現代の「闇」――子どもの虐待に迫る 解説:雨宮処凛(作家)
『「鬼畜」の家――わが子を殺す親たち』(石井光太 著)
親が子どもを虐待して死なせる――。そんな事件を耳にするたびに、やるせない思いに包まれる。厚生労働省の調査によれば、2013年度に虐待で死亡した児童は69人。しかし、日本小児科学会の「子どもの死亡登録・検証委員会」は、実数をその3~5倍と推計しているという。続きを読む
不思議な動物・猫を通して織り成す生命の物語 佐藤優(作家/元外務省主任分析官)
『ねこのおうち』(柳美里 著)
猫は、プラスの方向であれ、マイナスの方向であれ、人間の感情を刺激する不思議な動物だ。柳氏は、細い糸でつながる四つの物語をみごとにまとめて感動的な一つの作品に仕上げている。熟練した腕の小説家にしかできない構成だ。続きを読む
「個性」――歴史をも変えるという希望 解説:茂木健一郎(脳科学者)
『ギケイキ 千年の流転』(町田 康 著)
歴史って、不思議だ。なぜかと言えば、それは、「時間」の中に起こるものだから。時間は、二度と戻ってこない。過ぎ去った昔を呼び起こして、その中で活躍した人たちのことをいきいきとよみがえらせるには、「語り」の音楽が必要である。続きを読む
生きていく上で大切な真理がここにある 解説:茂木健一郎(脳科学者)
『ひとりじゃないから、大丈夫。』(織田友理子 著)
「バリアフリーって、何だろう?」本書を読みながら、私はあらためて考えた。車椅子の方にとっては、道にわずかな段差があっただけで、進めなくなってしまう。続きを読む
新しい「現実」の感触がここにある 解説:茂木健一郎(脳科学者)
『魔法の世紀』(落合陽一 著)
「デジタル・ネイティヴ」という言葉がある。インターネットなどの技術は、かつては新奇で特別なものだったが、いつかは当たり前のものになる。それは、喩えて言えば、空気のようなものになる。続きを読む
【書評】日韓関係の見取り図がここにある 解説:茂木健一郎(脳科学者)
『柔らかな海峡――日本・韓国 和解への道』(金惠京 著)
日本と韓国は、歴史的にも縁が深い隣国として、これからの時代に協調し、穏やかに響きあっていかなければならない。そのことは、大げさな思想として語らなくても、生活実感に基づいた、ごく当たり前の、結論であるように思われる。続きを読む
【書評】芸術に触れる喜び、生きる喜びがここにある 解説:町田康(小説家)
『東京藝大物語』(茂木健一郎著)
うどん屋になろうと思っている人とうどん屋とではどちらがよりうどん屋か。というと、そりゃ当然、うどん屋の方がうどん屋でしょう、と思う。けれども、うどん屋になろうと思っている人とうどん屋とではどちらがよりうどんを追求しているか。続きを読む
【書評】夫婦の理想的な関係とは――考えるヒントとなる一書 解説:佐々木俊尚(ジャーナリスト)
『主夫と生活』(マイク・マグレデイ著/伊丹十三訳)
ニューヨークの新聞社に勤務している40歳の著名コラムニストがある日、仕事をすべて辞めてしまって専業主夫(ハウスハズバンド)になった。それから1年間の、主夫生活の苦闘と発見をつづった非常に面白いノンフィクションである。続きを読む
【書評】「ただ生きる」という原点に立ち返る 解説:イケダハヤト(プロブロガー)
『仔猫の肉球』(雨宮処凛 著)
自慢めいた話に聞こえてしまい恐縮ですが、ぼくは28歳にしては、まぁ、よくやっている方だと思います。(中略)が、そんな満ち足りた状態だというのに、言い知れぬ「焦り」から抜け出すことができずにいるんです。続きを読む
【書評】経済学と障害学の対話から生まれた新しい研究成果 解説:駒崎弘樹(認定NPO法人フローレンス代表理事)
『障害を問い直す』(松井彰彦+川島聡+長瀬修 編著)
眼鏡やコンタクトレンズをつけているだけで、あなたは障害者だ、と言われたら、おかしなことを、と思うだろう。たしかに現代では眼鏡やコンタクトがあるので、日常生活に支障はないが、これが鎌倉時代ならどうであったか。おそらく盲者として周囲に扱われただろう。おかしな話だ。続きを読む
