維新「高齢者3割負担」の波紋――「改革」とは真逆の実態

ライター
松田 明

「維新は噓をついている」

「今回の日本維新の会の公約は、政治改革も詐欺! 社会保障改革も詐欺!」

 10月10日公開のユーチューブ番組「ReHacQ−リハック−」に緊急出演し、こう言い切ったのは、10月9日に衆議院議員を引退した足立康史氏である。
 足立氏は日本維新の会で幹事長代理などを歴任した。本年4月におこなわれた東京15区の衆議院補欠選挙で、東京維新の会が配布した機関紙が公職選挙法に抵触する疑いがあると指摘したことで、逆に〝党を批判した〟として党員資格停止6か月の処分を受けた。
 党員資格停止中なので、自身の選挙区である大阪9区から無所属で出馬すると公言したところ、今度は大阪維新の会が刺客として別の公認候補を立ててきたのだ。
 足立氏は、維新の選挙公約についてこう語った。

(維新の公約には)政治資金パーティーの個人売りという〝抜け穴〟がのこっているんですよ。これをただちに塞がないかぎり、僕は維新の会を潰したほうがいいと思います。この選挙で。私はこの選挙中、ずーっとこれを言い続けます。
 維新の会の今回の政策は2つ柱があります。1つは「政治改革」です。これは、嘘ついてます。企業・団体とのお金のやり取りは封じたといって選挙やってますけど、政治資金パーティ―券の企業・団体売りは禁止したけど、個人に売ったフリをして会社で経費処理する道は残した。こういう無茶苦茶いやらしい〝抜け穴〟をですね、残した日本維新の会の「政治改革」っていうのは、もう最低ですから。
 もう1つ政策の柱は「社会保障改革」。音喜多政調会長は、社会保険料も減らすし、税金も減らす。減税もする。あり得ない。あり得ないでしょ? 高橋さん。(【高橋弘樹vs足立康史】維新が刺客!裏切り者?クーデター?あるいは…緊急生配信

公明党によって無力化された維新の愚策

 衆議院選挙にあたり、日本維新の会は政権公約マニフェストとして「維新八策2024個別政策集」なるものを発表した。
 その冒頭には「徹底的な見える化、脱しがらみで政治腐敗を浄化する」と掲げ、

企業団体献金の全面禁止や政治資金の完全公開(政策活動費の廃止)など、真の政治浄化に取り組みます。(「維新八策2024個別政策集」)

政治資金パーティーについては、企業団体からのパーティー券購入を禁止する(同)

としている。
 だが足立氏は、パーティー券を経営者や役員など個人に売ったかたちにして、その人たちが会社の経費で処理する抜け穴が巧妙に用意されていることを指摘したのである。
 維新の公約では、

領収書のいらない「合法的な裏金」であった政策活動費は廃止し、政界から領収書のいらないお金を一掃します。政党助成金など税金から支出される政治資金はその使用用途が明確にわかるよう、徹底した情報公開を進めます。(「維新八策2024基幹政策」

とある。
 思い出してほしい。政治資金規正法の改正が最大の焦点となった今年前半の通常国会で、その「合法的な裏金」だと認める政策活動費の存続を最後まで主張した野党は、ほかならぬ日本維新の会であった。

 しかも、その透明性について領収書の公開を公明党から求められても、「10年後に先送りする」と強硬姿勢を崩さず、自民党の素案を書き換えさせたのも日本維新の会だった(NHK NEWS WEB「『政策活動費』10年後に領収書公開で合意」2024年5月31日)。
 政治資金規正法や所得税法違反の公訴時効は5年。10年後に不正が発覚しても罪に問えない。こういう、とんでもない〝抜け穴〟を法律に書き込ませてしまったのが、誰でもない日本維新の会なのだ。
 あれからわずか4カ月。よく、これほど厚顔無恥な公約を掲げられるものだとあきれる。有権者をバカにしているのだろうか。

 なお、維新が法律に書き込ませた「領収書の10年後公開」は、公明党が法律の附則に政治資金の使い道を毎年検証する「第三者機関の設置」を加えたことで、有名無実化された。
 国会が閉じた今、あれほど大騒ぎをしていた野党は、この政治資金規正法の議論を進展させていない。法施行日の2026年1月1日までの具体化を念頭に、公明党は他党に先駆けて党内にプロジェクトチームを作り、識者らを招くなど第三者機関のあり方等の具体的な議論を始めている。中間報告を出しているのは公明党だけである。

維新が隠す2つのゴマカシ

 さらに問題視されているのが、日本維新の会の「社会制度改革」に関する公約だ。
 日本維新の会は、高齢者の医療費の窓口負担を「原則3割負担に引き上げる」としている。

高齢者の医療費窓口負担を現行の「9割引き」から「7割引き」に見直し、現役世代と同じ負担割合とすることで、現役世代の社会保険料負担の軽減を図ります。(「維新八策2024個別政策集」)

 既に現状でも、高齢者医療費は所得に応じて2割、3割の負担をしている人がいる。これを「3割負担」にすると、1割負担者にとっては医療費負担が一気に3倍となる。そうなると、病院に行くことを控える「受診抑制」が起きることは避けられない。

 これに対し日本維新の会の音喜多政調会長は、米国でおこなわれた「ランド医療保険実験」を引き合いに、「医療費の自己負担額と健康寿命の因果関係に有意な差はみられない」と国会でも胸を張った。自己負担額が増えて受診抑制が起きたとしても、それが人々の健康寿命には影響しないというのである。

