年金を政争の具にする野党
参議院選挙の本当の〝争点〟は、はたして何だろうか。
作家の佐藤優氏は、
参議院議員選挙の争点は、どの論点についても最終的に「安定か混乱か」という問題に収斂(しゅうれん)する。(『産経新聞』7月14日)
と言い切る。
たとえば立憲民主党の辻元国対委員長などは、年金問題をことさらに強調し、
年金は安心だという安心安心詐欺じゃないか。これは最大の参議院選挙の争点になるんじゃないかと思います。(「日テレNEWS」6月11日)
と煽ってきた。
だが、佐藤氏は前述の産経新聞で、こうした旧民主党系の野党の主張をバッサリ斬る。
金融庁の報告書に関して、野党が激しく政権を攻撃するが説得力がない。この仕組みは「社会保障と税の一体改革」の名の下、当時政権を担った民主党と野党だった自民党、公明党が合意してできたものだ。製造者責任に口を拭って、年金問題を政争の具にしようとする旧民主党幹部だった野党政治家の姿は見苦しい。
公的年金のメリットは格別
2004年の制度改革で、政府は年金制度を「100年安心」と打ち出した。
日本の年金制度は世界的に見てもきわめて安定した制度であり、納付額に対して受け取れる給付額の多さは、どんな預金よりもメリットが大きい。
長生きすることを考えると、個人で積み立てるより、公的年金の方がはるかに有利であるのは事実だ。
公的年金は生きている限り受給できる。若い世代は今の高齢者に比べれば受給水準は低くなるが、長生きするほど自分で積み立てるより多額の給付を受けられる。
インフレなどの経済変動を考えても、国が運営する公的年金のメリットや信頼性は、個人で老後に備える場合をはるかに上回る。(『毎日新聞』2019年6月19日、社説)
この年金制度そのものは何ら揺らいでいない。
ただし、人生100年の長寿社会になって、家庭ごとに資産も違えば家計の支出も違う。何歳まで働くのかという人生設計もそれぞれなら、健康状態もさまざまだ。
そもそも年金制度というのは、老後も現役時代の収入と同じ額を受け取るような魔法のような制度ではない。
2014年の財政検証では、現役世代の手取り所得の6割強を受け取れるという試算になっている。
法律では、この所得代替率を50%以上維持するように定められている。
「国民の不安を煽るな」
繰り返すが、
国が運営する公的年金のメリットや信頼性は、個人で老後に備える場合をはるかに上回る。(『毎日新聞』2019年6月19日、社説)
のである。
そのうえで、別途に資産を蓄えるのか、年金受給時期を遅らせるのかなどは、世帯ごとで考え工夫する問題なのだ。
佐藤氏が厳しく指摘したように、旧民主党の面々は自分たちが政権与党だった時代に「社会保障と税の一体改革」をやった当事者だ。
彼らは年金制度そのものが「100年安心」であることを知っている。
知っていて、意図的に〝年金だけでは暮らせない〟と不安を煽り立て、あるいは自分たちが決定した消費増税に今さら反対し、参院選の政争の具にしているのである。きわめて悪質というしかない。
先の毎日新聞社説も、こうした一部野党の手法を厳しく批判している。
野党は批判を強め、参院選の争点にしようと試みている。老後の不安から年金に関心の高い人が多いためでもある。
しかし、不正確な知識や誤った情報に基づく議論は控えたい。国民の不安をあおり、公的年金の信頼を傷つけると、制度そのものの信頼が揺らいで若い世代の将来にも大きなダメージとなる。(同)
民主党政権がやったこと
野党やその支持者の中には、「日本がどんどん悪い方向に進んでいる」というようなパターンの、フワッとした言説がある。
はたしてそうだろうか?
あの民主党政権時代は、今よりもいい政治だっただろうか?
普天間飛行場の辺野古移設を決定し、日米合意をしたのは民主党政権である。
国の借金である新規国債発行額で過去最高となったのも民主党政権である。
原発再稼働を決定したのも民主党政権である。
消費税率10%への引き上げを決定したのも民主党政権である。
福島第一原発のベントをした際、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)のデータを米軍や米大使館には3月14日から提供しながら、国民には17日まで隠していたのも民主党政権である。
尖閣諸島の国有化を実行し、日中関係を〝国交正常化以来で最悪〟の一触即発に陥らせたのも民主党政権である。
この民主党政権の中枢にいた面々が、いっこうに国民からの信頼を回復できないまま、クルクルと党名を変え、共産党にすり寄り、バブル政党に皆で飛び移ろうとして失敗し、ケンカ別れして、そのあげくに「まっとうな政治」などと叫んでいるのではないのか。
自公政権は、日中関係を完全に修復した。児童手当の拡充、がん対策基本法の制定、出産一時金の増額、奨学金制度の拡充、バリアフリーや循環型社会の推進、無年金障害者の救済、女性専用車の拡大、女性専門外来の整備、臍帯血移植の推進、教育無償化の実施、待機児童ゼロの推進、児童虐待の根絶への法改正、防災減災など、生活や人々の生存に密着した分野で、着実に政策を実現し、前に進めている。
欧米各国が政治の流動化に見舞われるなか、日本は世界でも例外的な「政治の安定」を維持している。
それは、自民党と公明党という、本来は政策にも支持層にも距離のある政党が絶妙に連立を維持し、合意形成に努めているからこその安定なのだ。
対する野党は、自公政権を批判しながら、それに代わる政権の枠組みも理念も打ち出せていない。陰で罵倒し合い、互いの政策に何の整合性もないまま、見せかけの「共闘」を演じている。
まさに参議院選挙の争点は、「安定か混乱か」ということに尽きるのである。
参院選直前チェック:
2019参院選直前チェック①――議員としての資質があるか
2019参院選直前チェック②――「若者政策」各党の温度差
2019参院選直前チェック③――争点は「安定か混乱か」
2019参院選直前チェック④――政治を変える現実策とは
関連記事:
「災害対策」に強い公明党――自治体首長らの率直な評価
「解散風」に右往左往した野党――深刻化するバラバラ感
「野党統一候補」の不協和音――不信と嫌悪にまみれた〝共闘〟
政権に影響力を示す公明党――世界的にも特殊な自公連立政権
公明党が果たす役割の大きさ ――書評『自公政権とは何か』