環境をテーマにした『ソトコト』という雑誌があることは知っていた。でも、読んだことはなかった。最近になって、「ソーシャルデザイン」について調べ始めて、この雑誌が〝ソーシャル〟(社会や地域、環境をよりよくしていこうとする行動やしくみ)もテーマにしていると分かって、ときどき買うようになった。
現在の編集長・指出(さしで)一正によれば、3・11の震災以降、それまでの雑誌の方針を転換し、環境に加えて〝ソーシャル〟を掲げたのだという。いい感度をしているとおもう。指出が注目しているもう一つのテーマは、〝ローカル〟である。
『ぼくらは地方で幸せを見つける ソトコト流ローカル再生論』は、指出による「ローカルのすすめ」だ。彼は、地域の課題に取り組む若者を顕彰する賞の審査員を依頼されてから、ローカルがおもしろくなっていることに気づいた。
20代、30代のクリエイティブな若者たちが、東京などの大都市でなく、地方に根差した活動をしている。指出は彼らをローカルヒーローと呼び、次々と具体的な事例を紹介していく。たとえば――。
パーティーを続けながら使われなくなった建物を改築する建築集団「パーリー建築」。メンバーは、東京、埼玉、愛知の出身だ。新潟県十日町市の、6世帯の限界集落にある築100年の古民家をリノベーションし、シェアハウスとして地域に開放した。彼らは、ここを拠点に全国で活動する。
何か大きなムーブメントを起こそうという気はなく、リノベーションを依頼された地方へ行き、そこでしばらく暮らすというスタイル。彼らが求めているのは、地域社会や世代の異なった人々と交流し、顔の見える建物をつくることだ。
また、福岡県糸島市にある「いとしまシェアハウス」。糸島は移住したい町のナンバー1として注目をあつめているが、人気の中心にあるのが、この施設だ。主人は猟師でもある若い女性で、彼女のもと、仲間は、「食べもの・仕事(お金)・エネルギー」を自給する。
猟師の女性は、東日本大震災を経験して、食糧やエネルギーを買う生活に疑問を持ち、自分の暮らしは自分でつくろうと考えた。パートナーと糸島に移住し、まずは食糧の自給からと狩猟免許を取った。いまや自分で解体した肉しか口にしないという。
さらに、島根県浜田市の「シマネプロモーション」。このところ地方への移住を望む若者が増えているが、ある調べによると、2015年のランキングでそれまでは下位だった島根が3位に躍り出た。20代、30代の若者の支持が50%をしめた。
この要因の一つに、「シマネプロモーション」があると指出は見る。ブランディング、商品開発、PR、空間リノベーション、イベント企画など、あるゆる手法で島根をプロデュースする事業所だ。中心者は、都会暮らしからUターンした30代の男性。
なぜ、若者たちはローカルに向かうのか? 指出の言葉で腑に落ちたのは、「関わりしろ」だ。しろ、は、のりしろ、の、しろ。余白ともいえる。
いまの若者たちは、何かおもしろいことをやりたいという衝動がある。それが人の役に立つことであれば、なおいい。多くの手がある都市と違って、地方には手が少ない。これはクリエイティブな若者たちにとって魅力なのだ。
また、指出は、こうも語る。
ローカルヒーローたちの手法は、ゼロから新しいものをつくるというよりも、すでにあるものをいまの時代に合った形に手を加えることで、若い世代が集まれる場やしくみをつくるというもの。大きく変えずに、少しずつ調整してみんなが心地よく感じられるものにしていく彼らのやり方は、この時代にいちばんふさわしいまちづくりといえるのではないでしょうか。
雑誌『ソトコト』の2018年1月号の特集は、「全日本リトルプレス図鑑」。北海道から沖縄まで47都道府県で発行されている地域紙・誌を紹介している。こういうローカルメディアも、いまおもしろいことになっている。
山形県新庄市の『季刊にゃー』。「にゃー」は新庄の方言で、「~ね」のこと。「新庄には地元の情報を発信する冊子がないね」という会話から生まれたメディア。2016年12月に創刊された。生の新庄の姿を伝える。
東京都渋谷区の『神宮前二丁目新聞』。渋谷区神宮前二丁目の情報を伝える〝超〟地域限定紙だ。記事には、「新しい形の〝街の回覧板〟」とある。地元に事務所のある出版社が、「これからは地域に弱いつながりがあるといいんじゃないか」と創刊した。
ほかにも、その地域ならではの、リトルプレスがたくさんある。どれも一度は読んでみたいとおもう。こう見ると、日本も、まだまだおもしろい。東京のみなさん、一つ、頑張ろうじゃないですか。
お勧めの本:
『ぼくらは地方で幸せを見つける ソトコト流ローカル再生論』(指出一正/ポプラ新書)
『ソトコト』2018年1月号(木楽舎)