沖縄空手の魅力を日本人以上に知るフランス人
沖縄空手の取材をしていると、青い目をしたこの人をしばしば目にする機会があるはずだ。沖縄空手案内センターのミゲール・ダルーズ広報担当(1971-)である。
フランス・ブルターニュ地方の出身で、14歳のときに始めた剛柔流空手の道場がたまたま沖縄空手の道場だった。競技にも参加したが、教える先生にも自分たちの空手は発祥の地・沖縄のカラテであるという自負があったという。家族的な雰囲気の道場で、先輩が日本に修行に行ってすごく強くなって帰ってきたのを見て、自分もいつか沖縄に行ってみたいという気持ちが強くなったと語る。
1993年、22歳のときに来沖。沖縄の道場で汗を流すように。さまざまな人脈も増えていった。しばらくはフランス語教師や通訳・翻訳の仕事をしていたが、2005年に沖縄空手に関するNPOの仕事に誘われて関わるように。さらに2011年には任意団体の「沖縄伝統空手総合案内ビューロー」を自ら立ち上げ、稽古を希望する世界中の空手愛好家と沖縄の地元道場との橋渡し役をボランティアで行う活動を始めた。
以来5年あまりで、受け入れた人数は700人を超えた。
現在は、沖縄県の委託事業として沖縄空手会館の中にオフィスがある「沖縄空手案内センター」の広報担当者。上原邦男所長や事務の女性とともに3人態勢で仕事をする。
案内センターでの主な業務は、沖縄空手に関する情報発信、海外からの受け入れ、さらにメディア関係者を含むさまざまな相談窓口となっている。この連載企画の相談も、早い段階からお世話になってきた。
空手だけでなく、「沖縄そのものにはまった」と本人が語るとおり、2006年に日本人女性と結婚。そのせいもあってか、日本人も驚くほど日本語が流暢で、空手にまつわる知識も、並みの日本人よりずっと深い。陰では「見かけは外国人だが、ミゲールの前世は琉球人だったにちがいない」などの冗談が飛びかうほどだ。本人はいまの仕事を「天職」と語る。
案内センターになって国内外から受け入れた愛好者は、3年近くの期間ですでに1500人以上。
国籍別に多いのは、アメリカ、フランス、オーストラリア。最近は日本本土から来る日本人愛好家も増えているそうで、極真空手などのフルコン関係者も多いそうだ。
沖縄空手の普及に捧げる半生
ビューローを立ち上げたときから、受け入れ業務(道場紹介)をひとりで行ってきた。口コミで受け入れてくれる協力道場を増やし、現在は個人的なつながりだけで、80道場ほどが協力してくれるという。すでにこの活動に取り組んで10年がすぎる。
フランスの空手道場は、日本とはシステムがまったく異なるという。道場は法人化されており、道場の組織長としての会長がいて、経営の責任を負う。さらに事務局長や会計担当者がいて、それらとは別に空手を指導する空手指導者がいる。空手家は仕事として給料をもらう。つまりプロとして空手を教える仕組みが確立されているのだ。
そのため、「フランスでは道場経営はものすごくしっかりしている」との言葉もうなずける。フランスで柔道や空手が盛んになった背景には、こうした盤石な運営システムがあるからと強調する。
フランス流の道場に子どものころから親しんできたダルーズ広報担当にとって、月謝もとらない従来型の沖縄空手の道場システムは、継続性のないものとして映った。沖縄空手を愛するあまり、継続性をもたせようとした努力の一環がビューローの立ち上げにつながったという。
現在、沖縄伝統空手道振興会でも、海外からの稽古の受け入れについては一回3000円の基準をもうけるようになったのは、そうした考えが背景にある。
今後の夢を尋ねると、本人からは「プロの若手の空手家をもっと増やしたい」という言葉が返ってきた。30代から40代の「専業」空手家を増やしたいという意味だ。沖縄では専業空手家は、本土に比べると非常に少ない。
今後、沖縄空手の普及とともに、演武会を開催する機会も飛躍的に増えることが見込まれる。そのときに自分の仕事があるから行けないではなく、いつでも対応できるフットワークの軽い専業者が必要になるとの考えからだ。
沖縄空手の世界は難しい面もありますが、空手家との関わりは面白いし、沖縄の文化にも、人間にも、大きな魅力を感じています。
沖縄を愛してやまないフランス人。ミゲール広報担当は、きょうも、空手会館などで仕事をしているはずだ。(文中敬称略)
(外部サイト)OKIC-沖縄空手案内センター Okinawa Karate Information Center
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【連載】沖縄伝統空手のいま~世界に飛翔したカラテの源流:
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