沖縄県知事選のゆくえ⑤——「対話」の能力があるのは誰なのか

ライター
松田 明

不公平な地位協定

 沖縄県では9月に入ってからも、読谷村(よみたんそん)で酒に酔った米兵が住居に不法侵入し、高校2年の少女が生後5ヵ月の妹を抱いて近所の家に逃げ込むという事件が起きた。
 読谷村議会は19日の臨時会で、全会一致で意見書と抗議決議を可決。決議では被害者への完全補償、日米地位協定の抜本的見直しなどを求めた。
 沖縄県が今年3月にまとめた『他国地位協定調査 中間報告書』は、1972年の本土復帰以降、昨年末までに米軍人等による刑法犯が5967件、航空機関連の事故が738件発生したと記している。
 日本と同じく第二次世界大戦の敗戦国であったドイツやイタリアも、米国の同盟国として国内に米軍基地を置いている。
 沖縄県は昨年、これらの国に調査団を派遣した。
 ドイツやイタリアでは、世論の高まりを背景に地位協定の改定が進み、国内法を米軍にも適用させるなど、日本に比べてはるかに自国の主権を確立させて米軍をコントロールできている。
 上記の県報告書は、

 これに対し、日本では、原則として国内法が適用されず、日米で合意した飛行制限等も守られない状況や地元自治体が地域の委員会設置を求めても対応されない状況であり、両国とは大きな違いがある。(『他国地位協定調査 中間報告書』

と指摘している。

即座に動いた公明党WT

 沖縄県は昨年9月、地位協定の見直し条項を新たに追加し、日米両政府に要請をおこなった。
 この沖縄県の動きに、即座に呼応したのが政権与党・公明党だった。上記の県報告書も、冒頭の「はじめに」の中で、そのことに触れている。

 沖縄県は平成29年9月に、平成12年に実施した見直しに関する要請以降の状況の変化を踏まえ、見直し事項を新たに追加し、日米両政府に要請を行った。平成30年2月には、公明党も日米地位協定検討ワーキングチームを党内に設置している。(

 そして8月3日、公明党の井上幹事長自らがワーキングチームの議員らと共に首相官邸に菅官房長官を訪問。改定案を日本政府に申し入れた。

 公明党の井上義久幹事長らは3日、菅義偉官房長官と首相官邸で会談し、日米地位協定の改善について申し入れた。相次ぐ米軍機事故を受け、日本政府や自治体関係者が確実に事故現場に立ち入れるよう米側に求めるべきだとした。
 井上氏らは、米軍人らによる公務外の殺人や強姦などの凶悪犯罪について、起訴前の日本側への身柄引き渡しを地位協定に明記するよう要請。米軍の訓練・演習場の周辺自治体や米軍基地司令官による「騒音軽減委員会」の設置なども求めた。(『朝日新聞』8月3日

公明党と政策協定むすぶ

 前回2014年の知事選では自主投票をした公明党沖縄県本部だったが、この4年間の県政が経済の停滞や基地をめぐる国との対立に終始したことを踏まえ、自民党が擁立した佐喜真淳(さきま・あつし)前宜野湾市長の推薦に踏み切った。
 8月20日、佐喜真氏は公明党沖縄県本部を訪れて「政策協定」を交わした。じつは、このなかにも地位協定の改定についての項目が含まれている。
 佐喜真氏は普天間飛行場を抱える宜野湾市の市長として、返還交渉を粘り強く重ねてきた経緯がある。
 佐喜真氏は、公明党が先に日本政府に申し入れていた具体的な提案、

①起訴前の日本側への身柄引き渡し
②基地への日本の立ち入り権の明記
③訓練演習の事前通報
④事故時の事故現場への立ち入り

などに深く理解と同意を示し、県知事選立候補にあたっての公明党との政策協定に、これらを盛り込んだ。

「対話」か「対立」かの選択

 沖縄で暮らす人々にとって今回の県知事選挙は、共産党などが意図的に単純化しているような、辺野古移設の是非を問うだけのものではない。
 移設問題は、既に県が埋め立て承認を撤回した以上、まずは司法の判断にゆだねられる。
 むしろ、沖縄県民にとって大きな「基地問題」で取り組むべきは、他国と比べても極めて不公平な日米地位協定を改定させ、今も日常にある危険性を早急に、少しでも下げていくことだ。
 そのためには、なによりも日本政府、そして米国政府と「対話」ができなければならない。佐喜真氏が公明党沖縄県本部と政策協定を結んだ理由の1つも、そこにある。
 折しも、自民党総裁選では安倍首相が三選を果たし、むこう3年間、安倍政権が続く見通しとなった。
 事実上の一騎打ちとされている県知事選候補者のいずれが、知事として日米両政府を相手に事態を前に進められるのかは、火を見るより明らかではないのか。
 玉城デニー氏は小沢一郎氏を〝師〟と仰ぎ、今回の選挙では鳩山由紀夫氏に「物心両面」の支援を請うている。
 しかし、そもそも玉城氏も含めて、彼らは民主党政権時代に米国と何ら交渉を進められなかった。鳩山氏にいたっては、沖縄の基地問題で対米関係を大きく悪化させている。
 政権の座にあってすら米国と何も合意形成できなかった人々が、今になって何ができるというのだろうか。
 しかも、玉城氏を支援する「オール沖縄」、すなわち日本共産党も社民党も、日米安保に反対という政党だ。むしろ沖縄の共産党や社民党は、沖縄と日本政府を〝対立〟の構図に追い込むことで求心力を得てきた。
 もしも玉城氏が知事になった場合、沖縄はふたたび、そしてこれまで以上に、日米政府と対立する道を歩むことになるのは必然だろうと思うのである。

「沖縄県知事選のゆくえ」シリーズ:
沖縄県知事選のゆくえ①――県民の思いはどう動くか
沖縄県知事選のゆくえ②――立憲民主党の罪深さ
沖縄県知事選のゆくえ③――すっかり変貌した「オール沖縄」
沖縄県知事選のゆくえ④――「基地問題」を利用してきた人々
沖縄県知事選のゆくえ⑤――「対話」の能力があるのは誰なのか
沖縄県知事選のゆくえ⑥——なぜか180度変わった防衛政策

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