20年超の自公連立政権にみる公明党の力

麗澤大学教授
川上和久

 1999年10月、自由民主党と公明党の連立政権が誕生(当初は、自民党・自由党・公明党の3党からなる連立)。2009〜12年の下野の時代を除いても、20年を超える長期政権となっている。今年で結党60年を迎える公明党が、日本政治の世界で果たしてきた役割と使命を振り返る。

公明党結党以来の金権政治との戦い

 このところの「政治とカネ」をめぐる自民党の体たらくに、多くの有権者は呆れ果てていると言っていいでしょう。
 今回明らかになったのは、政治資金パーティーをめぐる自民党の裏ガネ疑惑です。自民党はパーティー券購入者の公開基準を、現行の20万円超から10万円超に引き下げることで乗り切ろうとしました。
 これに公明党は納得せず、自民党案に厳しく注文をつけてきました。結果的に、これ以外の項目も含めた公明党案を岸田首相はほぼ丸のみし、当初の自民党案よりもはるかに厳しい政治資金規正法改正の流れができました。連立政権のなかに公明党がいることで、腐敗する金権政治に厳しいメスが入ったのです。
 金権政治との戦いは、1961年に公明政治連盟(公明党の前身)が結成されて以来の公明党のアイデンティティーと言ってもいいでしょう。連立政権に入って以降も、大きな成果を出してきました。例えば、2000年、公明党は政治資金規正法を改正して政治家個人への企業・団体献金を禁止しました。また、同年に「あっせん利得処罰法」を制定し、口利きの見返りに議員が報酬をもらう慣例を禁止しています。後にこの法律の改正を進め、議員本人や公務員だけでなく、秘書についても口利きを禁じるよう厳しい縛りをかけました。
 政治家の使命は、全体を見渡して公益に資する仕事をすることです。見返りに金品をもらうのを目的として、特定の企業や個人のためにコソコソ利益誘導することではありません。有権者の目線からすればごくごく当たり前のことかもしれませんが、それを公明党が頑張って実現してきたことについてきちんと評価すべきです。議員は特権階級ではなく、公のために奉仕するパブリック・サーヴァント(公僕)です。公僕として仕事をしやすくするために、一部特権的なことが認められているに過ぎません。
 ところが多くの議員はその特権を当たり前のことだと思い、「自分は特権階級だ」と勘違いしてきました。その点、公明党の議員は、勤続25年以上の議員への特別交通費支払い(月30万円)、議員の肖像画の作製(100万円)、勤続50年以上の議員への憲政功労年金(年500万円)など、国会議員の無意味な特権を次々と廃止してきました。
 その取り組みの延長線上に、今回の政治資金規正法改正があるのです。政規法の条文(第1条)には〈国民の不断の監視と批判〉とあります。議員も1人の人間ですから、腐敗と堕落との戦いにゴールはありません。不断の取り組みが必要です。公明党の不断の取り組みがあったからこそ、金権政治との戦いがさらに一歩進んだと言えるでしょう。

生活者目線が生んだ軽減税率

 政治の世界に「生活者」の目線を反映させているのは公明党です。自民党は1955年の結党以来、大企業や経済的に恵まれている支持層に目を向けて仕事をしてきました。また、大企業の労働組合に支えられていた社会党なども、多くの生活者とは違う目線を持っていました。このどちらにも当てはまらない、つまり政治の光が当たらない大衆の目線、生活者目線を持っているのが公明党だと思います。
 公明党議員は現場で苦しむ生活者と草の根の対話を続け、その声を聞いてきました。
 2019年10月、消費税が8%から10%に増税されました。諸外国では生活者の負担を和らげるため、消費税率の一部を低く抑える軽減税率を導入しています。これを日本で実現できたのは公明党が強く主張したからです。
 その上で、税収を減らしたくない自民党と財務省は、軽減税率の適用範囲を「生鮮食品に限る」と限定しようとしていました。公明党は「加工食品も軽減税率の適用範囲に含めるべきだ」と譲らず、最終的に自民党と財務省の案をひっくり返したわけです。
 外食や嗜好品は削ることができても、自宅で食べる食料はそう簡単に削ることができません。私自身もよくスーパーへ出かけて買い物をします。スーパーには賞味期限ギリギリの商品を安く売る見切り品コーナーがあり、そのコーナーの前で高齢者が一生懸命買い物をしている様子を目にします。
 軽減税率はこうした生活者にとって福音となる政策です。折からの物価高騰は生活者を直撃しています。軽減税率の適用範囲が自民党と財務省案のまま通っていれば、生活者は非常に苦しい状況に追いこまれていたことでしょう。
 消費税には逆進性があるため、所得が低い人ほど重い負担がのしかかりやすいという特徴があります。食料品の税率を抑える軽減税率はとても有効だと思います。
 高齢化に伴う社会保障費の増大に対応するため、今後さらに消費税を上げなければいけない局面が来るかもしれません。そのとき軽減税率という仕組みが、多くの社会的弱者を守ることになるはずです。

