書評『公明党はおもしろい』――水谷修が公明党を応援する理由

ライター
本房 歩

両親は共産党の活動家

「夜回り先生」として有名な著者。本書ではまず、著者自身の「自分史」について正直に綴っている。
 1956年、横浜生まれ。父は大学教員、母は小学校教員。ともに共産党系の組織で活動しているなかで知り合って結婚した。父親は過激な活動家になって指名手配され、著者が3歳の頃に失踪したという。
母親の影響で著者は中学生時代から共産党系の活動に加わり、高校生の時には共産主義系セクトの幹部になっていた。
 だが、そうした活動が社会から共感されないことに限界を感じて撤退する。共産主義セクト運動から抜けることを告げると、木の椅子に針金で縛られて暴行された。
 その後、横浜のカトリック山手教会の神父に出会ってカトリック信仰の道に入る。共産主義運動の時代に仲間が4人も自死していたことも、信仰の道に入る動機のひとつだったと書いている。
 カトリック系の上智大学に進学し、神父になることを目指してドイツにも留学した。だが、ほどなく教会の聖職者の実態に絶望してカトリック信仰から離れた。
 上智大学を卒業後、横浜市内の高校の社会科教員になった。共産主義運動にもキリスト教にも理想を見出せず、「教育からこの国を変えていく」しかないというのが、教員を目指す動機だった。
 1991年から横浜の定時制高校の教員となる。生徒数800人、日本最大規模の定時制高校だった。
 ここで、生徒たちが売春やドラッグといった「夜の世界」の闇に沈んでいく実態に遭遇した。ここから、夜の歓楽街を歩いて少年少女たちに声をかける著者の〝夜回り〟活動が始まった。

なぜ「公明党はおもしろい」のか

 やがて、著者は若者たちが置かれているさらに深刻な実態に気づく。夜の街に出ている子どもたちは、まだ姿が見えるから声をかけることができる。
 だが、外に出ることもなく部屋にひきこもってリストカットなどを繰り返している子どもたちが全国各地に大勢いることを知ったのだ。自分ひとりでは、とてもではないが救いの手を差し伸べきれない。
 政治や行政の力を借りるしかないと思い、行政の首長、与野党の幹部にかけあっても、誰も真剣に向き合ってはくれなかった。
 そんななかで唯一、2時間も話を聞いてくれたのが、公明党の浜四津敏子・代表代行(当時)だった。

 浜四津さんは一言、こう言ったのです。
「水谷先生、いままで子どもたちのためにありがとうございました。今日から先生は一人じゃないんですよ。公明党の仲間たちが先生とともにこの国の子どもたちの命を守り、明日を拓いていきますからね」(本書)

 この日から、全国どこに行っても、公明党の国会議員・地方議員の「チーム3000」が著者と共に動き、行政と細やかに連携していくことになる。
 本書のタイトルにもあるが、著者は本書のなかでも「公明党は、実におもしろい政党です」と書いている。
 他党と比べて、何が違うのか。
 まず、先述したように全国のあらゆるところに3000人近い地方議員が網の目のように存在していること。
 他党ではこれが分断されていて、国会議員、都道府県会議員、市区町村議会議員でヒエラルキー(階級)ができてしまっている。しかし公明党だけは、そうした上下関係がなく、ヨコの連携も含めて、それらの議員が〝常に一体〟だという。
 圧倒的な数の地方議員が常に地域を歩き回って課題を発見し、住民の声を聞き、都道府県レベルに繋げるところは繋ぎ、国政に繋ぐところは繋ぎ、自治体の境を越えても機動的に連携する。
 とくに社会から孤立した人・孤立させられた人たちに寄り添い、あらゆる差別と戦う点を、著者は高く評価している。

水谷は「夜」、公明党は「昼」

 公明党の議員たちについても「おもしろい」と書く。
 いわゆる政治家には「地盤」「看板」「カバン」がいると言われてきた。それらを代々引き継ぐことで政界には二世議員も多い。
 たいてい各政党は候補者を公募するが、自分の地位や名声欲しさに立候補するような人間も絶えない。あるいは、営利団体や労働組合など特定の団体の代弁者として政界に送り込まれてくる者もいる。
 公明党の場合は、自分から議員になりたいと言うような候補者はいない。支持者のなかから「あなたが立ってほしい」と請われて出る人ばかりだ。「出たい人より出したい人」である。
 支持母体の創価学会は、都市部から農漁村部まであらゆる職業の人々がいる。どこか特定の団体の利益に振り回されることがない。
 その点では本当の意味で〝しがらみのない政治〟ができるのは、公明党の強みなのかもしれない。
 しかし、著者は最初から公明党を評価していたわけではない。本書では、そのことも正直に綴っている。
 浜四津氏と出会い公明党の議員たちと手を携えるまでは、公明党を敬遠していた。
 その後も著者は個別に何人かの公明党議員の応援をしたことはあるが、「全力をあげて公明党の選挙応援に入ることはありませんでした」と述べている。
 子どもたちのための活動をし、テレビや新聞にも出ていた立場で、特定の政党への支持を表明して応援することは得策ではないと考えていたからだ。
 著者は自分のそうした態度を「保身」「卑怯」だったと告白している。そして、2021年の東京都議会議員選挙からは、「命をかけて」公明党の応援に立つようになったという。
 20年以上、日本各地で公明党の議員たちと手を携えて、闇に沈む子どもたちのために駆けずり回ってきた著者だからこそ見えてきたものが、本書には随所に綴られている。

 私の場合、活動場所は夜の世界ですが、公明党の場合、昼の世界です。公明党「チーム3000」の議員たちは日々、靴底をすり減らして、自分自身の地域を歩き回っています。(本書)

 本書では、この3年余りのコロナ禍における公明党が果たした役割についても、1章を設けて綴られている。
 党利党略ですべて政権批判の道具にしていく政党や、大衆ウケする大言壮語を掲げながら実態は不祥事ばかりという政党もある。
 地道に人々の現場を歩き、声を聞き、寄り添い、政策として実現してきた公明党の真の姿を知ってもらいたいという著者の熱い思いが、全編ににじむ一冊。

《夜回り先生・水谷 修「公明党はおもしろい」発刊記念インタビュー》

『公明党はおもしろい』
水谷修著
 
価格 1,200円(税込)
第三文明社/2023年8月24日発売
 
 
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