コラム」カテゴリーアーカイブ

書評『ハヤブサを盗んだ男』――世界的な野鳥の闇市場その実態に迫る

ライター
小林芳雄

鷹狩の歴史と文化

 著者のジョシュア・ハマーは、『アルカイダから古文書を守った図書館員』などで知られるジャーナリストである。本書は、イギリスの野生生物犯罪専門の捜査官アンディ・マクウィリアムと五大陸を股にかけたな猛禽類の密猟者ジェフリー・レンドラムの2人を中心にとりあげ、世界的な野鳥の闇市場の実態に迫ったノンフィクションである。
 2017年のとある日、何気なく目にした「ハヤブサの卵泥棒」の記事に好奇心をいだいたことから、著者は野鳥の闇市場に興味をもち、関係人物に取材を始める。
 取材を通じて明らかになったのは、闇市場の規模は特定の愛好家を対象とした小さなものではなく、巨額の金銭が飛び交う、世界的なネットワークを形成していたということである。

 国境を越えて多額の金銭が飛びかう世界には、当然ながら闇がある。猛禽類のブラックマーケットが膨張することになるのだ。飼育下繁殖の鳥よりも、野生状態で捕獲された鳥のほうが強いと妄信するコレクターと、カネになるなら法を犯すこともいとわない輩が闇市場を支える。(本書57ページ)

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公明党、次への展望(前編)――時代の変化に応じた刷新を願う

ライター
松田 明

組織政党が苦戦した衆議院選挙

 公明党は11月9日に臨時全国大会を開き、斉藤鉄夫・代表、竹谷とし子・代表代行の新体制でスタートを切った。
 先の衆議院選で、公明党は11人の候補を立てた小選挙区で7議席を落とし、比例区も20議席にとどまった。改選前の32議席から24議席へと大きく後退する結果となった。

 前回2021年の衆議院選との得票数の比較では、もっとも票を減らしたのが日本維新の会だった。約294万票減(▲36.6%)の510万票。160人以上の候補者を擁立したものの、当選は38議席。改選前から6議席を減らし、大阪では全19選挙区を制したものの近畿ブロックの比例票全体でも110万票以上を減らした。
 自民党は約533万票減(▲26.8%)の1458万票。日本共産党が約80万票減(▲19.3%)の336万票。公明党が約115万票減(▲16.2%)の596万票だった。

 一方、議席を増やし野党第一党を維持した立憲民主党も、得票数では7万2127票増にとどまり、意外にも0.6%しか票が伸びなかった。
 維新の敗因はまったく別ものとして、議席を伸ばした立憲も含めて、今回いずれも旧来の「組織政党」が苦戦し、新しい小政党が有権者の支持を大きく集めたといえる。 続きを読む

本の楽園 第197回 ザ・シット・ジョブ

作家
村上政彦

 人類学者のデヴィッド・グレーバーが、『ブルシット・ジョブ』という厚い本を出した。高額な報酬を得ているけれど、社会や人々にとって、あまり役に立っていない仕事を批判している。これは、コロナ禍でエッセンシャルワーカーが注目されたのとパラレルな出来事だ。
 社会を営み、人が生活するうえで、不可欠な仕事が、エッセンシャルワークだ。医療従事者、介護士、教師、清掃員など、その人たちがいなければ、僕らの社会は回ってゆかない。
 それに比べて、ブルシット・ジョブは、受付係、顧問弁護士、企業のコンプライアンス担当者、中間管理職など、いなかったとしても、誰も不自由を感じることのない仕事ばかりだ。
 仕事本の類は少なくないけれども、多くの人がなんとなくそう思いながら、言葉にならなかったことを指摘した仕事本は、初めて読んだ。グレーバーは偉い。と、いいながら、今回取り上げるのは別の本である。
 ブレイディみかこの『私労働小説 ザ・シット・ジョブ』だ。帯のコピーは本作を、「社会に欠かせぬ仕事ほど低賃金、重労働、等閑視される世に投じる、渾身の労働文学!」と銘打っている。 続きを読む

書評『新装改訂版 随筆 正義の道』――池田門下の〝本当の出発〟のとき

ライター
本房 歩

「人間・池田大作」を見つめてきた目

 創価学会の第3代会長であり、創価学会インタナショナル(SGI)会長でもあった池田大作氏が逝去して、この11月15日に一周忌となる。
 著者である池田博正氏は、1953年に池田会長の長男として生まれた。慶應義塾大学を卒業後、約10年間の高校教員生活を経て1989年から創価学会本部に勤務。総合未来本部長など、とりわけ創価学会の未来部(小中高校生世代)の育成に取り組んできた。
 現在は、創価学会主任副会長、SGI副会長の要職にある。池田会長の子息という立場もあって、会長の生前から〝名代〟として名誉学術称号受章など、諸外国との重要行事に臨むことも多かった。また、会長が大切に友情をはぐくんできた要人たちのなかには、互いの家族ぐるみで親交を深めて相手も多い。
 本書は、著者が未来部の機関紙に掲載したエッセーや、未来部向けの教学研修、海外諸行事での講演などをまとめたものとして、2009年10月に刊行された『随筆 正義の道』の新装改訂版である。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第65回 正修止観章㉕

[3]「2. 広く解す」㉓

(9)十乗観法を明かす⑫

 ③不可思議境とは何か(10)

(7)化他の境を明かす(2)

 以下、為人悉檀(一切の善法を生ずることに関する)・対治悉檀(一切の悪法を対治することに関する)の説明が続くが、この説明を省略し、最後の第一義悉檀についての『摩訶止観』の説明を引用する。

 云何んが第一義悉檀もて心は理を見ることを得ん。「心は開け意は解(と)けて、豁然(かつねん)として道を得」と言うが如し。或いは、縁は能く理を見ると説く。「須臾(しゅゆ)も之れを聞かば、即ち三菩提を究竟することを得」と言うが如し。或いは、因縁は和合して道を得と説く。「快馬(けめ)は鞭の影を見て、即ち正路を得るが如し」と。或いは、離して能く理を見ると説く。「無所得は即ち是れ得にして、已に是れ得は無所得なり」と言うが如し。是れ第一義の四句に理を見ると名づく。何に況んや心は三千の法を生ずるをや。(第三文明選書『摩訶止観』(Ⅱ)、588頁)

と。ここでは、理を見ることについて四つの立場(自・他・共・離)を肯定する経典を引用している。第一に(自の立場)心が理を見ることについては、「心がぱっと開けて、すっきりと覚りを得る」という文を引用しているが、出典は不明である。 続きを読む