『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第81回 正修止観章㊶

[3]「2. 広く解す」㊴

(9)十乗観法を明かす㉘

 ⑥破法遍(9)

 (4)従空入仮の破法遍①

 すでに述べたが、「広く破法遍」を明かす段落は、竪の破法遍、横の破法遍、横竪不二の破法遍の三段落に分かれている。最初の竪の破法遍を説く段は、さらに従仮入空(空観)の破法遍、従空入仮(仮観)の破法遍、中道第一義諦に入る(中観)破法遍の三段落に分かれている。これまで従仮入空の破法遍について説明してきたが、ここからは従空入仮の破法遍を説明する段である。この段は、入仮の意、入仮の因縁、入仮の観、入仮の位の四段に分かれる。 続きを読む

連載「広布の未来図」を考える――第3回 宗教を判断する尺度

ライター
青山樹人

――「政治と宗教」への人々の懐疑や批判的な声が続いています。そのうえで前回は、むしろこれをコミュニケーションのチャンスと捉えるべきだという話が出ました。

青山樹人 これは、とても大事な視点だと思います。むろん、誰でも自分が一番大切にしているものを土足で踏みにじられれば、黙っていられませんよね。その心情は当然でしょう。
 また、幾百万人の信仰に関わる悪意のデマに対しては、やはり黙していてはいけない。

 池田先生は『新・人間革命』で、日蓮大聖人が常に電光石火の言論戦に徹していた姿に触れ、

 黙っていれば、噓の闇が広がる。その邪悪を破る光こそ、正義の言論である。(第8巻「清流」の章)

 「一」 の暴言、中傷を聞いたならば、「十」の正論を語り抜く。(同)

と綴られています。
 まして現代はSNSの時代です。誤情報や悪意のデマが瞬時に広がる。だからこそ「電光石火」のスピードで、真実の情報を繰り返し発信していく必要があります。 続きを読む

【TODAIインタビュー】特性を生かして、アートの道を切り拓く

葉っぱ切り絵アーティスト
リト

 葉っぱの上に、あたたかく優しい世界をつくり上げる、葉っぱ切り絵アーティスト・リトさん。自身の「過集中」という特性を生かし、唯一無二の作品を次々に制作。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)をはじめ、さまざまなメディアで紹介され、国内外で話題を呼んでいます。今年2月には、子どものための優れた作品制作や活動を行う人に贈られる、第3回やなせたかし文化賞「大賞」を受賞! ますます活躍の幅を広げるリトさんに話を聞きました。(『灯台』4月号から転載 取材・文/瀬尾ゆかり 写真/ボクダ茂) 続きを読む

書評『平等について、いま話したいこと』――民主的熟議こそ不平等克服の鍵に

ライター
小林芳雄

不平等が生み出す社会の分断

 本書『平等について、いま話したいこと』は、欧米を代表する2人の知性が「平等」を巡って交わした白熱の議論を編集してまとめたものだ。
 一方の著者トマ・ピケティは、フランスの経済学者でパリ経済大学の教授を務める。著書『21世紀の資本』は700ページを超える大著であるにもかかわらず、日本でもベストセラ―となり話題を呼んだ。
 もう一方の著者マイケル・サンデルは、アメリカのハーバード大学の教授を務め、対話形式の授業の模様がテレビ番組『ハーバード白熱教室』として放送されたこともあり、日本でもっともよく知られている政治哲学者のひとりである。
 出自も思想的立場も異なる二人が行った対話なので、平等な社会の実現に関する議論には対立点がある。しかし、不平等がもつ問題点に関しては驚くほど意見が一致している。
 両者によれば現在世界に蔓延する不平等には、3つの側面があるという。機会の不平等、政治的不平等、尊厳の不平等である。
 そして、こうした問題の背景には現在の資本主義の在り方と、それを当然のことと思い込ませる能力主義というイデオロギーがあるという。 続きを読む

芥川賞を読む 第50回 『道化師の蝶』円城塔

文筆家
水上修一

難解な作品に対する期待

円城塔(えんじょう・とう)著/第146回芥川賞受賞作(2011年下半期)

選考委員も「分からない」

 本コラムでは、これまでも読むのが難儀な分かりづらい幾作品かの芥川賞作品を扱ってきたが、これほどまでに難しい作品は初めてだった。円城塔の「道化師の蝶」である。愚鈍な私の未熟な読解力ゆえの結果かと思いきや、『文藝春秋』(2012年3月号)の「芥川賞選評」を読んでみると、多くの選考委員が「分からない」と述べているではないか。少々、安堵。
 少し長くなるが、そのまま選考委員の選評を引用する。
 まずは黒井千次。

作品の中にはいって行くのが誠に難しい作品だった。出来事の関係や人物の動きを追おうとするとたちまち拒まれる。部分を肥大化させる読み方に傾きかけると、それもまたすぐ退けられる。つまり、読むことが難しい作品であり、素手でこれを扱うのは危険だという警戒心が働く

続きを読む