年末年始の喧騒の中、外交面で一つの重要な出来事があった。連立与党の山口那津男代表ら公明党訪韓団が12月29日から31日、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領ら韓国政府要人らと会談したことだ。
前政権である文在寅(ムンジェイン)政権時代、日韓の関係は戦後最悪とまで言われるほど冷え込んだ。もっとも関係悪化は主に政治的なもので、それも韓国の国内政治事情に起因するものだった。
若い世代を中心に日韓相互の関心は深まっており、韓国では太宰治全集など日本文学の翻訳も次々に刊行されている。両国間の往来は2018年には約1000万人に達した。
2016年の熊本地震の際は、韓国空軍機2機が熊本に救援物資を届けた。コロナ禍で航空便が途絶えた2020年5月、白血病で緊急帰国が必要になったインド在住の韓国人女児のため、デリーの日本大使館は日本人帰国用の臨時便の席を空け、成田経由で韓国に帰国できるようビザを発給した。
周知のように日韓のあいだでは、植民地支配時代の慰安婦問題や徴用工問題が存在してきた。日本側の認識では1965年の日韓基本条約と請求権協定をもって、日本が経済協力することでこれらの問題は解決されたことになっている。
その後、1998年に小渕恵三首相(当時)と金大中大統領(当時)が交わした日韓パートナーシップ宣言で、日本側があらためて謝罪。韓国側も謝罪を受け止める一方、戦後の日本の平和国家としての歩みを高く評価した。金大統領は韓国の国内問題として徴用工問題の解決にあたることを述べている。
2015年には日韓外相会談で慰安婦問題についても「最終的かつ不可逆的な解決」を確認し合った。韓国出身の潘基文(バンギムン)国連事務総長(当時)や米国政府もこれを歓迎し、翌16年、日本政府は韓国政府が設立した「和解・癒やし財団」に対し10億円の拠出をおこなっている。
それが文政権時代に入ると合意が覆され、「和解・癒やし財団」も解散となる。2021年、ソウル中央地方裁判所は日本政府に賠償を命じる判決を出した。
2018年には徴用工問題でも韓国大法院(最高裁)が、日本製鉄(旧新日鉄住金)と三菱重工業に賠償支払いを命じる確定判決を出した。
さらに文政権は、日韓で2016年に締結した軍事情報包括保護協定(GSOMIA)についても2019年8月に一方的な破棄を宣言していたのだ。
日韓関係改善を確認し合う
2022年5月に発足した尹錫悦政権は、大統領選挙の時点から日韓関係の正常化を掲げてきた。
11月にカンボジアの首都プノンペンで3年ぶりに開催された日韓首脳会談では、岸田首相と尹大統領とのあいだで、徴用をめぐる問題の早期解決を図ることが確認された。
12月29日にソウルに到着した山口代表ら一行は、まず雑踏事故で159人が亡くなった梨泰院を訪問して焼香所に献花。事故現場でもあらためて犠牲者に追悼の祈りをささげた。
その後、大統領府で尹錫悦大統領と会談。当初予定を大幅に上回る約50分間の会談となった。山口代表は李明博、朴槿惠、文在寅の歴代大統領とも会見している。現在の日本の政党党首として歴代4人の韓国大統領と会見してきたのは山口代表だけだ。
尹大統領との会見は友好的な雰囲気でおこなわれ、安全保障のうえからも日韓関係の改善が重要だという点で一致した。尹大統領からは「日韓関係が最も良かった時期に早期に戻したい」との発言があった。
山口代表からは12月に日本政府が閣議決定した安全保障3文書改定についても言及があり、両者は安全保障面を含む日韓・日米韓の「戦略的連携」強化の重要性を確認し合った。
さらに2025年の大阪万博や文化芸術交流も話題になり、北朝鮮による拉致問題の解決について山口代表が協力を求めたのに対しても、大統領から日本の立場を支持する旨が示された。
韓国大統領府によりますと、ユン・ソンニョル大統領は、公明党の山口代表との会談で「両国間の人的交流のさらなる活性化に向けて、政府や国会レベルで努力していかなければならない」と指摘し、両国の関係改善に向けた取り組みを進めるよう求めました。
また、ユン大統領は、北朝鮮による相次ぐ挑発行為に触れ「韓日両国が緊密に安全保障面の協力を進めていくべきだ。それとともに、韓日関係の懸案が早急に解決されるよう、ともに努力しよう」と呼びかけました。(「NHK NEWSWEB」2022年12月29日)
公明党の外交は「特筆に値する」
山口代表ら訪韓団は、韓日議連の鄭鎮碩(チョンジンソク)会長、朴振(パクチン)外交部長官(外相)、柳明桓(ユミョンフォン)元外交通商部長官、申珏秀(シンカクス)元駐日韓国大使、韓日協力委員会の李大淳(イデスン)会長代行らとも会談。南北軍事境界線に近い鳥頭山統一展望台にも足を運んだ。
北朝鮮は大晦日にも短距離弾道ミサイル3発を発射するなど2022年は過去最多のミサイルを発射。2023年は元日未明から日本海に向けてミサイルを発射した。日韓が関係を正常化し緊密に連携することは、東アジアの安全保障のうえからも喫緊の課題となっている。
日韓関係の正常化については、韓国の前政権が一方的に政府間の合意を反故にしてきた経緯があり、日本政府としては「ボールは韓国側にある」という立場を譲れない。それでも11月には麻生副総理が訪韓して尹大統領と会見し、12月に山口代表が訪韓した。韓国内の政局で日韓関係をこれ以上歪めることは賢明ではない。
公明党はこれまでも独自の政党外交として諸外国と交流してきた。政府間の外交に加えて政党が外交を重ねることは、双方の意思疎通のチャンネルと交流を多層化する。とりわけ公明党の場合は政権与党であり、しかも自民党とは思想的背景や歴史も異なる。
公明党は弱者に寄り添う政治、核兵器のない国際平和の構築が党是です。その上で、幼児教育や高等教育の無償化推進から防災・減災対策、脱炭素社会に向けたクリーン・エネルギーの普及促進まで、幅広い社会課題に対して丁寧に取り組んでいることに注目しています。
中でも、平和の実現に挑む公明党の政党外交は特筆に値するでしょう。(ヴー・ホン・ナム駐日ベトナム社会主義共和国大使/『公明』2022年5月号)
日韓のあいだではコロナ禍で閉ざされていた人々の往来が徐々に回復しつつある。年末年始、日本の各地では待ち焦がれた旅行を楽しむ韓国の若者たちの姿がそこかしこで見られた。
今年は日本がG7議長国として広島でのサミットも開催する。袋小路に入っていた日韓の政治的関係が打開され、新しい時代が到来することを切に願う。
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