「多党制時代」の日本政治(下)――公明党と支持者の課題

ライター
松田 明

「地中深く打ち込まれた杭」

 かつて公明党のことを「地中深く打ち込まれた杭」と評した政治学者がいた。
 公明党の最大の強みは、やはり全国津々浦々で地域に根を張った支持者がいることである。
 その支持者は公明党を信頼して支持するので、公明党はポピュリズムに流されることをかなりの部分で回避できる。

 世のなかが気分で大きく揺らぎ、政治の液状化が起きるような場面でも、公明党はその地中深い杭があるので、中長期的な視点に立った政策を掲げることができるのだ。
 公明党が20年以上も連立政権の一員として機能できているのも、この「地中深く打ち込まれた杭」があるからだ。

 今でも公明党の支持層のことを「低所得者層」「低学歴層」と決めつけるようなバイアスのかかったジャーナリストや学者がいる。
 熱心な支持層が庶民・大衆であることは事実としても、たとえば主要な支持組織の創価学会の構成員は今ではきわめて多様化している。
 そのことは近年に公明党がリクルートしてきた若手議員たちの、相当にハイスペックなキャリアを見てもわかることだ。 続きを読む

「多党制時代」の日本政治(上)――参政党を躍進させたものとは

ライター
松田 明

「石破おろし」と「石破支持」

 参議院選挙から1カ月が経った。衆議院でも参議院でも与党は過半数を割り、さりとて与野党ともに、どの党も1党だけでは何も決することができない。しかし、議会に影響力を持つ〝有効政党〟の数だけは過去最高水準になっている。
 さまざまなメディア、あるいは識者らは日本が「二大政党制」よりもヨーロッパ型の「多党制時代」に入ったことを論じている。

 自民党内では衆院選、都議選、参院選の〝3連敗〟を受けて、「石破おろし」の動きが活発化している。ところが、興味深いことに自民党支持者も含め、世論の過半数は今のところ石破首相の退陣には否定的である。

 朝日新聞社が8月16、17の両日に実施した全国世論調査(電話)で、参院選の結果を受けて石破茂首相は辞めるべきか尋ねたところ、「辞めるべきだ」は36%(前回7月調査41%)で、「その必要はない」が54%(前回47%)と過半数を占めた。内閣支持率は36%と前回29%から上昇し、今年2月調査の40%に次ぐ水準まで回復した。ただ、不支持率は50%(前回56%)と、支持率を上回る状況が続いている。(「朝日新聞デジタル」8月17日

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『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第94回 正修止観章 54

[3]「2. 広く解す」 52

(9)十乗観法を明かす㊶

 ⑨助道対治(対治助開)(1)

 今回は、十乗観法の第七、「助道対治」(対治助開)の段について説明する。十乗観法については、前の観法が成功しない場合に、次の観法に移るという流れとなっているので、ここでも、第六の「道品調適(どうほんじょうじゃく)」が成功しない場合に、「助道対治」が必要となるということである。
 この段の冒頭には、

 第七に助道対治とは、『釈論』に云わく、「三三昧は一切の三昧の為めに本と作(な)る」と。若し三三昧に入らば、能く四種三昧を成ず。根は利にして遮無くば、清涼池に入り易し。対治を須(もち)いず。根は利にして遮有らば、但だ三脱門を専らにするに、遮も障(さ)うること能わず。亦た助道を須いず。根は鈍にして遮無くば、但だ道品を用(もっ)て調適(じょうじゃく)するに、即ち能く鈍を転じて利と為す。亦た助道を須いず。根は鈍にして遮重くば、根は鈍なるを以ての故に、即ち三解脱門を開くこと能わず、遮の重きを以ての故に、牽(ひ)いて観心を破す。是の義の為めの故に、応に治道を須いて遮障を対破すべし。則ち安隠に三解脱門に入ることを得。『大論』に「諸の対治は是れ門を開くを助くる法なり」と称するは、即ち此の意なり。(第三文明選書『摩訶止観』(Ⅲ)、近刊、頁未定。以下同じ。大正46、91上5~14)

と述べられている。 続きを読む

連載「創価教育の源流」を学ぶ

創価大学池田大作記念創価教育研究所 客員研究員
塩原將行

第1回 創価教育学を生み出した牧口常三郎の教育実践 [前編]

 2024年7月から2025年1月にかけて、創価学会教育本部主催で、創価大学池田大作記念創価教育研究所の塩原將行客員研究員を講師に迎え、「創価教育の源流を学ぶ」と題した勉強会が開催されました(全6回)。
 教材となったのは、第三文明社刊の『評伝 牧口常三郎』、『評伝 戸田城聖』上下巻などです。
 その勉強会の要旨を、最新の研究成果を交えてお伝えした月刊『灯台』の連載をWEBで公開します。
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芥川賞を読む 第58回 『火花』又吉直樹

文筆家
水上修一

お笑い芸人を題材とした青春小説

又吉直樹(またよし・なおき)著/第153回芥川賞受賞作(2015年上半期)

芸人という人種の切なさ

 お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹の小説「火花」が芥川賞を受賞したのは、社会的事件と言えるものだった。2015年上半期の芥川賞の選考会は同年7月に行われたが、3月発売の文芸誌『文學界』に同作品が掲載された時点で大反響を呼び、文芸誌には珍しい大増刷の結果60万部もの売り上げに繋がったのだ。しかも、純文学の文芸誌なのに、購読者のほとんどが10代という異例の大ブームとなった。
 こうした加熱するマスコミ報道があったためか、選考委員の中にはそうした風潮に身構えた者もいただろう。実際、選考委員の宮本輝は、

マスコミによって作られたような登場の仕方で、眉に唾のような先入観さえ抱いていた。しかし読み始めると、生硬な「文学的」な表現のなかに純でひたむきなものを感じ始めた

と述べているように、選考委員の多くは、純粋に文学作品として評価に値すると感じたからこそ芥川賞受賞に至ったのだろう。 続きを読む