32選挙区で〝統一候補〟
来たる参議院選挙に向けて、32ある「1人区」で立憲民主、国民民主、共産、社民などの野党が〝統一候補〟を立てる見通しとなったようだ。
参院選全体の勝敗を左右する1人区は全て、公明党推薦の自民党公認候補と野党候補が対決する構図になる。(「毎日新聞WEB」6月7日)
この6年半、自公の連立与党が安定したパートナーシップを深めている一方、野党は目まぐるしく合従連衡を繰り返してきた。
分裂と罵り合い。風向きを見ての野合。クルクルと変わる党名。低迷する支持率。多くの有権者は、今や誰がどの党の所属なのかもよく分からないほどだ。
実際、わずか6年半で所属政党が5つも6つも変わっている野党議員も珍しくない。
そんな野党が、各党それぞれで候補者を立てても1人区では勝ち目がないということで、なんとか32人の〝統一候補〟の体裁をつくりあげた。
ところが、この無理やりの調整で、かえって野党間の確執と不信感が露わになった。
野党間の不信感と不満
まず、同じ政党から分裂し、犬猿の仲となっている立憲民主党と国民民主党。
6月4日に会談した福山哲郎幹事長と平野博文幹事長は、双方いずれかの党の公認を得て立候補する統一候補については、もう一方の党が推薦をしないことで合意した。
推薦を得られるのは、両党の党籍をもたない候補者のみという。
推薦対象を無所属に限定したのは、原発などの政策や国会運営で対立を繰り返してきた立憲、国民両党の間に根強い不信があるためだ。立憲幹部は「公認候補が当選すればその党の公約の実現に頑張る。そういう人に他党が推薦を出すのは筋が違う」と語った。
相互推薦見送りについて、野党系無所属のベテラン議員は「本当にばかだ。戦う前から負けている」と嘆いた。(「時事ドットコムニュース」6月4日)
いくら建て前だけ〝野党統一候補〟と謳っても、互いの政策が違うから、推薦は出せないというのだ。
このことは、〝野党統一候補〟なるものが、いかに無責任でネガティブな動機に支えられたものかを物語っている。
岩手選挙区では、国民民主党の県連を無視して、小沢一郎氏らが早々に旧自由党と共産党、社民党だけで〝野党統一候補〟を擁立した。
その小沢氏が国民民主党に合流したことで、5月29日には国民民主党憲法調査会長で県連副代表だった階猛議員が離党。
さらに6月3日には、国対委員長代行の山井和則議員が離党。山井氏は無所属議員として立憲民主党会派に所属したい意向を示した。国対の幹部が国会会期中に離党し、反目し合う他党への合流を希望するというのは、もはや異常というしかない。
自民党議員は「解散風にあおられたのだろう」と冷ややかに語った。(「毎日新聞WEB」6月3日)
こうした野党間の確執と恨みは、国民民主党の候補を〝野党統一候補〟にするため、社民党が候補擁立を取り下げた鹿児島選挙区でも聞こえてくる。
表向きは一本化したものの、社民党内には「国民と仲良く手を取り合うのは考えにくい」(幹部)との不満が残り、選挙態勢に影響する可能性もある。(「毎日新聞WEB」6月7日)
1年半で目標を取り下げる
この〝野党統一候補〟に漂う野党間の寒々とした空気は、日本共産党をめぐって一層際立っている。
2017年の総選挙で比例票を601万票から440万票へと激減させ、21議席から12議席へと大敗した共産党は、同年12月の第3回中央委員会総会で敗因を総括。
この折、志位委員長は2019年の参院選について2つの目標に挑むと宣言した。
その1つが野党間の選挙協力での「相互推薦」である。
本来、選挙協力は相互的なものであり、そうしてこそ力を発揮することができるし、持続・発展することができます。次の参院選では、過去2回のような一方的な対応は行いません。あくまで相互推薦・相互支援の共闘をめざします。(『しんぶん赤旗』2017年12月4日)
ちなみにもう1つは、