2040年問題に対応する福祉の政治

 現在では当たり前となった児童手当を創設したのも公明党です。公明政治連盟が「児童手当の新設」を発表したのは1963年のことでした。以来、絶えずこの問題に取り組み、野党時代の72年に児童手当を実現しています。
 公明党が自民党との連立政権に参加する前は、児童手当の支給対象は3歳未満に限られ、支給は月額5000円でした。2012年からは3歳未満(第3子以降は小学校卒業まで)に月額1万5000円、3歳から中学校卒業までは月額1万円を支給するよう制度を拡充しています。
 公明党は①幼児教育・保育②私立高校の授業料③大学を含む高等教育の授業料の「3つの無償化」も実現しました(19年10月)。子ども1人につき30万円だった出産育児一時金は42万円へ(09年10月)、さらに50万円へ(23年4月)と増額されています。
 1回につき5000円から1万円かかる妊婦健診の負担は、子育て世帯に重くのしかかってきました。そこで公明党は妊婦健診の公費助成に取り組み、09年からすべての自治体で14回分の公費助成が始まっています。「福祉の政党」として名高い公明党は、さまざまな面での子育て支援策を拡充してきました。
合計特殊出生率(一人の女性が生涯のうちに生む子どもの数)は過去最低の1・20、東京都は0・99と1を下回っています(2023年)。
 1人目の子どもを生んだあとに「2人目もほしい」と思っても、経済的な事情で子どもを生めない親御さんもいらっしゃることでしょう。こうした子育て世帯への目配りと絶え間ない支援が必要です。
 2040年にはベビーブーム世代の団塊ジュニア(71~74年生まれ)が65歳を超え、65歳以上の高齢者が全人口の35%を占める「2040年問題」の時代が到来します。
 支援策を拡充してくれているとはいえ、まだまだ支援の手が届かない人も少なくありません。2040年を迎たときに、多くの人々が「公明党が実現してくれた一連の子育て支援策があってよかった」と思うような、切れ目のない支援を実現していく必要があるでしょう。そのため、公明党は与党として、もっと強く自民党に訴えるとともに、野党をも巻き込んで議論を進めていくべき時期が来ているように感じます。
 1964年11月17日に公明党が結党されてから、間もなく60周年を迎えます。これからが公明党の正念場です。〝還暦〟を迎える公明党が政権与党のなかで自民党と岸田首相を大いに𠮟咤激励し、引き続き生活者のための施策を実現してくれることを期待しています。

<月刊誌『第三文明』2024年8月号より転載>

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かわかみ・かずひさ●1957年、東京都生まれ。東京大学文学部社会心理学科卒業。同大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。東海大学文学部助教授、明治学院大学法学部教授、同大副学長、国際医療福祉大学教授などを経て、2020年4月から現職。専門は政治心理学、コミュニケーション論。著書『情報操作のトリック』『2大政党制は何をもたらすか』『CDブック 昭和天皇玉音放送』『「反日プロパガンダ」の読み解き方 歪められた歴史認識を正すために』『18歳選挙権ガイドブック』など多数。