「どう考えても理解しがたい」
立憲民主党から離党者が出始めた。
1人目は松原仁・衆議院議員。6月9日に離党届を出した。松原氏の言い分は10増10減にともなう新設の「東京26区」からの立候補を認めてもらえなかったというもの。
松原氏は松下政経塾を経て1985年に新自由クラブから都議選に出馬して落選。以後、無所属→自民党→新生党→新進党→民主党→民進党→希望の党→無所属→立憲民主党と目まぐるしく立ち位置を変え、今度はまた無所属となった。
立憲民主党東京都連は、
党所属ベテラン代議士がこのような政治行動に至ったことは残念だ。これまで活動してきた地元選挙区を離れて新設の東京26区を希望する合理的な理由はどう考えても理解しがたい。
と、松原氏を非難した。
一方、松原氏からの離党届が受理された翌日の6月16日、泉健太代表は「都連の対応に問題があった」として、都連会長の長妻昭・衆議院議員を「注意」したという。
離党届の受理まで1週間かかったことも含め、党内では松原氏に同調する勢力と長妻氏に同調する勢力が反目し合っており、執行部は対応に苦慮していた。
他党からの立候補を否定せず
2人目は徳永久志・衆議院議員(比例近畿ブロック)。「党の国会対応に違和感を覚えた」というのが理由で、6月27日に離党届を提出した。
岡田幹事長は会見で、
党が内閣不信任決議案を提出したことへの違和感という説明を聞いても、それが離党の原因になるのか、私の理解ではよくわからない(「NHK NEWSWEB」6月28日)
と徳永氏をあからさまに批判した。
松原氏にしても徳永氏にしても、支持率が低迷したままの立憲民主党に所属していては、次の選挙で勝ち目がないというのが正直なところだろう。沈む〝泥船〟からさっさと逃げ出し、政策など二の次で勝てそうなところに駆け込もうという算段ではないのか。
松原、徳永両氏は次期衆院選に他党から立候補する可能性を否定していない。4月の統一地方選などで躍進した維新は報道各社の世論調査で立憲の支持率を上回っており「2人とも維新の公認を狙っているのではないか」(立憲関係者)との臆測も出ている。(『毎日新聞』6月29日)
テレビ番組で泉代表を批判
エリート意識だけが強く、合意形成ができずに党内での権力闘争に明け暮れる。あげくの果てにケンカ別れしては、選挙になると野合する。かつての民主党時代から延々と繰り返されてきたおなじみの光景だ。
これはもう、旧民主党勢力の拭い難い体質的なものにも見える。日本共産党との蜜月路線が祟って2021年秋の衆議院選で大敗。〝創業者〟である枝野幸男氏の執行部が退陣し、泉健太氏が新代表になった。
しかし、翌22年の参院選で再び大敗すると、蓮舫氏らから公然と退陣を求める声が上がる。
今年に入っても蓮舫氏は泉代表への批判を続けている。
立憲民主党の蓮舫氏は4日放送のBSテレ東「NIKKEI 日曜サロン」で、泉健太代表の指導力の不足を指摘した。(中略)「自民党に対して泉氏の発信力や発言力、リーダー力は残念ながら十分ではない」と語った。(『日本経済新聞』6月4日)
4月の衆参補欠選挙でも完敗したことで、党内から突き上げられた泉代表は、次の衆議院選挙で150議席獲得できなければ代表を辞任すると公言した。側近幹部とも十分に相談しないまま、半ば自暴自棄にも見える目標発表だった。
早くも2人が離党して現状は95人。支持率は大きく低迷したまま。次の選挙で議席が1.5倍になるとは誰も思っていない。つまり、泉代表はもはや〝終わった〟に等しい。
「出さなかったら表で暴れる」
泉代表は同時に、次期衆議院選で日本維新の会や日本共産党と選挙協力や候補者調整をおこなわないと、出演したテレビ番組で語った。
自力で勝てる自信のない議員たちは、これに色めき立った。先の国会終盤、「内閣不信任決議案」を出すのか出さないのかをめぐり、立憲民主党内の亀裂は一気に表面化する。
立憲民主党は150議席と大見得を切りながら候補者の調整すら手間取っていた。自民党内には、立憲や維新の準備が整わないうちに解散に打って出るべきという声があった。
自民党との対決姿勢を演出したい立憲民主党は、数の上で否決されるとわかっていても「不信任決議案」を出したい。だが、出せば首相がそれを解散の大義名分に使うのではないかという恐れが拭えない。
泉代表は態度を明確にせず保留し続けた。
これに対し、主戦論を唱えるベテラン議員は「出さなかったら表で暴れる」と警告。消極派の中堅は「解散の口実を与えるべきではない」と主張し、双方から執行部批判が高まった。(「時事ドットコム」6月17日)
なんとも地獄絵図のような党内の様相である。
この1年間、日本維新の会との関係でも泉代表は迷走した。国会で共闘をめざすかと思えば、党首同士が子どものように罵り合う。6月7日になると、日本維新の会の馬場伸幸代表は「立憲民主党をまず叩き潰す」と公言。泉氏は「下劣な発言」と応酬した。
そして蘇る〝立憲共産党〟路線
すでに岸田首相が「今国会での解散は見送る」と明言したあとの6月16日になって、泉代表は内閣不信任決議案を提出する。
このタイミングで、執行部に公然と反旗を翻す動きが表面化した。
日本共産党などとの共闘をめざす小沢一郎氏が、小川淳也氏や手塚仁雄氏らと連携して「野党候補の一本化で政権交代を実現する有志の会」を設立。あえて不信任決議案が提出される直前に記者会見を開いたのだ。この時点で96人だった所属議員のうち50人以上が参加の意思を示していると発表した。
小沢氏らは「野党が一本化しなければ与党に勝てない」と主張する。しかし、現実問題として日本維新の会や国民民主党は、もはや立憲民主党との候補者一本化に応じる気配がない。まして日本共産党との共闘などあり得ない。
つまり、小沢氏らの動きは実質的に「日本共産党との共闘」をめざすものでしかない。それに党内の過半数が賛同している。それほど議員たちは自分の選挙に危機感を持っているのだ。
6月30日になると、泉代表はまたしても方針を転換する。
次期衆院選での共産党などとの選挙協力をめぐり、安全保障関連法の廃止などを求めて活動している団体「市民連合」を介した候補者調整を容認する考えを示した。(『産経新聞』6月30日)
だが、立憲民主党は枝野執行部時代に市民連合を介して日本共産党と〝政権協力〟まで踏み込むほど接近し、そのことで大惨敗を喫したのではなかったか。その「民意」を再び無視するというのか。
立憲民主党内では、次期衆院選の公約に「消費税減税」を入れるか入れないかでも大もめが続く。
そもそも消費税増税を決定したのは、旧民主党の野田政権なのだ。
次期衆院選では、共産党などが消費税減税を掲げる見通し。立民が公約から削除した場合、税負担の軽減を望む有権者の票が、他の野党に流れる可能性もある。立民重鎮は「消費税減税に反対だが、それでは選挙を戦えない」と漏らした。(「時事ドットコム」6月24日)
政治理念や政策の一貫性よりも、自分の選挙が第一。政権交代を口にしながら日本共産党との共闘に走ろうとする矛盾。共産党と手をつなぐためだけに、国際情勢が厳しさを増すこの時期に平和安全法制の廃止をめざす感覚。
有権者を甘く見ている政治家は、最終的には有権者から厳しい審判を突きつけられるだろう。
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