脱法ドラッグは大きな社会問題
東京都内の路上でスポーツカーが暴走していた。6台の車両に衝突して5人に怪我を負わせ、縁石にぶつかって止まった。運転手はアクセルを踏んだ状態で意識を失っていた。負傷者の怪我の程度は軽かったが、大きな惨事につながりかねない事故だった。後に運転手は警察の聴取に、運転前に「脱法ハーブを吸った」と供述した。
警察庁の調べでは、2012年には、脱法ハーブなどの脱法ドラッグの吸引による交通事故で摘発された事例は14件あり、35人の死 傷者が出ている。京都で起きた事故では、全国で初めて危険運転致傷罪が適用されて、運転手が実刑判決を受けた。
脱法ドラッグが関係していると見られる「事件」は、交通事故ばかりではない。吸引した者が小学校へ侵入したり、新幹線の線路内に立ち入ったりするなど逮捕者もでている。
いまや脱法ドラッグは、私たちの身近に迫る大きな社会問題となりつつある。
実効性のある取り締まりに期待
脱法ドラッグの代表は脱法ハーブで、ハーブに陶酔や興奮の作用がある化学物質を混ぜたものだ。アダルトショップやインターネットのサイトで、お香、アロマオイルとして販売されていて、簡単に購入することができる。吸引すると、呼吸困難や異常な行動を誘発し、ときには死亡することもある。
厚生労働省によると、薬物依存症の原因として、脱法ドラッグが覚醒剤に次ぐ第2位となった。また、全国の中学生5万4000人を対象にした調査では、120人が脱法ドラッグの経験者で、そのうち60%が大麻を、63.3%が覚醒剤を使用していた。脱法ドラッグは、麻薬に至る入口とも見られている。
これまでも政府は、脱法ハーブなどに使用される薬物を規制してきた。しかし、すぐに、禁止された薬物の成分を少し変えただけの新しい薬物が市場に出回る。脱法ドラッグを扱う商人は「買う人がいる限り売り続ける」と言い放つ。抜本的な対策を求める声が高まっていた。
2013年4月、ようやく公明党の取り組みが実って、「麻薬及び向精神薬取締法及び薬事法の一部改正法」が成立した。これは脱法ドラッグを麻薬取締官の捜査の対象にし、さらに薬事監視員の権限を強化して、物品の抜き取り調査を認めるものだ。実効性のある取り締まりが期待できる内容に、早くから脱法ドラッグに警鐘を鳴らしてきた水谷修氏も高く評価する。
脱法ドラッグは若年層にも広がりつつあるので、薬物の乱用を予防するための教育的な措置も求められる。重ねての対策を望みたい。
麻薬は、人を蝕み、社会を蝕むものだ。青少年を守るためにも、脱法ドラッグは、私たち国民の意志で根絶すべきである。
<月刊誌『灯台』2013年7月号より転載>