【書評】日本の政治を考える上で読んでおくべき一書 解説:茂木健一郎(脳科学者)
『日本に絶望している人のための政治入門』(三浦瑠麗 著)
しばしば、社交の心得として、「パーティーで政治と宗教の話はするな」と言われる。どちらも、ともすれば自分の考えにとらわれて、異なる意見に耳を傾けにくくなりがちな話題。議論に夢中になると、パーティー本来の目的である、さまざまな人々との交流という趣旨に反してしまう。続きを読む
【書評】財政破綻の未来を直視する 解説:柳原滋雄(ジャーナリスト)
『迫り来る 日本経済の崩壊』(藤巻健史 著)
「結局、『そこそこの合理化』ではもうダメなのだ。行政を『やめる』決断を政治家が行い、それを国民がうながすしか、本当の解決の方法はないのである」
財政危機に対し、京都大学の吉田和男教授(当時)が『あなたの隣の大問題 日本の国家予算』でそう指摘したのは今から約20年前の1996年のことだった。続きを読む
【書評】唯一の被爆国・日本に住む我々の必読書 解説:茂木健一郎(脳科学者)
『もうひとつの核なき世界』(堤 未果 著)
2009年4月、就任して間もない米国のオバマ大統領は、プラハで「核なき世界」の実現を目指すという演説を行った。この際表明されたビジョンも評価され、オバマ大統領は、その年のノーベル平和賞を受けることになる。原子爆弾の惨禍を知る唯一の国である日本の私たち。オバマ大統領のプラハ演説からの年月の中で、私たちは、「核なき世界」に近づいているのだろうか?続きを読む
【書評】家庭に閉じ込められていた「死」が社会に漏れ始めた 解説:イケダハヤト(プロブロガー)
『孤独死のリアル』(結城康博 著)
日本橋・人形町で暮らしていた5年前、築30年ほどのワンルームマンションに住んでいました。そのマンションの入居者の大半はビジネスパーソンでしたが、何名か、一人暮らしの老人が住まわれているようでした。何度かゴミ捨て場ですれ違っただけで、結局、彼らの名前を知ることはありませんでしたが……。続きを読む
【書評】生活困窮者支援のあり方を提示する必読の書 解説:茂木健一郎(脳科学者)
『生活困窮者への伴走型支援』(奥田知志・稲月 正・垣田裕介・堤圭史郎 著)
職を失ったり、家族の誰かが病気になったり、あるいは、心のバランスが崩れる。さまざまなことをきっかけにして、誰でも、生活困窮者になることがある。しかし、それは世の中がまだ著者の理念に追いついていないからだと私は考えている。続きを読む
【書評】教育政策を考える一書 解説:山口二郎(北海道大学大学院教授)
『文部科学省――「三流官庁」の知られざる素顔』(寺脇研著)
著者は、ゆとり教育を推し進め、日本の子どもたちの学力低下をもたらした元凶として、批判されることのほうが多い。しかし、それは世の中がまだ著者の理念に追いついていないからだと私は考えている。続きを読む
【書評】社会の酷さを訴え、我々の「命」を問う 解説:辛淑玉(人材育成コンサルタント)
『バカだけど社会のことを考えてみた』(雨宮処凛著)
この本を読んで泣いた、泣いた、泣いた。私は雨宮処凛が好きだ。彼女の生き方にはウソがない。等身大で世の中に向き合う姿はいつもキラキラ輝いていた。彼女は自分の言葉で、この社会が最も女に許そうとしない「意志」を持って語っている。続きを読む
【書評】「ネット政治」をめぐるリアリズム 解説:吉田 徹(北海道大学准教授)
『ネット選挙とデジタル・デモクラシー』(西田亮介著)
先の参院選から「ネット選挙」が解禁となった。もっとも選挙戦で政党候補者、有権者ともにネットを有効活用できたとは言い難く、戦後3番目の低投票率となったことからもわかるように、期待されたほど効果はなかったというのが大方の結論だ。この本はこうした「ネットと政治」についての誤解を解きほぐし、そのポテンシャルを解き明かす決定的な書だ。続きを読む
【書評】たくさんの刺激と人生のヒントがここにある 解説:東晋平(ジャーナリスト)
『アーティストになれる人、なれない人』(宮島達男編)
