レームダック化した立憲執行部――野党第一党の〝終わりの始まり〟

ライター
松田 明

「150議席に達しなければ辞任」

 残念ながら立憲民主党の〝終わりの始まり〟が見えてきたような気がする。
 同党は政権交代を掲げながら日本共産党との「政権協力」まで踏み込んだことで、2021年の衆院選で大敗。党を立ち上げた枝野執行部が退陣するハメとなり、泉健太新代表になった。
 泉執行部は日本共産党との「政権協力」を白紙撤回。ところが2022年の参院選でも大敗する。2つの選挙の敗北で、党内には大量の〝浪人〟を抱え込んでしまった。
 すると秋の臨時国会からは日本維新の会と国会での共闘を開始。とはいえ、党首同士が互いを罵り合うなど、ことあるごとに子供じみた不協和音のほうが目についた。
 そして、2023年4月の衆参補選で立憲民主党は完敗。統一地方選挙も道府県議選で10議席増えたものの政令市議選と市区町村議選では5議席減。選挙が終わるや、蓮舫議員らから公然と執行部批判が巻き起こった。
 選挙が終わって17日も経った5月10日になってようやく両院議員懇談会を開催。会合では「厳しい意見」が出て2時間半以上にもわたって紛糾した。

立憲民主党の蓮舫・参議院議員は、記者団に対し「泉代表の指示が去年の参議院選挙での党勢拡大につながっておらず、今回の衆参の補欠選挙でも成果や結果が出なかった。一番変えなければいけないのは泉代表の認識で、何をやりたくて何を発信したいのか、しっかり考えてほしい」と述べました。(「NHK政治マガジン」5月11日

泉代表は、次の衆議院選挙で150議席を獲得できなければ代表を辞任する考えを示しました。(同)

蓮舫氏と泉代表の非難合戦

 NHKがこの記事を配信すると、泉代表は記事に被せるかたちで、

出来なかったら辞任。という発想ではなく、立憲民主党の議席を伸ばすという決意と覚悟を示しました。(泉代表のツイート/5月12日

と弁解。すると蓮舫議員はこの泉代表のツイートに被せて、

その場に伝わったとは思えないですが、こういう弁明はどうなのか。(蓮舫氏のツイート/5月12日)

と追い打ちをかけて攻撃。泉代表も腹に据えかねたのか翌13日に、

なぜ同じ党の仲間であり、幹部経験者でもあるのに、こんな投稿をツイッターでされるのですか?やめませんか(現在は削除)

と応酬した。
 仮にも野党第一党の党首と、同じ政党でしかも前身である民進党代表だった人物が、この期に及んでツイッター上で罵り合っているのである。
 政策うんぬんの以前に、有権者がこの政党を政権交代可能な党だと見なせないのは、いつまで経ってもこうした幼稚なメンタルから抜け出せない体質に起因するのだろう。

もはや執行部は「死に体」同然

 両院議員懇談会では、リーダーシップの欠如した泉代表に対し、次期衆院選での勝敗ラインくらい示せという要求が出て、泉氏は「次の衆議院選挙で150を下回るようなことがあれば、私はこの立場ではない」と発言してしまった。
 泉代表は12日の記者会見でも、結局あらためてこのことを述べることになった。
 これを代表の並々ならぬ決意の表れと受け止め、党の団結にまい進しようなどと思う議員は党内にもいないはず。
 なにしろ、現状が97議席。150議席は現状の1.5倍である。しかも、現時点で擁立が決まっている候補者さえ140人程度。党の支持率は伸び悩み、誰がどう考えても150議席以上を獲得できそうな要素がどこにもない。
 むしろ、もうこれで泉代表の続投の目は完全になくなったというのが、党内外の共通した見方になっただろう。
 つまり、一部では年内にも解散総選挙がささやかれているような状況下で、泉代表が率いる執行部はもはや「レームダック」いわゆる「死に体」同然であることを自ら宣言してしまったに等しい。
 それでなくとも党内ガバナンスが利かず、他党とも協調できない執行部なのだ。今後は何を打ち出しても、党内からも党外からも相手にされなくなってしまうのではないか。

そしてまた〝立憲共産党〟の道へ

 泉氏は12日の会見で、昨年来の日本維新の会との共闘の終了も宣言した。

自民に対抗する姿勢が見られないなら、立憲として独自の道を歩いていく。自民と似通った考えでは政権選択の選択肢にならない(「朝日新聞デジタル」5月13日

 安住国対委員長は同日の会合で、「都合良く自民党の後ろをついていって、金魚のフンみたいになったら終わりだ」と日本維新の会を罵倒した。
 こういう余計なことを言わずにいられないところが本当に幼児性丸出しなのだが、エキセントリックなコア支持層にはウケるのだろうか。
 この12日、立憲民主党が日本共産党と10日に共同提出していた衆議院財務金融員会の塚田一郎委員長への解任決議案が、自民、公明、維新、国民の反対で否決された。
 この解任決議案は防衛力整備に必要な財源の特別措置法案審議をめぐって「当事者の声を聞くために、地方公聴会の開催を繰り返し強く求めているにもかかわらず、塚田委員長は質疑を打ち切って採決を強行しようとしており、国民不在の国会運営と断じざるを得ない」とするもの。

だが、同法案に関する審議時間は36時間超にも及び、論点に関する議論は尽くされていた。その上、野党が要求していた参考人質疑や衆院安全保障委員会との連合審査を複数回行うなど、与党は丁寧な委員会運営に努めてきた。委員長の解任を求める理由など全くないのは明白だ。あまりにも筋違いな解任要求に野党からも「くだらないパフォーマンスに乗る気はない」などと批判が続出した。(公明新聞「編集メモ」/5月13日)

 自民党の麻生太郎・副総裁は派閥の会合で「『立憲共産党』による演出だ。単なる時間稼ぎだ」と批判した。
 立憲民主党は、共通する政策や理念があって結集しているというよりも、本来は手段に過ぎない「政権交代」を叫ぶことそのものが自己目的化している政党だ。だからエキセントリックなコア支持層ばかりを見て、政治を前に進めることより「対決」姿勢に走りたがる。
 日本共産党との蜜月で創業者たちが退陣して1年半。結局、支持率は上がらないまま、どの政党とも合意形成ができず、新執行部は選挙前からレームダック化したうえに、今また〝第2共産党〟へと回帰していくのか。
 今後、これまで党内で冷遇されてきた勢力による主導権争いが激化し、ますます迷走していくことは必至である。

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