まるで「ドラマの再放送」
8月19日、国民民主党は両院議員総会を開き、党を解党して立憲民主党との合流新党を結成することを賛成多数で決めた。
ただし、玉木雄一郎代表は合流新党への不参加を表明。前原誠司氏や山尾志桜里氏、古川元久氏も、同じく不参加を表明している。
早ければ9月にも結党するという新党。立憲民主党の福山哲郎幹事長は、150人前後の規模になると会見で語った。
枝野幸男、福山哲郎、平野博文、小沢一郎、岡田克也、野田佳彦……。某情報番組で合流新党の予想される主要な顔触れが並んだフリップを見ていた政治ジャーナリストの田崎史郎氏は、思わずこう言った。
顔ぶれを見ても、ドラマの再放送ですよね。期待感が全く起きないでしょ。
実際、誰が見ても、あの「民主党」が再び帰ってきたという印象しかない。
しかも、この合流をめぐる混乱も、どこかで見たようなデジャヴ感がある。同じ光景はどこで見たのか。そう、あれは2017年9月の「希望の党」合流騒動だ。
民主党から看板を掛け替えた当時の民進党は、支持率低迷に焦っていた。そうしたなかで安倍首相が9月25日に衆議院解散を表明し、同じ日に人気を誇っていた小池百合子都知事が「希望の党」を結成した。
すると、新代表を選出したばかりの民進党所属議員は、われ先にと「希望の党」に駆け込んだのである。
このときに〝排除〟された枝野氏らが急ごしらえしたのが立憲民主党。一方、希望の党に合流したものの、旗色が悪くなってふたたび分裂した旧民進党系が国民民主党である。
「国民は政策など見ていない」
ともかく、支持率の低い政党に身を置いたままでは自分の次の選挙が危うい。ただそれだけの理由で大半の議員が「希望の党」へ駆け込み、事実上、民進党は消滅した。
今度もまた、支持率がずっと1%前後の国民民主党から立候補することに不安を抱いた議員たちが、国民民主党を解党してあわてて駆け込んだにすぎない。
「大きなかたまりをつくる」と言えば聞こえはいいが、実際は自分の選挙のためだけに、くっついたり離れたりを繰り返してばかりいる人々ではないか。
受け皿を形の上だけでもいいから作る。それほど中身の質が高いものを国民は期待しているわけではない。国民もメディアも政策が大事だと言うが、政策を自分で考えて精査して投票する人はほとんどいないし、メディアもいざとなると政策ではなく、政局ばかり報道している(「産経ニュース」2019年9月23日)
これは、今回の合流の仕掛け人の1人、国民民主党の小沢一郎氏の発言だ。この1年余りの両党の合流をめぐる動きの本質をよく物語っている。
共産党の田村智子政策委員長は14日、日本記者クラブで会見し、党が提唱する野党連合政権が実現した場合の入閣に意欲を示した。「私たちのような頑固な政党が政権に入って踏ん張ることも必要だ。閣僚を目指さないといけない」と述べた。
共産党はこれまで、閣内協力と閣外協力の両方があり得るとの立場を示していた。田村氏は「責任を持って連立政権を呼び掛けるなら、ずっと閣外にとどまるとは思っていない」と強調した。(『日本経済新聞』7月14日)
立憲民主党がコロナ禍の下でもあいかわらず支持率が低いことを見て、共産党は俄然、強気である。
2020年3月26日に志位和夫委員長が出した「野党連合政権にのぞむ日本共産党の基本的立場」なる声明では、「閣内協力」か「閣外協力」かはあらかじめ決めないと表明していた。
それからわずか3カ月あまりで、共産党が協力しての「野党連合政権」が誕生した暁には、共産党も内閣に加わって当然という発言が公然と出てきた。
「共産党とはいっしょにやれない」
かつて民進党があっけなく崩壊したのも、今回また国民民主党が分裂したのも、その原因は共産党の存在にある。
新党への合流を拒否した前原誠司氏は、さる8月15日に開催した拡大後援会役員会で、支持者らを前に合流拒否の理由を述べていた。
なぜ合流新党に行かないのか。大きな理由は共産党の協力をする政党には行きたくない。この一点に尽きると言っても過言ではございません。(「前原誠司チャンネル」日々是好日 vol.6 ~私が国民民主党に残る理由~)
前原氏は、政権から下野したあとの旧民主党が「野党共闘」の名のもとに共産党と接近していったことを批判した。
共産党を支持される方がおられるのは全然かまいません。しかし、憲法観。そして自衛隊。天皇制。日米安保。あるいは消費税。こういった内政のみならず、外交・安全保障、わが国の防衛に対する考え方が、まったく違う政党と、弱くなったからと言って協力をし、その小選挙区で票を当てにするという、そういった野党共闘には私はくみすることはできません。(同)
かつて2009年の第45回衆議院選挙で民主党が大勝したのは、沖縄の普天間飛行場移設について「最低でも県外」とぶち上げたことが大きかった。
しかし、いざ政権に就いた途端、オバマ大統領から日米首脳会談さえ拒否されて、民主党政権はあっさり「辺野古移設」を決定した。
単に政権奪取だけが目的だった民主党・社民党・国民新党の連立政権は、肝心の政権運営能力を持っていなかった。皮肉なことに政権を獲った瞬間から内紛をはじめ、瓦解していったのだ。
その無責任・無能な政権の中枢にいた枝野氏や小沢氏、岡田氏らが、今また「安倍政権に代わる政権樹立」という〝聞こえのよい言葉〟で、共産党の票を当てにし、政策も理念もバラバラな勢力結集をしようとしている。
実際には、ただただ自分の次の選挙だけしか眼中になく、この8年間、政党をつくっては壊し、常に風の吹きそうな方向ばかりに駆け込んでいた人々。
力わざで「合流新党」の流れに持ち込まれ、実際のところ困惑しているのは、選挙でも対立してきた地方組織や地方議員である。
無理やりの「合流」は、また新たな「分裂」のはじまりになるのだろう。
関連記事:
くり返された〝軽率〟会見――「ワクチン」の次は「イソジン」
都知事選で見えたもの―露呈した野党の実情
国会閉会そして都知事選へ――潰し合いをはじめた野党
新型コロナウイルスに賢明な対応を――感染研が抗議したデマの出所
『年金不安の正体』を読む――扇動した政治家たちの罪