1冊の新書版にしてはゴージャス過ぎるラインナップなのである。世界的にその名を知られる現代美術家・宮島達男。その「世界のミヤジマ」がホスト役になり、フランス芸術文化勲章オフィシェを受章した杉本博司、建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞を受けた西沢立衛をはじめ、現代日本を代表するクリエイトな人々が計7名登場して自分自身のことを語る対話編。続きを読む
【書評】アメリカの驚愕の事態がここに 解説:田原総一朗(ジャーナリスト
『(株)貧困大国アメリカ』(堤 未果 著)
堤未果氏のアメリカをターゲットにしたルポタージュは、その細やかで、多岐にわたる具体的な取材で群を抜いている。前書『ルポ 貧困大国アメリカ』でも驚嘆させられたが、今回の書は、アメリカの大矛盾を、さらに鋭く、そして容赦なく摘発している。続きを読む
新時代の生き方を模索する人々に捧ぐ 解説:茂木健一郎(脳科学者)
『不安が力になる──日本社会の希望』(ジョン・キム著)
脳の働きから見れば、ある人のことをいちばんわかるのは、その人と共通点も、相違点もほどよく兼ね備えた他者である。自分のことは、案外わからない。自己を相対化する視点が欠けているからである。また、あまりにも遠い人のこともわからない。類推ができないからである。続きを読む
「脳」という視点で「現代の黒船」の対応を考える 解説:宇野常寛(評論家)
『新しい日本の愛し方』(茂木健一郎著)
茂木健一郎という知性が日本社会に与えたインパクトを一言で言えば、それは「こころ」は「記述」できるという前提で人間に、文化に、そして社会にアプローチしたことに尽きるだろう。続きを読む
戦争体験を後世に残す、平和教育の真の教科書 解説:森田 実(政治評論家)
『西部ニューギニア戦線 極限の戦場――飢餓地獄を彷徨した将兵の証言』(久山 忍著)
最初に、戦争体験者の証言を記録するという崇高なる活動に取り組まれている著者の久山忍氏に深く敬意を表さなければならない。じつを申せば私は戦後67年余を戦争体験者から生の体験を聞き、これを記録し、戦争の真実を後世に残したいと考えつつ生きてきた。続きを読む
社会保障のあり方を考えるヒント 解説:赤木智弘(フリーライター)
『14歳からわかる生活保護』(雨宮処凛著)
タイトルには「14歳からわかる」とあるが、内容は決して子どもに向けたものではない。大人でも普通に知らない生活保護の実態を、長く貧困の現場で、直接さまざまな立場の人たちと関わってきた著者が、14歳が読んでもわかるように噛み砕きながら論じている。続きを読む
異領域の資料をもとに歴史の真実に迫る 解説:木村 礼(文筆家)
『家光大奥・中の丸の生涯 狩野探幽と尽くした徳川太平の世』(遠藤和子著)
大奥といえば、誰もがすぐ思い浮かべる人物がいる。3代将軍家光の乳母、春日局だ。この春日局から「心の正しくない気違い」とののしられた家光の正室で、不仲のため結婚してほどなく別居した場所から「中の丸殿」と呼ばれた孝子については、その名を知るものは多くはないだろう。続きを読む
知的財産のツボをわかりやすく解説 解説:茂木健一郎(脳科学者)
『知っておきたい知的財産活用術』(香坂 玲編著)
インターネットの発達や、今課題のTPPなど、ビジネスの現場だけでなく、日々の生活の中でも、知的財産についての知識が必要な時代になっている。デジタルな情報が国境を越えて流通し、電子書籍が私たちの読書スタイルを変えようとしている今、知的財産に関する法律や制度を理解していないと、未来を見通すことができない。続きを読む
女性俳人たちのめくるめく恋愛俳句の世界 解説:加藤真理(編集者)
『胸に突き刺さる恋の句 女性俳人百年の愛とその軌跡』(谷村鯛夢著)
いま、俳句人口1000万人、といわれる。各種の俳句大会や句会を見ても主力は女性で、専門俳人団体の会員も約65%が女性とのこと。女性俳句大隆盛、といってさしつかえないだろう。もともと、男は俳句、女は短歌と言われていたものだが、この女性俳句大隆盛はどのようにしてもたらされたのか。続きを読む