僕は、あまり自己啓発本の類を読まない。若いころに少しは手にしたことがあったのだが、それで懲りた。まず、説教くさい。それにしごく当然のことが書いてあるだけで、発見がない。
わざわざ読書をして、説教されるのはかなわないし、お金を払って、知識を広げたり物の見方を深めたりすることができないのは、損である。だから、本屋に行っても、自己啓発本のコーナーは、ちらっと見るだけで、手は伸びない。
ところが。
ところが、僕には、どうしても直したい癖がある。先延ばし癖だ。物書きを生業としているので、〆切に追われるのは仕方がない。ただ、それを先延ばししようという傾向がある。〆切が1日延びれば、いのちが1日延びた気がする。
仕事を怠けたいわけではない(いや、それもあるか……)。もう少し時間があれば、いい原稿が書けるとか、まだ準備が足りないとか、いろいろもっともな理由はあるのだ。僕の本業は小説を書くことなのだが、これなど〆切はあってないようなものだ。
編集者は形式的に〆切を設定して、この日までに原稿を、というが、書き手として納得できないので、もう少しと粘れば、たいていは先に延びる。僕は彼らが眼の色を変えて原稿を督促するようなベストセラー作家ではない。
でも、そうやって先延ばしにしていると、いつまでたっても作品は完成しない。これは小説家にとっていいことではない。そこで、先延ばし癖を直してくれる方法はないものかと探していた。
あった。その名も、『DO IT NOW いいから、今すぐやりなさい』。これは期待できるか。さっそく手に取ってみた。
先延ばしとは、すぐやるべきことをあと回しにすることです。
うん、そんなことは分かっている。僕が知りたいのは、どうやればその癖を直せるかだ。なんだ、この本も、結局、普通の自己啓発本か? 具体的に教えてくれよ。すると、
【今すぐできる、先延ばしの11の対策】
とある。この本は効くのか? 僕の先延ばし癖は直るのか?
まず、先延ばしの原因を明確にせよ、とある。時間がない、用事があるは、言い訳であって、正当な理由ではない。課題が大き過ぎる場合は、
【サラミ・スライス方式】
でやる。
どんなに大きな課題でも、それをいくつかの段階に細分化し、順にこなしていけば難なく処理できる
それでもまだ取り組みたくないときは、
【きっかけづくり】
が有効になる。これは、
とにかく1ミリでも物事を動かす
こと。僕でいえば、まず、パソコンのスイッチを入れてみることか。次に、
【5分間の実行】
に移る。
どんなに面倒な課題でも、5分間だけならすぐに実行できる
5分間やれば、その勢いで、なんとか仕事にかかれる。これは、なかなかいいぞ。僕のような、優柔不断な怠け者(ばれたか)にはぴったりだ。さらに、「完璧主義」は先延ばしの原因になるという。これも僕には該当する。ミケランジェロは、
芸術をきわめる秘訣は、いつ切り上げるかを見きわめることだ
といったらしい。つまり、十分に力を注いだら、ひとまずそれで完成とすることだ。
いい。この本は効く。少なくとも僕には効いた。ほかにも先延ばしを防ぐための具体的な知恵がつまっている。それは実際に読んでほしい。これは買いです。
お勧めの本:
『DO IT NOW いいから、今すぐやりなさい』(エドウィン・ブリス著/弓場隆訳/ダイヤモンド社)