 ところが、ここに2つのゴマカシがある。
 1つは、このランド実験は1970年代~80年代におこなったものだが、まずその対象は高齢者ではなく65歳以下の現役世代だったのだ。
 2つ目は、実験ではそれでもなお下位6%の貧困層で健康状態の悪い人には著しい悪影響が認められているが、維新はこの都合の悪い事実にあえて触れない。
 まして高齢者になれば基礎疾患などが増えるのは当然であり、年金生活者など年収の乏しい世帯では、自己負担額が増えれば受診抑制が増え、健康悪化が拡大することは目に見えている。そうなると、中長期的には今よりも医療費が増大してしまうだろう。

 維新は、低所得者・生活困窮者へのセーフティネットとして「低所得者等医療費還付制度」(仮称)を創設するとしているが、窓口で支払った3割のうち、いくら還付されるのかは明示していない。
 しかも、新たな制度を設けなくても、現在でも「高額療養費制度」が存在し、マイナ保険証を使えば支払い時点で免除されている。

公明議員の追及から逃げ続ける

 「維新八策2024」では、3月に発表した「医療維新(医療制度の抜本改革)」による改革を行うとしている。
 その「医療維新」には、「現役世代から後期高齢者医療制度への支援金等を廃止し、後期高齢者医療制度を完全に税財源に基づくものに移行する」とある。
 しかし財源として、どの税率を挙げるのかは明示していない。18兆円にも達する医療費を賄うため、所得税を上げれば現役世代の負担はさらに増える。消費税なら税率18%が必要になる。相続税だとすれば現行の6倍に税率を上げないと賄えない。
 それにもかかわらず、公約では「消費税を8%とし、軽減税率制度を廃止します」と甘い言葉を並べる。

 現行の消費税は、民主党政権時代に社会保障費の財源として3党合意で設けられたものだ。今回の衆議院選挙で、野党各党は消費税の減税や廃止を掲げているが、では少子高齢化で膨らむ一方の社会保障費の財源をどうするのか。実現性のある数字と共に示している政党はない。

 維新の公約には「幼児教育・高校において所得制限のない完全無償化を実現します」「大学・大学院などの改革と合わせて、教育の全過程の無償化を目指します」「出産費用を無償化します」等々、歓心を買うような言葉ばかりが並ぶ。
 足立氏が〝詐欺〟と断じたように、どう考えても実現可能性が見通せない。そのことは日本維新の会がよくわかっているようで、公明党の伊佐進一氏がSNSでこの維新案の非現実性を指摘し、「ぜひ討論しよう」と呼びかけてもダンマリを決め込んだままである。

維新の政策は社会を貧しくする

 じつは政府も9月に「高齢社会対策大綱」を発表した。これは高齢者の体力的な若返りや勤労意欲の増加という社会の変化を踏まえたものだ。
 2028年を目途に、働く意欲のある高齢者の所得を今よりも上げつつ、従来、年齢によって「支える側」「支えられる側」に分けてきた社会を脱し、個々人の希望や事情に応じて、できるだけ誰もが安心して暮らせる社会をめざそうとする。

 一方、維新は「現役世代に不利な制度を徹底して見直す」と世代で対立軸を作り、現役世代の抱える不満に狙いをつけている。
 維新に関する研究で著書も多い桃山学院大学の吉弘憲介教授は、

大阪維新の会に対する根強い支持の背景として、個人の利益に焦点をあてた財政ポピュリズムがあるといえる。(『検証 大阪維新の会――「財政ポピュリズム」の正体』ちくま新書)

と指摘している。
 つまり、自分の利益だけを最大化したい人々に向けて、他者が受けている公共サービスを「既得権」だと攻撃し、これを解体して原資を配り直すというものなのだ。

 しかし、ここには落とし穴がある。本来、自分の利益の最大化だけを求めるのなら、共同体は成り立たないし、行政もいらない。私たちは誰もが、税金を納めることも生産性もない子ども時代を、いわば他者の税金に支えられて大人になってきた。健康な人には駅のバリアフリーは不要でも、自分の家族、自分自身がそれらを必要とする日は必ず来る。
 維新の主張する「高齢者3割負担」に拍手喝采している人は、必ず自分も高齢者になり、3割負担を強いられる現実を直視すべきだろう。

 財政というのは、そのように個人の合理性を超えたところで集団の合意形成によって駆動し、回りまわって全体の利益につながるものなのだ。
 吉弘教授は、

維新の会を分析することから見えてきた、個人にとって「コスパのいい」資源配分によって支持を調達する財政ポピュリズムは、やがて私たち全体を貧しくするだろう。(同)

と警鐘を鳴らしている。

 わずか4カ月前の国会で、自らが〝合法的な裏金〟と呼ぶ「政策活動費」の存続を主張し続け、領収書まで闇に葬ろうとした日本維新の会。幹部だけで飲み食いする政治資金の使い方の不透明さを、党の創業者や党内から激しく突き上げられている日本維新の会。
 有権者を煙に巻くように「改革」を口にしながら、もっとも古い政治の体質を引きずっているのが、日本維新の会なのである。

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まつだ・あきら●ライター。都内の編集プロダクションに勤務。2015年から、「WEB第三文明」で政治関係のコラムを不定期に執筆。著書に、『日本の政治、次への課題』(第三文明社)がある。