比例代表で「850万票、15%以上」を目標にたたかいます。(同)
である。
ところが、共産党はわずか1年半後の今年5月の第6回中央委員会総会で、あっけなく「相互推薦」の方針取り下げを発表した。
これまで共産は、候補者を降ろす条件として相互推薦・支援の確約を他党に求めてきたが、志位氏は総会後の記者会見で「推薦を出すのが一番の強い形だが、そこまでいかなくても、状況に即して勝つために効果的な支援を目指したい」と語り、相互推薦にこだわらない方針を明らかにした。(「時事ドットコムニュース」5月12日)
2015年の秋以来、共産党は「野党共闘」を主導してきた。支持率の低迷にあえいでいた当時の民主党は、安易にその誘いに乗った結果、選挙で連敗。
政権交代を訴える野党第一党が、共産主義革命を綱領に掲げる政党と組むのだから、有権者の信頼など得られようはずもない。
その結果が、今のバラバラに分裂し、反目し合い、離党だ合流だと右往左往する野党の姿である。
嫌われる日本共産党
志位委員長は、2017年の大敗北を受けた第3回中央委員会総会で、
今回の総選挙での得票の後退は、かつてのような「共産党排除の壁」に追い詰められての結果ではありません。共闘を貫いた党の姿に共感して、新たに支持してくださった方も少なくありません。(『しんぶん赤旗』前出)
と強弁してみせたが、またしても早々に「相互推薦」の条件を取り下げざるを得なかったのは、まさに野党間の現場で共産党への忌避感が強いからだ。
今回の1人区では、島根・鳥取の合区、徳島・高知の合区、福井で共産党候補が〝野党統一候補〟として出馬予定。
だが福井では立憲民主、国民民主、社民の支持団体である連合福井から、強烈な拒絶の意向が示された。
連合福井の横山龍寛会長は「連合本部の方針を確認した結果、連合福井としては共産候補は応援できない。無所属で出馬した場合でも同じだ」と明言した。(『福井新聞』5月27日)
共産党は3人の候補から党の看板を外して無所属に切り替えたが、連合の神津会長は、
「共産党とは歴史的な経過もあり、同じ選挙事務所で力を合わせてやることにはならない」と記者団に強調。連合幹部は共産系統一候補への対応について「自主投票になる」と明言した。(「時事ドットコムニュース」6月7日)
今年4月の大阪12区衆議院補選で、共産党は現職議員を辞職させ、無所属の〝野党統一候補〟として出馬させたものの、前回選挙の共産党候補の得票数の6割しか獲れないという惨敗を喫した。共産党の凋落ぶりと、野党間にある共産党忌避を象徴している。
「反安倍」というポピュリズム
国際医療福祉大学の川上和久教授は、こうした欺瞞に満ちた野党の〝野合〟を、
今回の参院選でも野党統一を謳うのであれば、「反安倍」という雑なワンイシューボーティングではなく、きちんと政策協定を結ぶ必要があると私は考えています。「反安倍」ということだけでポピュリズムを煽る。それは正常な政治とは言えません。(『第三文明』6月号)
と厳しく批判している。
そして、自公連立が互いに政策調整の能力を上げてきていること。特にその中で公明党が、庶民の「小さな声」を聴く地道な努力を続けていることを高く評価している。
大切なことは、日常的に地に足のついた政治ができているかです。有権者から話を聞いてインプットし、それを政策としてアウトプットする。その〝御用聞き〟としての地道な努力の継続がなければ、政治を前に進めることはできないのです。
その意味でも、今や公明党の役割はいやまして重要なものになっているように思います。(中略)政権を獲るためだけに離合集散を繰り返しているような野党に流されないためにも、有権者の方々にはしっかりと政策や実績を見ていただきたいと思います。(同)
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