兵庫、維新議員の極悪非道――自分の手を汚さずデマを拡散

ライター
松田 明

日本維新の会による「謝罪」

 3連休の中日であった2月23日午後7時半から、神戸市内で記者会見がおこなわれた。
 こわばった表情で報道陣の前に現れたのは、日本維新の会・岩谷良平幹事長(衆議院議員)、東徹(衆議院議員)、兵庫維新の会・金子道仁代表(参議院議員)の3氏。
 冒頭、岩谷幹事長は次のように述べた。

 今般、わが党の県会議員にさまざまな報道がなされております。まず増山県議に関しまして、ルールを軽視した極めて不適切な行動があったと認識をしております。そして岸口県議に関しましては、百条委員会副委員長としての自覚に欠けた行動があったというように認識を致しております。
 日本維新の会として、これらのことに関しまして、心から深くお詫びを申し上げたいと思います。申し訳ございませんでした。(【動画】「THE PAGE(ザ・ページ)」2月23日

 こう言い終わると、日本維新の会の3氏は深々と頭を下げた。

 岩谷幹事長が言及した「わが党の県会議員」とは、いずれも兵庫維新の会に所属する兵庫県議会議員、岸口実、増山誠、白井孝明の3氏のこと。党幹事長が謝罪会見に臨むほどの不祥事。いったい、この3人は何をしでかしたのか。

命を絶った元県民局長

 周知のように、兵庫県では斉藤元彦県知事をめぐって2024年3月12日に、西播磨県民局長(当時)が「パワハラ」などの内部告発をした「斉藤元彦兵庫県知事の違法行為等について」という文書をマスコミなどに匿名で送付した。
 すると、斉藤知事は副知事らに「徹底的な調査」を命じて告発者を特定し、パソコンなどを没収。斉藤知事は3月27日の記者会見の席上で「業務時間中に〝嘘八百〟含めて文書を作って流す行為は公務員失格」などと、この県民局長を批判した。

 4月4日、県民局長はあらためて県の公益通報制度を利用して知事への疑惑を通報する。一部の県議らからは、第三者機関を設置して告発文書の内容を精査するよう知事への申し入れがあった。
 しかし、知事は第三者機関を設置することなく、人事課の担当者と弁護士による内部調査だけで、連休明けの5月7日に県民局長を「停職3か月」の処分とした。
 その後、百条委員会の設置が決まるものの、7月7日、この県民局長は自ら命を絶った。
 7月31日には、副知事も辞職。9月19日、県議会のすべての会派と無所属議員を含む全会一致で斉藤知事への不信任決議案が提出・可決される。斉藤知事は同月30日に失職して〝出直し選挙〟に立候補することを表明した。

誹謗中傷された県議も死亡

 ここから兵庫県知事の〝出直し選挙〟は想定外の展開を見せる。
 告示日の1週間前になって、政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首が立候補を表明。しかも、自身の当選をめざすのではなく、斉藤氏の当選をめざすための出馬というものだった。
 1人の当選をめざして2人の候補者が選挙活動を展開する、前例のない「2馬力選挙」となったのである。

 選挙戦が始まると同時に、立花氏は斉藤元知事を擁護する論を展開。死亡した県民局長の告発内容はデマだと公言した。
 さらに立花氏は政見放送でも「元局長は10年間に10人と不倫していた」などと事実無根の発言をし、翌日になると街頭演説などで「不同意性交罪を犯した可能性が高い」などとも公言した。
 県民局長の自死は知事とは無関係で、自分の不倫の発覚を恐れたものだったなどと訴えたのである。
 なお、この「10人と不倫」が事実ではないことは、立花氏自身が選挙期間中に認めている。(【動画】兵庫県知事選をめぐる誹謗中傷 立花孝志氏の発信“情報源”一枚の文書を検証【報道特集】「TBS NEWS DIG」2月8日
 そして、公式に否定したのは選挙から2週間も経った12月のことであった。

