン・サックスでセールスやトレードの全体を総括する重責を担っていた。
朝日新聞が大統領選直後の2016年11月10日に岡本議員のインタビューを掲載したほか、12月16日の日本経済新聞は、以下のような書き出しで、トランプ氏とムニューシン氏について岡本議員にインタビューしている。
トランプ氏の米大統領就任を2017年1月に控え、政策運営を占う新政権の人事に世界の注目が集まっている。トランプ氏が掲げる積極財政の陣頭指揮を執るムニューチン次期米財務長官はゴールドマン・サックス出身。かつてムニューチン氏とゴールドマンで共に働き、トランプ氏の仕事にも関わったことがある公明党の岡本三成衆院議員に新政権の経済運営の要になる2人の人物像を聞いた。(『日本経済新聞』2016年12月16日)
トランプ政権が発足したあとの17年3月1日には、毎日新聞も岡本氏にトランプ政権との向き合い方についてのインタビューを掲載。
さらに3月15日の朝日新聞は、前回より詳細な岡本議員へのインタビューをふたたびおこなった。トランプ政権の国家経済会議委員長(当時)となったゲーリー・コーン氏は、ゴールドマン・サックス時代の岡本議員の上司である。
億や兆の金銭感覚がわかる
その岡本議員が本年出版したのが『逆転の創造力』。
三浦瑠麗、デービッド・アトキンソン、渋澤健の各氏との対談に加え、後半は自身の半生を赤裸々につづった自伝になっている。
岡本三成氏は1965年、佐賀県生まれ。実家は建設業を営んでいたが、氏が幼い頃は家計が火の車だった。
創価大学在学中に、イギリスの名門グラスゴー大学に留学。卒業後はアメリカのシティバンクに就職。ロンドン、シンガポール、東京などで勤務した。
1995年には全世界9万人の社員の中から〝もっとも価値ある仕事をなしとげた〟社員に贈られる賞を受賞。
その後、全米最高峰の経営大学院であるノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院に合格。MBAを取得したあと、ゴールドマン・サックスに就職した。
このとき最終面接をしたヘンリー・ポールソン氏は、ジョージ・ブッシュ政権の財務長官に就任している。
世界最強の投資銀行と謳われるゴールドマン・サックス。国や国連機関、国際企業を顧客に、資金調達のアドバイスや、国営企業の民営化などをおこなっている。
岡本氏のニューヨーク時代の仕事は、財政難に苦しむ欧州の国々に対する財政アドバイスや、イリノイ州の有料道路の民営化、ダイムラー・クライスラーによる三菱自動車の買収などだった。
こうした規模の仕事で得た経験値について、本書の中で岡本氏はこう語っている。
億や兆といった単位の大きなお金でも、地に足の着いた現実的な議論ができるようになりました。例えば、ある政策にかかる費用について、一兆二〇〇〇億円は高いけれど一兆円だったら妥当だといったことが、大型の金融取引の経験からわかるのです。(三浦瑠麗氏との対談)
月刊誌で岡本氏と対談した外務省出身の作家・佐藤優氏は、
お金の効率的な使い方については、世界的な金融会社であるゴールドマン・サックスの執行役員までやった岡本さんの右に出る人はいないでしょう。(『第三文明』10月号)
と率直に述べている。
高い能力とチームワーク
自公連立政権によって、日本の政治が世界的に見ても奇跡的な「安定」を維持していることは、国内外の多くの政治学者が指摘してきた。
自公の信頼関係の成熟がもたらしつつある選挙協力の深まりや、政策決定システムなど要因はさまざまある。同時に、見落としてならないのは国会全体でも抜きん出た、公明党議員の〝能力〟の高さとチームワークである。
21世紀になって当選してきた世代の公明党議員は、いずれも外交官や国際NPO、官僚、公認会計士、弁護士、医師など、高い専門性を持っている。2カ国語、3カ国語に堪能な議員も少なくない。
しかも、公明党には「チーム3000」といわれる、全国約3000人の議員の上下関係のないフラットなネットワークがある。
地方議員が網の目のように全国津々浦々に根を張り、人々の暮らしに直結した「小さな声」を拾い、電話1本で国会議員につなぐ。専門性の高い国会議員は、各省庁の優秀な官僚たちと十分なコミュニケーションができる。
この3000人のネットワークと高い専門性、合意形成能力は、他の党の追随を許さない公明党の圧倒的な力だ。
政権に公明党が参画していることで、被災地にもきめ細かい政府の支援が入っていることへの評価は、東北各県の首長や熊本県知事なども折々に明言してきた。
地元「東京12区」からの挑戦
現在、東京都北区に暮らす岡本議員も、党の国土交通部会長を務め、元国土交通大臣の太田昭宏議員と二人三脚で荒川の治水対策などに奔走している。
気候変動で毎年のように記録的な豪雨に見舞われるようになった日本。荒川の氾濫から首都圏を守る第2・第3調整池の建設は、当初2030年完成予定となっていた。岡本議員は完成を早めるよう国会で要望を重ね、この4月には早期実現にむけて「荒川調整池工事事務所」の新設が決定したばかり。
国土交通省のサイトで公開されている災害対策啓蒙の動画「荒川氾濫」に字幕が追加されるようになったのも、聴覚障害のある人からの声が公明党の市議会議員を通して岡本議員のもとに届いた結果である。
著書では、幼い頃に経済苦のなかでも母親の明るさに救われたこと。ゴールドマン・サックス勤務が決まり、実家の母親に「母ちゃん、今度はGSで仕事すっばい」と電話すると、母親はガソリンスタンドで働くのだと勘違いし、「きつか仕事するけん、体に気をつけんといかんばい」と言われたこと。
また、高校時代に創価大学創立者の池田大作氏と出会ったことで、進学先を京都大学から創価大学に変えたこと。グラスゴー大学から名誉博士号を授与された池田大作氏が、滞在先のホテルを発つときに、まっさきにロビーの片隅にいたポーターのもとに歩み寄り、丁重なお礼を述べた姿を目にしたエピソードなども描かれている。
ゴールドマン・サックスに入って以降、何度ヘッドハンティングの誘いが来ても、岡本氏は会おうともしなかった。執行役員であった岡本氏にとっては、日本の国会議員になるより会社に残っていた方が収入もはるかに多かったはずだ。
その岡本氏が、2011年暮れに公明党からの出馬要請を受けたのは、かつての「9・11」の経験と、東日本大震災での政治の無能さへの憤りだった。
これまで比例北関東ブロックで3回当選してきた。きたる総選挙では、太田議員の跡を継いで東京12区からの出馬が決まっている。
粒ぞろいの公明党議員のなかでも傑出した国際経験と人脈、実務能力、外務大臣政務官などの政治経験を持つ岡本氏。
国際政治が激動し、コロナ禍とそれに伴う経済危機が世界を覆う時代。岡本氏の活躍がいよいよ期待される。
未だ経験したことがない人口減少や少子高齢化によって、大きな岐路に立たされるからこそ、これまで以上に日本の潜在能力を引き出していける。私はそう信じています。
外交においても、経済においても、日本の潜在能力は、まだまだ大きな可能性を秘めています。今こそ〝逆転の創造力〟を存分に発揮する時なのです。
日本を、もっと前へ。私の戦いはこれからが本番です。(本書)
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