玉城デニー県政の災禍――沖縄各界から糾弾の声

ライター
松田 明

「政府は尽力してくれた」

 8月15日、沖縄県企画部統計課が「令和元年度県民経済計算の概要」を発表した。これによると1人あたりの県民所得は241万円で〝過去最高〟となった。
 ただし、これは手放しで喜べる数字ではまったくない。
 まず、全国平均(318万円)の4分の3で、あいかわらず47都道府県の最下位であること。
 もうひとつは、あくまで令和元年度(2019年4月~2020年3月)の数字であって、最終盤以外はコロナ禍の影響を受けていない時期の数字であることだ。統計課は、20年4月以降の数字については「下がるだろう」と見ている。

 沖縄の観光産業をリードする「かりゆしグループ」のオーナー会長であり、沖縄県ホテル協会会長などをつとめる平良朝敬氏が、沖縄県の経済と政治の厳しい現状と今後の展望について月刊誌『第三文明』9月号に心情を吐露している。
 前々回2014年の沖縄県知事選では、保革の垣根を超えた「オール沖縄」が翁長雄志氏を支援し、政治の側は赤嶺昇氏(現・沖縄県議会議長)が、経済界は平良氏が取りまとめた。
 2015年から19年まで沖縄観光コンベンションビューローの会長もつとめた平良氏が、翁長知事のもとで注力したのは観光振興だった。
 日本政府が2016年に2030年の訪日外国人数として6000万人をめざすと設定したのを受け、平良氏は沖縄県への外国人旅行者を800万人まで増やすと決め、那覇空港第二滑走路などインフラ整備を日本政府にも要請した。

 日本政府に対しては、普天間基地の辺野古移設に関する批判的な言説が溢れていましたが、とりわけ安倍晋三首相(当時)と菅官房長官のタッグは、沖縄の発展を考えてくださっていたように思います。第二滑走路の完成や名護東道路の延伸を前倒しするなど、沖縄の振興に尽力してくださったのです。(『第三文明』9月号/平良朝敬氏)

リーダーシップの欠如

 だが、翁長県政を誕生させた「オール沖縄」勢力のなかで、平良氏はほどなく革新陣営の実態に失望する。

 共産党が主導権を握る革新陣営は沖縄の発展や県民の暮らしなどは考えず、基地反対だけに固執しています。それでいて選挙になると、「観光に力を入れる」などと言う。ところが、彼らは普段観光のことなどまったく考えていませんので、具体的にどうするかを議論しようとしてもできません。(同)

 沖縄社会大衆党と社民党が日本共産党に逆らえず、県政が共産党の「言いなり」になっている実態に、2018年、平良氏はついに「オール沖縄」を離れた。
 この2018年、任期満了目前だった翁長知事が病死。今度はやはり「オール沖縄」が支援する玉城デニー氏が知事の座に就いた。ところが、ここから不運と困難が続く。
 2019年10月には沖縄の象徴であった首里城が火災で焼失。20年1月には34年ぶりに伝染病である豚熱が発生して畜産業が大打撃を受け、同時に新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まった。20年度の沖縄県の観光客数は前年度の3分の1以下に落ち込んだ。
 平良氏は、沖縄の場合は玉城デニー知事の失政やリーダーシップの欠如が、より大きな困難を招いたと指摘する。

 象徴的だったのは、国内観光客への来県自粛の要請と、県民に不要不急の外出自粛を要請している最中に知事自身がバーベキューをしていた問題です。来県自粛の要請は、リーディング産業である観光産業の首を、知事自身が絞めるような施策でした。リーダーシップの欠如は、県庁職員のやる気を削ぎ、行政の停滞を招いています。玉城知事には、ビジョンややる気だけでなく、県政への関心すらない。(同)

