広島に「人間主義」の勝利を――政治腐敗と訣別する戦い

ライター
松田 明

佐藤優氏が申し込んだ対談

 公職選挙法違反容疑で逮捕され公判中の河井克行被告。2017年の衆議院選挙で広島3区から自民党の公認候補として当選。逮捕前の2020年6月17日に妻の案里被告とともに自民党を離党している。
 次の衆議院選挙は、任期満了となる2021年10月21日までに確実におこなわれる。
 さる2020年11月19日、公明党の斉藤鉄夫副代表が、この広島3区から立候補することを正式に表明した。
 月刊誌『第三文明』2021年2月号では、作家の佐藤優氏の要請に応じた形で斉藤副代表との「緊急特別対談」が掲載されている。

佐藤 私からすぐにこの対談を申し出ました。日本のために、斉藤さんを応援しなければならないと思ったからです。(以下、引用記載ないものはすべて同号の対談より)

 佐藤氏は、公明党は連立政権のなかで「与党内野党」の役割を果たしている面があると指摘する。
 たとえば集団的自衛権の問題のように、自民党が極端なことをやろうとした場合に「大衆の立場」から軌道修正をかける。あるいは、野党の提案でも建設的なものは吸収し、政策に生かす。
 この8年の自公政権が、国際社会の平和と安定に大きく寄与してきたことは各国首脳もそろって評価している。一方で、教育無償化や働き方改革などリベラルで社会民主主義的な政策も大きく実現してきた。

今こそ政治腐敗との訣別を

佐藤 ただし、そんな公明党でも、手の打ちようがないことがある。それは、桜を見る会や、元法務大臣の河井克行夫妻の選挙違反事件といった自民党のスキャンダルです。
(中略)
 一部では公明党の票に頼らなくても自民党は勝てるといった声があります。この発想の何が間違えているかというと、公明党や支持母体の創価学会を単なる数としか見ていない点です。そうじゃない。大切なのは価値観なんです。広島3区については、政治腐敗との訣別。これは公明党の結党の理念でもある。その価値観を守るための決定的な戦いになると私は見ています。

斉藤 最も大切なところに触れていただきました。実は、私が今回、広島3区から挑戦させていただくことになったのは、支持者からの声が発端でした。党の中央で決断したというわけではなく、現場からの声で事態が動いたのです。

 佐藤氏が指摘し、斉藤氏が認めたように、公明党とその支持者にとって譲れない価値観が「政治腐敗との訣別」なのである。
 2017年の衆議院選では、連立を組む友党として公明党も河井克行氏からの要請で推薦を出した。だが法相という地位にまで就いた河井氏が、妻の選挙で露骨な選挙違反をしていた事実が判明。この公判でも次々に生々しい証言が飛び出している。
 公明党支持者としては、ふたたび広島3区から自民党の候補者が出ても、とてもではないが心から応援できない。

 17年衆院選で約8万3000票を得た河井氏が、次点の野党系候補とつけた差は約2万1000票だった。公明党はこのとき河井氏を推薦しており、票の上積み効果は約2万票とされる。(「毎日新聞電子版」12月8日

佐藤 今回、支持者の方々の怒りは相当なものでしょう。(中略)我慢には限界があるわけです。自民党にはこの現実に気づいてほしいと思います。

核禁条約を批准するべき

 斉藤副代表は超党派でつくる「在外被爆者に援護法を適用する議員懇談会」の会長でもある。これまでも、海外にいる被爆者の支援に向けて先頭に立って奮闘してきた。
 佐藤氏は、広島3区において斉藤氏が勝たなければならない、もうひとつの理由として、核廃絶が公明党の一貫した理念であることを挙げている。

佐藤 核兵器禁止条約を日本が批准していないことを批判する人は多い。しかし、日本は現実的にアメリカやロシア、中国に対して条約への批准を働きかけた上で、自国も批准するという方針を取っています。つまり、自国の体裁だけを気にするのではなく、条約を実効性のあるものにするために汗をかいている。日本のこの方針は、公明党の方針そのものだと思います。

 これに対し、斉藤氏は自身が広島の地から挑戦することに関して、胸の内を吐露している。

斉藤 被爆者の思いを政治の場で代弁する。そして被爆者の願いである核兵器廃絶を実現する。それが、広島選出の公明党議員の大きな使命だと思っています。党内で議論する必要はありますが、私は次期衆院選において、新たな流れを作るためにも、日本も核禁条約を批准するべきだと主張させていただこうと考えています。

 原爆ドームは1996年に世界遺産に登録された。時期尚早といった声が多かったなかで、広島の国会議員として登録に尽力したのが斉藤氏だった。

佐藤 今、核兵器廃絶を一貫して主張している政党は公明党以外にありません。旧社会党も言っていましたが、今や後継の社民党の存続自体が危ぶまれています。共産党はかつて、社会主義国の核実験は構わないと主張していました。それが今では、一貫して核兵器に反対してきたと言っている。極めて欺瞞的です。公明党には、人間主義や生命尊厳といった価値観があるからぶれない。他方、共産党の判断基準は革命のために役に立つかどうかですから、どうしてもぶれてしまうのです。

核廃絶の「土壌」を用意しておく

 佐藤氏は朝日新聞のインタビューで、次のように指摘している。

 日本政府は核禁条約に非常に冷ややかだとの見方がありますが、核廃絶に向けて少しずつシフトが始まっています。自公連立政権の中で、核廃絶は意外と大きいウェートがある。核廃絶は創価学会の絶対的な真理です。いけないものはいけないと。その意味でも、核禁条約は非常に大きな意味を持ちます。(「朝日新聞デジタル」12月11日

 かつて冷戦時代に米ソが中距離核戦力全廃条約を結んだ際も、国際社会には〝そんな条約が実現するはずがない〟という冷笑があった。
 しかし、レーガンにもゴルバチョフにも核の脅威へのリアルな認識があった。だから、不可能と思われていた条約が締結された。

 政治エリートたちの良心をあまり過小評価しない方がいい。あるきっかけで転換というのは可能になる。ですから、その土壌を常に作っておくことが重要です。(同)

 佐藤氏は朝日新聞のインタビューの締めくくりで、核兵器禁止条約は価値観と関わってくると述べ、その根っこにあるのはヒューマニズムだと語っている。
 来る衆議院選挙では、河井氏の選挙区であった広島3区は注目区になる。したがって、望むと望まざるとにかかわらず「与党ⅤS野党」の対決の構図になる。
 公明党の重鎮が引き続き与党の議席を守るのか。共産党の支持を受ける立憲民主党の新人が批判票を集めることに成功するのか。
 それは「安定か混乱か」の選択になるだけではない。核廃絶へ世界の流れを変えていくために、広島からどのようなメッセージと働きかけができるかという現実的な選択にもなる。

佐藤 選挙は戦いですから、絶対に勝たなければなりません。しかも、今回は価値観の戦いです。腐敗政治を根絶し、平和を真に実現する。これが重要なんです。
 自公連立に関して言えば、この戦いはもはや広島3区だけの問題ではなく、連立の根本にかかわる問題です。公明党と連立を組むことの意味とは何なのか。どうして公明党が広島3区に候補者を立てたのか。自民党には、ここのところを正確に認識してほしいと思います。

【特別対談】佐藤 優 × 斉藤 鉄夫 ~広島発、人間主義の政治のあり方~(第三文明社channel)

「2020年の政治をふりかえる」:
2020年の政治をふりかえる(野党編)
2020年の政治をふりかえる(与党編)

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