6年間で3億円以上
1億3000万円。これは、1人の参議院議員が1期6年間に国から受け取る歳費と期末手当のおよその合計額だ。
実際には、これに文書通信交通滞在費と、政策担当秘書、公設第一秘書、公設第二秘書の3人の給与として6年間で約1億8000万円が加わる。
つまり、1人の参議院議員の1期6年間の政治活動には、3億円以上の税金が使われるのだ。そして、参議院には「解散」がないので、どんな人間も当選してしまえば6年間、身分が保証される。
この支出に十分に見合うだけの能力を持ち、見合うだけの仕事をする議員を選ばなければ、ツケを払わされるのは国民である。
選挙戦の火ぶたが切られた2019年夏の参議院選挙、まず見極めるべきは各党の候補者の資質だろう。
外交官や弁護士、公認会計士、教育者など、国際感覚や専門性をもった候補者を擁立している政党もあれば、どうみても〝人気取り〟先行ではないかと首を傾げたくなるような候補者をかき集めている政党もある。
もちろん、参議院は「良識の府」であり、できるだけ多様な立場の人が参画すべきではある。
だが、はたして議員として6年間に3億円超の税金を払うだけの仕事ができるのかどうか、あきらかに疑わしいような人物では困る。
被災地への差別発言繰り返す
今回、芸能人や女子アナウンサーなどの候補擁立が目立つ立憲民主党。
じつは、さまざまな調査データから立憲民主党のコアな支持層は「高齢の男性」に偏っていることがわかっている。
リベラルを売りにした野党第一党でありながら、若い世代の支持が弱い。
今回、立憲民主党が芸能人や女子アナなどを精力的にリクルートした背景には、こうした若者層や女性層の票を取り込みたいという思惑が見える。
ところが同党の候補者の中には、どういう基準で選んだのか疑問に思わざるを得ない人物もいる。
まず、すでに公示前からSNS上などで批判を浴びているのは、立憲民主党の比例候補になった女性の芸人。
この候補は原発事故の直後から、風評被害を煽り立てる差別的な発言を繰り返している。
2011年7月には「来年の正月から奇形児の新生児が大量に産まれます」(原文ママ)といった悪質なツイートを引用リツイートして、
いや妊婦さんは逃げたから、出生率が激減するんじゃない? みんな繁殖控えてる感じ。(2011年7月3日のツイート)
さらに9月には、
4月頃、福島側のベランダには見たこともない色のものが付着していた、何十年ここで暮らしてるけどね、とか4月に福島側の雑草抜いてたら口の中が金属の味がした、などなどみなさんの不安もいっぱい。(2011年9月25日のツイート)
この候補が過激な〝原発デマ〟で注目を集めようとするスタンスは今も一貫していて、公示直前の6月25日に福島県内でおこなった講演でも「D通」という言い方で大手広告代理店の名を挙げ、
3月12日午後には東京(本社)はいったん閉めて全員大阪に行っていますって言われた。
などと発言。SNS上では、常識的に考えてあり得ないといった批判が殺到している。
ちなみに東電の福島第一原発で最初の水素爆発が起きたのは12日の15時36分である。
「党の考えを体現する人たちだ」
念のために記すと、南相馬市立総合病院の澤野豊明医師は、この6月26日に医療ガバナンス学会のメールマガジンで「福島第一原発事故後の先天奇形は増えていない」医療ガバナンス学会(2019年6月26日)と発表している。
しかも、この候補者の芸人は前回2017年の総選挙の投開票日夜に、立憲民主党が野党第一党になる情勢が判明すると、
本当は野党第1党は共産党が良かったです。こんな気持ち初めて。立憲民主党は支持するけど、枝野さんとか、どうしても支持できないし。原発事故後の取材を通じて、昨年の野党共闘下での枝野さんの動きを取材して、無いな100%だったので。共産党、今後も本当に支持する。(2017年10月22日のツイート)
とツイート。
その当人が、枝野氏が率いる立憲民主党から平然と立候補しているのだ。
立憲民主党の枝野代表はこの候補らの擁立を決めた2018年9月の会見で、
いずれの候補も党の考えを体現する人たちだ(『朝日新聞』2018年9月29日)
と語っている。
なお、この候補者は消費税率引き上げに関しても、枝野代表が言明した立憲民主党の方針とは異なる独自の主張を街頭演説で続けている。
政策を語れない候補者
さらに立憲民主党は元アイドルグループの女性を擁立しているが、こちらも政治家としての資質に強い疑問を抱かざるを得ない。
6月26日の立候補表明の記者会見。最初に手を挙げた記者から「出生率を上げるためにはどのような対策をとるべきか」等と問われると、この元アイドルは途端に顔をこわばらせた。あきらかに、何を答えていいのかわからないといった様子。
困惑した表情のままようやく口をついて出たのは、
やはり……子育て支援に関する政策というのを、中心に、私自身がもし立候補して、しゅつ……はい、当選できたならば……中心を、はい、子育て支援に関する政策を中心に、主張をしていきたいと思っております。育児、教育、家族のために総合的に、政策に取り組むべきだと思っております」(「SankeiNews」2019年6月26日)
という、まったく意味不明の言葉だった。
ほかにも、縁もゆかりもない兵庫県に落下傘候補として擁立されたフリーアナウンサーの女性も、ろくに政策を語ることができず、
テレビの仕事に戻りたい。大変ですもん、これ
と言い放った様子が拡散されて批判を浴びている。
参議院議員という仕事を、安易な再就職先のように考えてもらっては困る。
くりかえすが、こういう候補者たちでも当選すれば6年間、参議院議員の身分が保証され、3億円以上の税金が使われるのである。
即戦力として働ける多様な候補者を揃えている政党と、どう考えても票集めが目的で〝人寄せパンダ〟を揃えたとしか思えない政党と。
一般庶民の生涯所得にさえ匹敵するような多額の税金を、6年間で与えてよい候補者かどうか、しっかり吟味していきたい。
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