 当初、立候補表明した斉藤氏に対する県民の反応は冷ややかだった。だが、選挙戦が始まると立花氏らの発信が拡散し、「既存メディアが真相を隠している」「県政の改革を妨害するために斉藤知事がハメられた」「斉藤知事はパワハラなどしていなかった」等という真偽不明の話がSNS上で広がっていった。
 立花氏の発言を境に、SNS上では斉藤氏を支持する投稿が急上昇。選挙戦終盤では斉藤氏への熱狂的な支持が高まり、11月17日の投開票日に111万票余りを獲得して再選を果たすことになる。

 この選挙戦の渦中、立花氏は元県民局長に対するデマだけでなく、百条委員会委員であった竹内英明県議(当時)を名指しし、元県民局長の自死を知事(斉藤元彦氏)の責任に見えるように印象操作した〝黒幕〟だと糾弾。
 熱狂する支持者らを引き連れて、百条委員会の奥谷謙一委員長の自宅に押しかけ、竹内氏の自宅にも押しかけると放言した。

 竹内県議は、斉藤氏が当選した翌日の11月18日に議員を辞職。立花氏の発信によって家族の生活が脅かされたことによるものだった。だが、辞職後も立花氏からの中傷は続き、インターネット上には竹内氏への誹謗中傷が続いた。その数は累計で11万件を超えたとされる。
 精神的に追い詰められた竹内氏は通院するなどしていたが、2025年1月18日に自ら命を絶った。

デマ情報を渡した3人の維新県議

 選挙期間中、元県民局長や竹内県議に対する批判の根拠として立花氏が持ち出したのが、自身が入手したという百条委員会(10月25日/非公開)の録音データの音声や、片山・元副知事の代理の県議から入手したという文書だった。

 当該の百条委員会が非公開とされたのは直近の選挙に影響を与えないためであり、選挙後に録画が公開されることになっていた。また公開されるからこそ、個人のプライバシーに関わることは取り扱わないことが取り決められていた。
 音声データには、百条委員会で片山元副知事が個人のプライバシーにかかわる内容を発言しようとしたため、奥谷謙一委員長が発言を制止した場面が含まれていた。

 だが10月31日に選挙戦が始まると、立花氏はこれを元県民局長の自死の原因を百条委員会が隠した証拠だと主張した。さらに11月に入ると竹内県議を中傷する怪文書を公開した。
 これらが都合よく公開されたことで、多くの人が立花氏のデマを信じたのだった。

 非公開の百条委員会の内容は、そもそも録音することが許されていない。それを無断で密かに録音し、立花氏に渡したのは誰だったのか。
 知事選の告示日である10月31日にカラオケボックスで立花氏に密会して渡したのは、兵庫維新の会の増山誠県議だったのだ。
 2025年2月19日、YouTube番組「ReHacQ」に出演した増山県議は、笑いながら「録音して渡したのは私です」と自ら明かしたのである。

 さらに、立花氏に別途、電話で「不同意性交罪の可能性」という話を吹き込んだのも増山県議だった。
 また、竹内元県議を〝黒幕〟と決めつける悪質な出所不明の怪文書は、11月1日に神戸市内のホテルオークラの一室で立花氏の手に渡ったのだが、そこに出向いて立花氏と対面していたのが兵庫維新の会団長の岸口実県議だった。

 この2人は百条委員会の委員でもあった。当初はメディアの追及からのらりくらりと逃げ続けていたが、23日の会見で2人は事実関係を認めた。
 白井孝明県議も選挙戦の直前に支持者を介して立花氏に自らの電話番号を伝え、〝情報提供〟を試みようとしていたという。
 白井氏は、

「立花氏の情報の発信力・拡散力に興味を持ち、自らの支援者を通じて自分の連絡先を伝えた」(「ABCニュース」2月21日

「斉藤知事らに対する告発文書を作った兵庫県の元局長などについて、噂レベルの情報を伝えたかったので連絡を取ろうとした」(同)

と、無責任にも「噂レベルの情報」を伝えようとしていたことを告白している。
 なお、さすがに内容がお粗末すぎて、立花氏から「自分のほうがよく知っている」と電話を受けたという。

