2019参院選をふりかえる(上)――バランスを求めた有権者

ライター
松田 明

 令和初の国政選挙となった第25回参議院議員選挙が終わった。
 投票が締め切られた午後8時ほぼジャストに、NHKの開票速報がまず公明党の山口那津男候補(党代表/東京選挙区)の「当確」を発表。各メディアは出口調査の結果から早々に「与党勝利」と報じた。
 最終的に自民党・公明党の与党が、改選議席の過半数(63)を上回る71議席を獲得し、安定した政権基盤を維持。
 対する野党は、立憲民主党が8議席増の17議席となったが、国民民主党は2議席減の6議席。共産党も1議席減の7議席にとどまった。
 選挙結果について、いくつかの視点から検証してみたい。

票を呼べなかった野党

 まず、48.8%と戦後2番目の低さを記録した投票率について。
 よく、投票率が下がると〝組織に有利〟という言い方がされる。そしてその場合、多くの人は組織に支えられた政党として自民党や公明党を挙げる。
 しかし、じつは立憲民主党、国民民主党、社民党といった政党の最大の支持団体は連合など労働組合だ。
 実際、たとえば元アイドルや女子アナ、芸能人、格闘家などを比例候補に多数擁立した立憲民主党でも、8議席得た比例区のうち上位5議席は労組出身の候補である。
 あたかも組織と無縁な有権者や無党派層に支えられた野党のように装っているが、実態は労働組合という組織に大きく依存する政党であることを鮮明にする結果だ。
 そして、共産革命・社会主義革命をめざす日本共産党は、言わずもがなのゴリゴリの組織政党である。
 一方で、時事通信社がおこなった出口調査では、

「支持する政党はない」と答えた無党派層の比例代表での投票先は、自民党(個人名投票含む)がトップの25.5%を占めた。(「時事ドットコムニュース」7月21日

と、「支持政党なし」の無党派層の4人に1人が自民党に投票している。
 公明党に投票した無党派層も6.8%。両党を合わせると32.3%。無党派層のほぼ3人に1人は与党に投票したことになる。
 2017年の総選挙で無党派層の28%から得票した立憲民主党は、今回21%の得票にとどまった。
 あれだけ野党が「年金問題」の不安を煽り、また自民党議員の中に失言などが繰り返されたにもかかわらず、今回の投票率が低かったことは、有権者の多くが野党に期待を寄せなかったことの表れといえるだろう。
 政治学者の菅原琢氏は、開票途中のツイートで、次のように指摘した。

 出口調査の傾向からは、比例得票率は自公あわせ50%超くらいか。有効投票率は50%切るだろうから、絶対得票率は25%くらい。これで政権を維持できるのは、何度も言うけど、自公が弱いとか制度がひどいよりまず野党が票を集められないことが問題。投票率が低いのではなく野党が票を呼べないのが問題。(7月21日のツイート)

10代は過半数が自公に投票

 若い世代が自公連立政権を支持する傾向は、今回もハッキリとあらわれた。

 18、19歳有権者の投票先は自民が41.0%を占め、16年参院選(40.1%)、17年衆院選(46.1%)に続きトップ。公明の10.8%と合わせ、与党で過半数に達した。立憲が2位の13.9%、れいわは4番手の7.4%だった。
 年代別で自民は20代、公明は10代で最も高く、若年層の与党志向が裏付けられた。一方、立憲は40代まで、共産は50代までの得票率が全世代の平均値を下回り、ともに70代以上の得票率が最高だった。(前出の「時事ドットコムニュース」)

 自民党と公明党が若い世代に顕著に支持され、対照的に立憲民主党と共産党の支持層は高齢者に偏っている。
 自公連立政権が若い有権者の支持を受けていることについては、以前の記事(2019参院選直前チェック②)を参照されたい。
 主な理由は、現政権の政策によって就職率の改善など若者自身の「幸福度」が高いと実感されていることや、与党がきわめて積極的に若者の声を拾い上げる努力をしている点にある。
 若い世代は、概して積極的な投票行動をしないように見えるが、各政党の能力についてはシビアに見ている。
 2019年2月に刊行された『イデオロギーと日本政治――世代で異なる「保守」と「革新」』(遠藤晶久/ウィリー・ジョウ)は、詳細なデータ分析の結論として次のように記している。

 他国との比較で日本が際立つ点は、若者も含めて有権者が保守化をしているということではないし、そのような事実自体も疑わしい。むしろ際立つのは、右側の政党と見られている自民党が、左派や穏健左派からかなりの支持を得ることに成功していることである。

 一部の野党やその支持者が「戦前回帰」「極右」などとレッテル貼りする安倍政権だが、実際には公明党との連立によってきわめて中道的な政治姿勢になっている。
 そして今回の選挙で「憲法改正」を前面に出して訴えた自民党が9議席減になったのに対し、同じ与党でも公明党は3議席増の14議席を獲得し、非改選を合わせて参議院では過去最高となる28議席となった。
 有権者は、総じて今の自公連立による安倍政権の安定を望んだと同時に、政権が右サイドに傾くことには警戒心を示し、より生活者や若者の声を拾う方向に政権内のバランスを求めたと言えるだろう。
 では、野党の選挙結果は何を物語っているのか。それは後半の(下)に記したい。

2019参院選をふりかえる 上・下:
2019参院選をふりかえる(上)――バランスを求めた有権者
2019参院選をふりかえる(下)――ポピュリズムの危うさ

参院選直前チェック①~④:
2019参院選直前チェック①――議員としての資質があるか
2019参院選直前チェック②――「若者政策」各党の温度差
2019参院選直前チェック③――争点は「安定か混乱か」
2019参院選直前チェック④――政治を変える現実策とは

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