『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第82回 正修止観章㊷

[3]「2. 広く解す」㊵

(9)十乗観法を明かす㉙

 ⑥破法遍(10)

 (4)従空入仮の破法遍②

 十乗観法の第四「破法遍」のなかの従空入仮の破法遍の説明を続ける。この段は、入仮の意、入仮の因縁、入仮の観、入仮の位の四段に分かれるが、今回は、第三の入仮の観が、病を知る、薬を知る、薬を授けるという三段に分かれるなかの薬を知る段落から説明をする。

 ③入仮の観(2)

 (b)薬を識る

 冒頭に、病の様相が無量であるので、薬も無量であると述べ、この薬を世間の法薬、出世間の法薬、出世間上上の法薬に三分類している。出仮(入仮)の菩薩は、この三種の薬を明確に知って、衆生を救済しなければならないとされる。 続きを読む

芥川賞を読む 第51回 『共喰い』田中慎弥

文筆家
水上修一

土着的世界の中で描かれた血と性の濃密な物語

田中慎弥(たなか・しんや)著/第146回芥川賞受賞作(2011年下半期)

確かな生の手触り

 第146回の芥川賞は、W受賞であった。前回紹介した円城塔の「道化師の蝶」と、今回取り上げる田中慎弥の「共喰い」である。「道化師の蝶」があまりにも難解で小説を味わう以前のところで頭を抱えたことに対して、「共喰い」は安心してその作品世界を堪能できた。前者が、選考委員の判断が分かれた実験的作品だとすれば、後者は、ほとんどの選考委員が高い評価を与えた古風な肌触りのする純文学である。
 舞台は下関の田舎町。主人公の遠馬(とおま)は17歳の男子高校生。異臭が漂う薄汚れた川が舞台の中心に流れている。川べりで魚屋を一人で営む実母は、捌いた魚の内臓をそのままその川に廃棄する。それを餌として集まるうなぎを釣るのが遠馬の楽しみ。遠馬が暮らすのは、その実母の家ではなく、近くにある父と義母の暮らす家。父と実母が別れた原因は、父の異常な性癖だった。 続きを読む

連載「広布の未来図」を考える――第4回 宗教者の政治参加

ライター
青山樹人

戦後、多くの教団が政界進出

――今回は「政治と宗教」について、多くの人が抱いている疑問などにも触れながら、ていねいに考えていきたいと思います。
 まず、日本では多くの人が、宗教団体が政治に接近することに警戒心を持っているように思います。なかには、「憲法違反」だと思い込んでいる人もいます。

青山樹人 おっしゃるとおりですね。「政治」も「宗教」も、一般的には話題から避けることが多い。だから、よけいに不信感や不安感が強まるのかもしれません。
 私はこういう問題こそ、友人や家族と折に触れて語り合うことが必要だと思っています。その場合も、なにか説得しようとか、論破しようとかいうような姿勢ではなく、〝一緒に考えていく〟態度が大切だと思います。

 民主主義の社会というのは、異なる思想信条、価値観、信仰などを持った人々が共存していこうとする社会です。これが大前提ですよね。
 もし特定の思想信条や価値観、信仰が排除抑圧されてしまうのであれば、それはもはや独裁国家、権威主義国家になってしまいますから。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第81回 正修止観章㊶

[3]「2. 広く解す」㊴

(9)十乗観法を明かす㉘

 ⑥破法遍(9)

 (4)従空入仮の破法遍①

 すでに述べたが、「広く破法遍」を明かす段落は、竪の破法遍、横の破法遍、横竪不二の破法遍の三段落に分かれている。最初の竪の破法遍を説く段は、さらに従仮入空(空観)の破法遍、従空入仮(仮観)の破法遍、中道第一義諦に入る(中観)破法遍の三段落に分かれている。これまで従仮入空の破法遍について説明してきたが、ここからは従空入仮の破法遍を説明する段である。この段は、入仮の意、入仮の因縁、入仮の観、入仮の位の四段に分かれる。 続きを読む

連載「広布の未来図」を考える――第3回 宗教を判断する尺度

ライター
青山樹人

――「政治と宗教」への人々の懐疑や批判的な声が続いています。そのうえで前回は、むしろこれをコミュニケーションのチャンスと捉えるべきだという話が出ました。

青山樹人 これは、とても大事な視点だと思います。むろん、誰でも自分が一番大切にしているものを土足で踏みにじられれば、黙っていられませんよね。その心情は当然でしょう。
 また、幾百万人の信仰に関わる悪意のデマに対しては、やはり黙していてはいけない。

 池田先生は『新・人間革命』で、日蓮大聖人が常に電光石火の言論戦に徹していた姿に触れ、

 黙っていれば、噓の闇が広がる。その邪悪を破る光こそ、正義の言論である。(第8巻「清流」の章)

 「一」 の暴言、中傷を聞いたならば、「十」の正論を語り抜く。(同)

と綴られています。
 まして現代はSNSの時代です。誤情報や悪意のデマが瞬時に広がる。だからこそ「電光石火」のスピードで、真実の情報を繰り返し発信していく必要があります。 続きを読む