厳しさ増す安全保障環境と、日米韓の戦略的連携強化の必要性

ライター
米山哲郎

韓国・尹大統領と公明党・山口代表との会談を報じる公明新聞(1月4日付)

2023年における日本外交の責任

 2023年における、国際社会における日本の責任は極めて重い。G7議長国として5月に広島サミットを主催する。今年から2年間、国連安保理非常任理事国を務め、1月は議長国でもある。世界の平和と安定のため積極的に貢献する立場(※1)となった。
 世界を見れば、ロシアが核兵器の使用可能性を示唆したり、北朝鮮の核兵器開発も進むなど懸念は大きい。安保理での中国やロシアとの交渉は並大抵のことではないだろうが、唯一の被爆国として国際社会の平和と安全の維持のために大きな力を発揮してもらいたい。
 岸田首相は1月5日、政府与党連絡会議で、

我々の平和への強い意志を、歴史に残る形で世界に示したい

と力強く決意を述べた。そして1月9日からはフランス、イタリア、英国、カナダ、米国を相次ぎ歴訪、各国首脳と会談した。
 米国のバイデン大統領とは1月13日にワシントンで日米首脳会談。2022年年末に、日本は防衛力の抜本的強化を図る方針を決定してから初の首脳会談であり、ここでは日米同盟の一層の強化と自由で開かれたインド太平洋に向けた更に踏み込んだ緊密な連携を図ることを確認しあった。

(※1) 「安保理改選、日本が12回目の非常任理事国に」(「国際連合広報センター」)

軍事力を増強させる北朝鮮––対する日米韓結束の必要性

 日本の安全保障にとって北朝鮮の核・ミサイル開発は重大な脅威だ。2022年1年間で、北朝鮮は過去最多の37回、約70発の弾道ミサイルを発射した。また、核保有国宣言を行った。
 北朝鮮は2021年1月に決めた「5カ年計画」のもと、核・ミサイルの大幅な増強を続けており、次の目標は小型ミサイルに搭載できる小型化、軽量化した核弾頭を作ることと想定される。年末年始に発射された短距離弾道ミサイルはその実験とみられ、決してあってはならないが7回目の核実験も取りざたされている。
 北朝鮮は元日から韓国を核で脅した。朝鮮中央通信によると、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記は、韓国は現状では「われわれの明白な敵」になっているとし、韓国攻撃を念頭に置いた戦術核兵器を大量生産する必要性を示したという。
 一方、韓国は尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権発足以降、北朝鮮に対して毅然とした姿勢を鮮明に打ち出している。文在寅(ムン・ジェイン)政権期からの対北朝鮮政策は劇的に変化した。日韓両国は、北朝鮮対応については、日米同盟、米韓同盟、そして日米韓3カ国で結束して対抗する以外にない。尹政権も米韓同盟や日米韓安保協力を通じ、北朝鮮への抑止力を強化している。ウクライナでの戦争によって、国を守るためには一国だけではなく危機を共有する複数の国が結束して対処する必要性が確認された。今年、急がねばならないのが日韓両国の関係改善への取り組みである。
 日韓関係は、2012年の李明博(イ・ミョンバク)大統領の竹島上陸を機に悪化しはじめ、文大統領の時代の2018年には徴用工問題や安全保障問題(GSOMIA、レーダー照射など)の複数の問題が重なり、両国関係は最悪の関係に陥った。
 局面が変わり始めたのは、2022年5月に尹錫悦氏が韓国大統領に就任以降だ。尹大統領は、

日本は今や、世界市民の自由を脅かす挑戦に立ち向かい、共に力をあわせていかなければならない隣国(8月15日の光復節)

今後も『金大中(キム・デジュン)・小渕宣言』を継承し、速やかに韓日関係を回復させていく(8月17日の就任100日記念大統領演説)

と演説するなど、日韓関係改善へ強い意志を示している。
 韓国の内政に目を転じると、国会では最大野党「共に民主党」が単独過半数の議席を占める「ねじれ」が起きている。野党は22年9月、日本海で実施された日米韓共同訓練について「極端な親日行為」「日本を朝鮮半島に引き入れる自滅の手段」等と批判し、尹政権側と厳しく対立した。
 しかし尹大統領は、国会での施政方針演説で、

米韓連合防衛態勢と日米韓安保協力を通じ、圧倒的なキャパシティーで北朝鮮に対する抑止力を強化していく(22年10月25日)

(表1)2022年の日韓両国間の主な出来事

と演説し応戦した。尹大統領は様々な批判があるが、日韓関係の改善や日米韓協力の重要性を強調する姿勢は一切ぶれていない。関係改善を望む本気度がうかがえる。
 あまり知られていないパーソナルなことだが、尹大統領自身、日本との関係を持っている。実父の尹起重(ユン・ギジュン)氏は経済学者で、一橋大学大学院への留学経験がある。その当時、尹大統領自身も東京・国立市に1カ月ほど滞在した経験があったという。関係改善へ力を入れる背景に、若き日の日本での体験も影響がありそうだ。
 尹大統領就任前からの日韓関係における主な出来事を時系列で見ると、日韓首脳はじめ関係者が懸案を打開する努力を積み重ねていることがわかる(表1参照)。

日韓の「戦略的連携の強化」が重要

 こうした経緯の中、公明党は訪韓団を派遣した。山口那津男代表、浮島智子政務調査会副会長(衆院議員)、国重徹青年委員長(同)は2022年12月29日から31日までの日程で韓国を訪れ、尹大統領、朴振外交部長官ら韓国政府の要人らと会談、日韓関係の改善に向けて会談が行われた。山口代表の訪韓は2017年11月以来で約5年ぶりである。
 12月29日午後、ソウルの韓国大統領府にて、山口那津男代表と尹錫悦大統領との会見が行われた。この中で、山口代表は「韓国は地政学的にも日本の安全保障環境にとっても極めて重要な隣国」と語り、北朝鮮への対応などを念頭に、

