宗教ゼロ状態
本書『西洋の敗北』は、ウクライナ危機を始めとする現在の世界の危機の原因を明らかにし、今後の世界の在り方を展望した、今もっとも注目すべき一書である。
著者のエマニュエル・トッド氏は、ソ連崩壊やリーマン・ショックなどを次々に言い当てたことから、現代の予言者と形容されることもある。しかし、そうした予言は神がかり的な霊感によるものではない。歴史人口学と家族人類学に基づきデータを精緻に分析する、卓越した知性から生まれたものだ。
現在の世界が置かれている危機的状況はロシアから生まれたのではなく、ましてやウクライナから生まれたものでもない。問題の本質は西側諸国(イギリス、フランス、アメリカ)の自壊現象である「西洋の敗北」にこそあり、そしてその原因は宗教消滅「宗教ゼロ」にこそある。世界各地の家族構造と人口動態に着目した独自の観点から、トッド氏は極めて大胆な議論を展開している。この「宗教ゼロ」に関する分析は、本書の白眉であり、理解するための重要な鍵である。 続きを読む