用意された参院選への出馬要請

 兵庫維新の会の3人の県議は、県知事選挙の告示にタイミングを合わせて、斉藤氏の選挙を有利に進めるため、元県民局長や竹内元県議らを陥れる悪質な情報を立花氏に渡していたのである。
 しかも、それらは百条委員会の守秘義務を破って自ら密かに録音した音声であり、真偽不明の怪文書であり、「噂レベルの話」であった。

 その結果、これらのデマは選挙戦を通して立花氏によって大々的に拡散され、選挙結果に大きな影響を与えた。そればかりでなく、故人(元県民局長)の名誉を棄損し、さらには無辜の竹内県議の命さえ新たに奪うことになった。
 だが、23日の会見でも増山県議はなお「立花氏がデマを言っているとは思っていない」「立花氏の発信と竹内県議の死亡に因果関係はない」などと強弁した。

 23日の会見で3人は、〝県民に広く真実を伝えるため〟発信力のある立花氏に情報を伝えたと弁明している。
 他党の党首に情報を渡して依頼するということ自体が、本来なら異常であろう。百歩譲って立花氏の発信力に依存したとしても、自分たちが〝真実〟と信じ県民のために必要な情報だと本当に考えていたのなら、同時に情報提供者として堂々と名乗り出て経緯を公表するのが、政治家としての有権者への信義である。

 しかし、3人は自分たちの関与を隠蔽し続けた。それは渡した情報が信憑性に欠けるものだと知っていたからではないのか。
 不可解なことに、ここにきて増山県議は自ら「ReHacQ」への出演を打診し、その放送で自身の情報漏洩を明かした。そのうえで23日の会見に先立って兵庫維新の会に離党届を出している。
 じつは、増山県議には立花氏から、今夏の参議院選挙に「NHK党」からの出馬要請がきているのである。

増山氏は「お誘いを受けていることは事実」と認めつつ、「ただ受けるとも受けないともまだ回答していない。相手方があることですので、コメントは差し控える」とした。(『産経新聞』2月23日

 増山氏にとってみれば、すっかり支持率の下がってしまった維新で県議を続けるより、立花氏の応援を得て参議院議員への〝転身〟を図るほうが魅力的な話なのかもしれない。

吉村代表「思いはわかる」

 これまでも突出して「不祥事」の連続だった日本維新の会だが、今回はついに人の命まで奪う結果につながった。
 兵庫維新の会は26日、岸口氏を「除名」とし、増山氏を「離党勧告」とする処分を発表した。

 この問題について2月22日に放送されたTBS系列の「報道特集」では、日本維新の会の吉村洋文代表(大阪府知事)の対応についても痛烈に批判している。

 そもそも政治家が自らの手を汚すこともなく、他人を使ってですね虚偽の情報を拡散させるというのは、ひとことで言えば卑劣です。ところが維新の会の吉村代表は会見で、「思いはわかるがルール違反だ」と言ってるんですね。
 どっかで聞いたような言い回しだなと考えたらですね、戦前「5・15事件」などでよく使われていた、「青年将校たちの思いはわかる」という同情論ですね。これが結果的に軍部のルール無視の暴走につながっていくわけです。
 自らのひとことが誤ったシグナルを送りかねないことを、吉村代表にはぜひ自覚していただきたいと思います。(【動画】「TBS NEWS DIG」2月22日

 まさに今回の一連の行為は、県知事選挙を有利に導くため、「自らの手を汚すことなく」特定の人物を標的にデマを拡散させた極悪の所業である。
 そして、デマによって人が亡くなっているにもかかわらず、日本維新の会の関係者や支持者のなかには、3人の県議の愚行を〝英雄視〟するような発言をしている者さえいるから驚く。
 もはや政党としてのガバナンスが麻痺し、議員のモラルも良心さえも吹き飛んでいる、日本維新の会の末期的な実態である。

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まつだ・あきら●ライター。都内の編集プロダクションに勤務。2015年から、「WEB第三文明」で政治関係のコラムを不定期に執筆。著書に、『日本の政治、次への課題』(第三文明社)がある。