安全保障面を含め、日韓・日米韓の戦略的連携を強化していくことが重要だ(「公明ニュース」

と述べた。
 これに対し、尹大統領は両国の安保協力を進めていく必要性などに言及し理解を示した。また、

日韓関係を最も良かった時期に早期に戻したい(同)

と語るなど、関係改善に向けた強い意欲を表明した。
 会談後、同席した国重衆院議員は、

希望を感じる、かみ合った会談

話が弾み、(会談時間も)当初予定の30分間が50分に延長

と自身の(ツイッター)に投稿した。会談後、山口代表は記者団に対して、

韓国側の日韓関係改善に向けた強い意志というものが、直接伝わってきたように我々は受け止めている

と述べた。尹大統領の真剣度が伝わってくる「日韓関係改善へのブレない意思」を直接確認できた意味は大きい。
 ただ、これまで韓国の歴代政権は政権支持率が落ちて来た時「反日カード」を切ってきた。次の韓国総選挙は2024年4月なので、23年の下半期になれば再び政局優先の対応も起きかねない。そう考えると、日韓の間で落ち着いて交渉できる期限は限られる。
 今が好機である。日韓両政府には大局たった判断を望みたい。一刻も早く両国の懸案される問題に道筋をつけ、関係を正常化させてシャトル外交(日本の首相と韓国の大統領が年1回相互訪問)を再開させる――首脳間の往来も実現させて、日米韓3カ国の連携を確かなものにしていくのが望ましい。

厚みのある外交には政党外交、議員外交が大事

 尹大統領は山口代表との会見の際、日韓関係における公明党の役割に言及した。韓国の主要メディアである「中央日報日本語版」によれば、

尹大統領は、日本の連立与党の一翼を担う公明党と山口代表が韓日関係の改善のために大きな役割を果たしてきたことを評価し、今後も韓国への格別の愛情と関心を持って取り組んでほしいと呼びかけた

と語ったという。
 公明党は、野党時代から韓国を重視し両国関係の深化のため取り組んできた。政党外交としては、韓日議員連盟所属の与野党議員とも長く交流し人脈を築いてきた。今回も鄭鎮碩(チョン・ジンソク)韓日議連会長らと両国関係について意見交換した。
 遡ること40年以上前のこと1980年代に、公明党の草川昭三衆議院議員が中心になって、韓国へ盲導犬を寄贈した運動や、4万人にも及ぶ在サハリン韓国人の離散家族再会・帰国の実現、そして、指紋押捺問題など在日韓国人の法的地位・待遇改善問題に取り組んだ。
 1999年10月、自民党との連立政権に参画して以降も、冬柴鐵三幹事長らが永住外国人への地方参政権付与問題にも取り組んできた。また、公明党は歴代党代表が韓国を訪問し大統領と会見(表2参照)、与党の立場から独自の外交を行い、時には政府外交を補完する政党外交を進めて日韓両国関係の橋渡しをしてきた。今後も、両国間の厚みのある外交を行っていくためにも政党外交で築いた人脈は活かされていくに違いない。
 山口代表と会見した朴振(パク・チン)外交部長官は、朝鮮通信使(日朝を結んだ外交使節団)に造詣が深いそうだ。折しも2023年のNHK大河ドラマは徳川家康が主人公だが、豊臣時代に途絶えた朝鮮通信使を朝鮮王朝との間で1607年に復活させたのが家康である。
 朝鮮通信使は、日本と朝鮮半島の交流は鎖国政策をとっていた江戸時代に約200年にわたって、絵画、工芸、楽器など多様な文化や技術を日本に伝えた。徳川幕府の外交資料「通航一覧」には「日本朝鮮和交の事、古来の道なり」「通好はたがいに両国の為なり」と記されている。現下の情勢を踏まえると、先人の言葉の重さを感じる。

(表2)1999年連立政権参画以降、公明党代表の韓国大統領とのソウルでの会談

 日韓関係はこれまでもギクシャクすることはあったが、そのつど両国の政治家らが水面下で動き意思疎通を図り打開してきた。しかし最近、そうした役割を担ってきた政治家も世代交代し、やや機能が弱まってきているのを懸念する。その意味では、長年交流を続けている公明党、公明党議員の役割はこれからも大きなものになるに違いない。

米山哲郎 関連記事:
近づく統一地方選挙――日本の未来を決する戦いが始まる
裾野市の保育園問題から考える政治の責任
厳しさ増す安全保障環境と、日米韓の戦略的連携強化の必要性
どうなる? LGBT理解増進法案

関連記事:
日韓関係の早急な改善へ――山口代表が尹大統領と会談
2023年度予算案と公明党――主張が随所に反映される
都でパートナーシップ制度が開始――「結婚の平等」へ一歩前進
書評『今こそ問う公明党の覚悟』――日本政治の安定こそ至上命題
若者の声で政治を動かす――公明党のボイス・アクション
雇用調整助成金の延長が決定――暮らしを守る公明党の奮闘
G7サミット広島開催へ――公明党の緊急提言が実現
核兵器不使用へ公明党の本気――首相へ緊急提言を渡す
「非核三原則」と公明党――「核共有」議論をけん制
避難民支援リードする公明党――ネットワーク政党の本領発揮
高まる公明党の存在感――ウクライナ情勢で明らかに
公明党〝強さ〟の秘密――庶民の意思が議員を育てる
ワクチンの円滑な接種へ――公明党が果たしてきた役割