露呈した失政の数々

 この平良氏の厳しい言葉を裏付けるように、沖縄県は医療のひっ迫が指摘され続けながら、ワクチン接種が全国でもっとも進んでいないのだ。
 デジタル庁が公開している都道府県別の接種率(「新型コロナワクチンの接種状況」)では、1回目接種から4回目接種まで沖縄県が突出した形で「ワースト1位」になっている。
 沖縄県は人口密度の高さ、若者人口の多さに加え、有配偶率が低く住民の3分の1が配偶者を持たずに高齢者になっている。その結果、外出自粛を呼びかけても、男女を問わず誰かと一緒に外食する高齢者が少なくない。

こういう独居の方々が多いことも、沖縄における感染の広がりやすさの原因になっていたと、臨床現場にいながら感じています。(高山義浩・沖縄県政策参与、沖縄県立中部病院医師の日本記者クラブでの会見/2021年10月29日)

 こうした構造的な要因があるにもかかわらず、県によるワクチン接種情報の周知が十分にできていないのだ。昨年9月8日の毎日新聞は、若者向け優先接種を開始したものの利用者が少ない実態を報じ、「周知に課題を残した」と指摘している。
 危機管理能力の欠如を露呈するかのように、本年6月には県の手続きミスで国からの交付金が10億円余り減額する事態が発覚した。

県では財政面での手続きの不備が相次いでいる。(『琉球新報』6月2日

 さらに玉城知事自身が新型コロナに感染。任期最後の県議会となる6月の例会は、知事の公務復帰にあわせて、会期の日程が延長された。

「玉城県政による人災」

 コロナ禍が始まって以来、玉城知事の能力のなさへの危機感が広がり、昨年5月には玉城氏を支えてきた赤嶺昇県議会議長が県会の自民党会派や公明党会派と共に、県のコロナ対策本部長を玉城知事から副知事に交代させるよう要望書を提出した。
 赤嶺氏は玉城氏が衆議院議員だった時代から陣営の事務局長をするなど中心となって支えてきた人物だ。その赤嶺氏すら、玉城デニー知事に見切りをつけたのだ。

 ここまで沖縄県でコロナの感染が拡大したのは、玉城県政による人災だと思うからです。人口10万人あたりの感染率でかなりの期間にわたって全国ワーストが続き、リーディング産業の観光業をはじめ沖縄県の経済に壊滅的な打撃をもたらしましたが、これは玉城県政の後手後手の対応が招いたものです。(「HUB沖縄」2021年10月12日

 赤嶺氏は昨年9月、所属会派から離脱し「オール沖縄会議」にも脱退を通知した。かつて「オール沖縄」を支えた経済界・政界の中心者が、今やそろって「オール沖縄」と訣別し、玉城県政の失策を手厳しく批判している。
 前述の平良氏は「いつまでも県民は騙されません。革新陣営の衰退は時間の問題でしょう」(『第三文明』9月号)としたうえで、保守陣営にも警鐘を鳴らした。

 9月に行われる知事選も含め、今後の沖縄の保守陣営は、「国とパイプがある」や「国の予算を確保できる」といったフレーズだけでは県民の支持は得られないはずです。経済が疲弊したのはなぜか。何をすれば回復するのか。確保した予算を何に使うのか。そうした明確なメッセージを発する必要があります。(『第三文明』9月号)

 さらに世界に平和を渇望する声が強くなっている現下の情勢に触れ、

平和なくして観光はあり得ません。その点は、平和を希求する公明党に、国政における政権与党の中でしっかりとグリップを利かせてもらいたいと思います。かつて大平正芳首相は、「楕円の理論」を説きました。国や社会は円のように中心が1つであるよりも、楕円のように中心が2つあったほうが安定するという考え方です。自民党と公明党には、そうした関係を期待しています。(同)

と語っている。
 国との対決しか興味のない日本共産党に操られた「オール沖縄」と、それがもたらした「ワースト1位」の玉城デニー県政。任期満了に伴う沖縄県知事選(8月25日告示、9月11日投開票)では、県民自身の手で負の連鎖を断ち切る必要がある。

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