大衆に根を張った政党
2019年11月17日で、公明党は結党55年を迎える。
結党された1964年は、日本が先進国としてOECD(経済開発協力機構)に加盟し、東海道新幹線が開業、東京オリンピックが開催された年であった。
その2年前、前身である公明政治連盟の第1回全国大会に来賓として出席した党創立者の池田大作・創価学会第3代会長は、次のように挨拶した。
最後の最後まで、生涯、政治家として、そして指導者として、大衆に直結していってもらいたい。偉くなったからといって、大衆から遊離して、孤立したり、また組織の上にあぐらをかいたりするような政治家には絶対になっていただきたくないのであります。大衆とともに語り、大衆とともに戦い、大衆のために戦い、大衆の中に入りきって、大衆の中に死んでいっていただきたい。(『公明党50年の歩み』)
この言葉は結党にあたって綱領に
大衆とともに語り、大衆とともに戦い、大衆の中に死んでいく
という指針として掲げられた。
公明党の淵源は、1955年に地方議会に議員を誕生させたところにさかのぼる。現在も公明党は党派別では最多の2700人を超す市区町村議員を擁し、都道府県議員や国会議員とあわせて約3000人の陣容を誇る。
目まぐるしく合従連衡を繰り返す野党と異なり、公明党が20年にわたって自民党との連立政権を持続し深化させ続けることができているのは、文字どおり公明党が「大衆」に根を張った政党だからだ。
中長期的な観点での支持
宗教団体が政党をつくり、あるいは支持することを、いまだに憲法20条の「政教分離」に違反すると思い込んでいる人々もいる。
このことについては憲法学者ライプホルツに師事した竹内重年氏が明快に語っているので、疑問や関心のある人は是非一読してもらいたい(前掲記事「『政教分離』の正しい理解なくしては、人権社会の成熟もない」)。
日本政治外交史、現代日本政治論が専門の一橋大学の中北浩爾教授は、
公明党は大衆に基盤を置きながら中道・中庸の立場をとり、国民生活の向上に取り組んできました。ドイツやオランダなどのヨーロッパ諸国ではキリスト教民主主義政党が政治の中心を占めてきましたが、公明党はそれに比肩する役割を担っていると見ています。(『月刊公明』2019年11月号)
と述べている。
1993年にそれまでの自民党単独政権の構造が崩壊して以降、日本は「連立政権」の時代に入っている。
ところが細川内閣以来すべての連立政権は、〝内部対立〟によって弱体化し崩壊してきた。
唯一例外的に合意形成と信頼を深め続けているのが自公連立だ。
2009年の下野は単に民主党が300議席超を獲ったからで、民主党政権が国民の信任を失うと、ふたたび自民党と公明党で政権を担っている。
一般に組織や固定票は悪いものであり、無党派層こそが望ましい有権者だという見方がありますが、現実には中長期的な観点に立って辛抱強く応援してくれる党員、支持者がいるからこそ安定した政治ができるし、17年衆院選時の「希望の党」騒動のような離合集散が起きないわけです。自公両党が支持基盤を大切にしていることや、それをベースに選挙協力をしてきたことは、肯定的に評価されてもいいのではないでしょうか。むしろ野党がそれを見習うべきです。(中北教授/同)
民主党政権が3年余で崩壊したのも、その後の野党が合従連衡を目まぐるしく続け、現実的な政権構想を示せないのも、大衆に根を張った基盤が脆弱で、その時その時の有権者の〝気分〟が吹かせる風頼みだからなのだ。
「最強のリーダーシップ」
この自公の安定した政権運営は、今やポピュリズムが席巻する国際社会においても重要な役割を果たしている。
さる10月2日、公明党の山口那津男代表は、著名な国際政治学者で米調査会社ユーラシア・グループ社長のイアン・ブレマー氏と会見した。
ブレマー氏は、日本の政治、社会の安定が世界でも際立っているとして「世界中の先進民主主義国家の中で、現段階で日本が最強のリーダーシップを誇っているのは間違いない」と述べた。
日本の安定の理由として、人口減少が進み「中産階級が割を食うことがない」ことや移民が少ないといった社会的構造などを挙げた上で、世界で起こっている戦争に直接的に関与していないことも一つの大きな要因だとの認識を表明。「日本が二度と戦争に関わらないということを強くバックアップしているのが公明党だ」として、平和を重視する公明党が政治の安定へ果たす役割を指摘した。(「公明党ニュース」10月3日)
閉塞感を破る新たな努力を
一方で、連立の一翼を担う公明党に対して識者などからも、これまでとは違う新たな役割を望む声が増えてきている。
世論調査にもあきらかなように、安倍政権が長期政権を維持できている最大の理由は、今の野党に政権を担う能力がないと多くの国民が見ているからであって、必ずしも積極的な支持ばかりが強いわけではない。
実現可能性がほとんど見えないような政策や、過激な言動を売りにするポピュリズム政党が左右を問わず議席を伸ばしていることは、政治に対する人々の閉塞感のあらわれだろう。
有権者の多くは、結果として自公政権を信任しつつも、昨今の相次ぐ閣僚の辞任に象徴されるような旧態依然とした「政治とカネ」の問題や、弱い立場の人々への目配りや共感を欠いた一部政治家の傲りに対して、憤懣と苛立ちを募らせている。
今までのところ若い世代ほど自公政権を支持している反面で、選択的夫婦別姓や同性婚への賛成、原発再稼働への反対に見られるように、若い世代ほど非自民党的な価値観を持つようにもなっている。
連立20年の実績のなかで、たしかに公明党へのかつてのような誤解や偏見はずいぶん解消された面はある。
しかし公明党の価値観や政策は、はたして広く国民に認識されているだろうか。
公明党は、自民党にも他の野党にも担えない独自の役割と能力があることを、もっと積極的に国民に伝えていく必要があるのではないか。
自公の連携の盤石さを強調するだけでなく、自民党とは異なる価値観についても、もっと鮮明に自分たちの考えを発信してほしいと思う。
与党のなかで合意形成のしくみと力量が成熟してきたからこそ、同時に自民党と公明党の異なる旗幟(きし)がクリアになることは、政権がより多様な人々の声に耳を傾ける、極端に引きずられない中道政治のさらなる実現に資するはずだ。
国際社会のなかでも公明党の存在が注目されるようになった今、公明党が立党の精神を胸に、次のステップの新たな役割に果敢に挑戦することを期待している。
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