都知事選で見えたもの―露呈した野党の実情

ライター
松田 明

公明との信頼築いた小池知事

 さる7月5日、東京都知事選挙がおこなわれ、現職の小池百合子知事が2期目への当選を果たした。

今回は公明党と自身が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」から実質的な支援を受けた。(「時事ドットコム」7月6日

 選挙戦がはじまる前から、各種メディアの調査では小池氏の「優勢」が予測されていた。
 フタを開けてみると、小池氏は前回2016年に獲得した291万2628票を大きく上回る史上2番目の366万1371票(得票率59・70%)を獲得し、2位以下を大きく引き離して圧勝した。
 小池氏の「圧勝」には、いくつかの理由と背景が考えられる。
 まずは都議会、とりわけ公明党との信頼関係が強固になっていたことだ。
 前回の初挑戦では、小池氏は現職の自民党衆議院議員でありながら、あえて都議会自民党と〝対決〟する構図を作り出した。
 その結果、圧勝して初の女性都知事となったわけだが、翌年には自民党を離党して地域政党・都民ファーストの会の代表に就任。7月の都議会議員選挙でも第1党に躍進させた。
 だが、希望の党を立ち上げて10月の総選挙に臨むも大敗する。
 以後、小池氏は公明党・山口代表などからの「都政に専念すべき」という諫言を受け入れる形で都知事としての活動に重点を置き、都議会公明党との信頼関係の醸成に努めた。
 都民ファーストの会がほとんど素人の集団で、都議会自民党との関係は犬猿の仲。実質的に小池知事は都議会公明党と良好な関係を築き、地域に根を張った同党の提案に耳を傾けることで、いくつもの有効な政策を実現してきた。

有権者は何を見ていたか

 それらは主なものだけでも、①私立高校授業料の実質無償化、②議員報酬の20%削減、③災害時の避難所となる学校体育館へのエアコン設置、④幼児教育無償化、⑤不妊検査・不妊治療の負担軽減、⑥私立専修学校の耐震化補助などがある。
 今回、一部メディアや他候補の陣営などからは、小池知事が公約を実現できていない等というネガティブキャンペーンが繰り広げられた。
 だが、すべての世代で小池候補が過半数の得票を占めたことは、この4年間の都民の生活実感を反映したものでもあるだろう。
 2期目の立候補にあたって、小池氏は政党からの推薦を受けないと表明した。
 折しも新型コロナウイルス対応の渦中であり、人口と人の流動の大きい東京都は感染者数が全国で一番多い。その時期に都政が混乱することは、非常にリスクが高い。
 各党が都知事選への対応を決め切れないなか、公明党はいち早く小池支持を表明した。
 因縁のあった都議会自民党も自主投票という形を表明したのは、勝てる候補の擁立が不可能と判断したことと、やはりこの時期に、都政に混乱をきたすことは賢明でないと判断したのだろう。
 出口調査等では、小池氏は都民ファーストの会の支持層と公明党支持層のほか、自民党支持層の8割からも支持を集めており、前回を上回る得票に結びついた。
 国政と異なり、議会も首長も選挙で選ばれる「二元代表制」の地方政治では、首長は大統領型と称される一方で、同じく有権者の代表である議会と意思疎通できなければ政策の実現が困難になる。
 1期目の経過を見れば明らかなように、小池知事は当初は議会との関係に苦慮し、同時に自身の人気をやや過信して国政にまで触手を伸ばそうとした。
 だが、それが失敗するや、すぐに軌道修正し、都民ファーストの会だけでなく都議会公明党と協調して都政を牽引してきた。
 選挙にあって、たとえば「人柄」というのはどこまでも主観的なものになる。どんなに優れた人物でも、議会の多数会派や国としっかりコミュニケーションできなければ、首長として早々に行き詰まってしまう。
 都民は、どの候補者が次の都知事になることが、こうした議会との連携、さらには国との連携をスムーズにおこなえるのかを冷静に見極めていたと言える。

露わになった野党の実情

 ところで、今回の都知事選があぶり出したのは、野党の〝本音〟と〝実力〟でもあった。
 2019年に「野党再編」に向けて一時は合流話まで出ていた立憲民主党と国民民主党。だが国民民主党は自主投票とし、むしろ両者の埋まらない亀裂を露わにした。
 事前の世論調査で小池氏の圧勝がわかっていながら、あえて立憲民主党や共産党、社民党が宇都宮健児候補の支持を表明したのは、コアな支持層に向けてまがりなりにも野党の結束を演出しなければ、さらに支持率低下が避けられなかったからだろう。
 ちなみに前回の都知事選挙では、当時の民進党、共産党、社民党、生活の党と山本太郎となかまたちの野党4党は、宇都宮健児氏に立候補を取り下げさせて鳥越俊太郎氏を統一候補として擁立。その鳥越氏は130万票余しか獲得できず、第3位に終わっている。
 今回、2位とはいえ宇都宮候補が獲得できたのは84万4151票。
 しかも、朝日新聞の出口調査では、立憲支持層の29%、共産支持層の17%が小池候補に投票。宇都宮候補に投票したのは、立憲支持層の49%、共産支持層の67%に過ぎなかった。
 投票日の午前0時を過ぎると、SNSも含めネット上での選挙運動は禁止になる。
 ところが立憲民主党の枝野代表は投票日の午前7時前に、

#宇都宮 #みんみん で育った私は、18才で #宇都宮 を離れてから仙台でも東京でも餃子専門店を探したが見つからず
ラーメンや炒飯、野菜炒めがメニューにあるのは中国料理店
ビールもライスもないのが餃子の店
今もそう思うので全国チェーン「餃子の○将」の名前には違和感 味は好きだけど
枝野代表のリツイート/7月5日 午前6時48分

などという奇妙なツイートを投稿した。
 支持する候補者名を連想させる、あまりにも露骨な手法に、ネット上では批判が噴出した。法律家でもある党首が投票日にこんな投稿をする姿こそ、今の立憲民主党の惨状を物語るものだろう。
 宇都宮陣営を激怒させたのは、れいわ新選組代表の山本太郎氏が、野党共闘を足蹴にする形で立候補したことだった。
 山本氏とて十分な情勢リサーチをしたうえで立候補したはず。つまり、立候補は本気で都知事の座を狙うためではなく、むしろ今後の国政選挙や都議会選挙を視野に、メディア露出を図って失速気味の党勢と自身の求心力を上向かせ、資金集めをすることに主眼があったという見方がある。
 日本維新の会が支援した小野泰輔氏は、得票率も10%に達せず4位に終わった。
 だが、これも日本維新の会にとっては織り込み済みで、むしろ東京での党名浸透と市区町村ごとの情勢を計測する好機になったはずだ。
 いずれにせよ野党にとって今回の都知事選挙は、「負ける」と承知のうえでの主導権争いだった。半年前まで蜜月を演じていた「野党共闘」なるものが、所詮はご都合主義の〝化かし合い〟であったことを鮮明にしたと言える。
 何度も書いてきたことだが、有権者をなめてかかっているのは誰なのか。それをあらためて実感させる都知事選挙であった。

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